今回の困ったおじさんは「理想郷おじさん」です(イラスト:ずんずん)

会社がつらい、辞めたい……。そう思う人は、仕事そのものというより、職場の人間関係で行き詰まっていることも多いかもしれません。自分自身に原因があるとは限りません。会社のあちこちに生息する「困ったおじさん、おばさん」に追い詰められていることも。
そんな恐るべき現場を数多く見てきたのが、元外資系OLでコラムニストのずんずんさん。この連載では、そんな彼らの生態を解き明かし、対策も考えていきます。

こんにちは!ずんずんです。桜は散っちゃいましたが、春満開ですね!

新入社員の方々におかれましては、新生活おめでとうございます。
イケてるビジネスパーソンが読む東洋経済オンラインを読んでいれば、同期を出し抜いて、出世しまくるに違いありません。さあみんな、読もう!


ずんずんさんによる新連載。この連載の一覧はこちら

……いいか小僧ども、ヨイショってこうやってやるんだぜ。

さてはて、夢と期待に心躍る新社会人生活ですが、上司が週末に部署でのBBQをやるぞって言ってきたりしたら……。え? 週末なのになんで仕事の人と会わなきゃいけないの?って思いますよね?

そんなイベントを、有無を言わさぬ「圧」で強要してきたとしたら……もしかしたらそのおじさんは、理想郷おじさんかもしれません。

本日の困ったおじさんはエントリーナンバー7「理想郷おじさん」です。

自分の部署は理想郷?

理想郷おじさんとはその名の通り、自分の部署を理想郷と信じているおじさんのことです。このおじさんはあなたの肩にポンと手を置いて、

「俺の部署で働くのって楽しいだろ?」

的に、キラっと白い歯を見せてきます。

実際に彼の部署で働くことが楽しいのならば何も問題がないのですが、実際のところはそんなことはありません。

むしろ、全然楽しくないんです。

なぜなら理想郷おじさんは、自分の理想を強要してくる暴君だからです。
だからこそ、このおじさんの下で働く部下にとっては大問題なのです。

私もこの理想郷おじさんには、外資系投資銀行時代に勤めていたころ、よく悩まされていました。毎日ジムに行って自らを鍛えている理想郷おじさんは、日サロに通ってんのかよっていうぐらい色が真っ黒です。

部下を愛し、部下に愛されていると疑わないおじさんは、よく部署の親睦を図るために、イベントを催してくださいました。そう、それも週末に……。

なぜ会社の人と週末に会わなければいけないのか……疑問に思いながらも部署の人間たちは参加しました。みんな心の中では余暇は自分のために使いたい!と叫んでいるのですが、後述しますがこのイベントに参加しないと、大変なことが起こるのです……。

この理想郷おじさんが開催するイベントは、花見、BBQ、旅行と多岐にわたりました。

そして一番印象に残っているのは、このおじさんの誕生日会の話です。このおじさん、自分の誕生日の時は毎年自分の家でホームパーティを開催しているのです。そこで部下は、彼を接待するために余興として踊らなければいけないのです。

学校の授業で習ったダンスのスキルは、こういうところで使われるのだと私はこの時学びました。私たちは、仕事終わりにダンスの練習をすることになったのです。深夜まで踊りますからね。もう体はボロボロです。

そして、誕生日会当日、私たちは無事AKBを踊りきりました。AKBというところが時代を感じさせます。

理想郷おじさんはご満悦ですが、私はどうも釈然としません。

彼はこの部署のキング

なぜ、私たちはここまで彼のためにしなければいけないのか……そこで私は気づいたのです。彼はこの部署のキングであり、私たちはキングに仕える下僕なのだと……。

このイベントに出席しないものは、キングダムの最下層になるのです。そして、仕事で激ツメされるのです。激ツメといっても何か仕事が間違っていたとかいうことでツメられるわけではありません。それこそ、おじさんの気分次第なのです。

たとえば、おじさんの承認が必要な稟議など回しても、

「俺は聞いてねぇぞ!」

と、前もって説明していたとしても怒鳴りだし、詳細をメールで送っていたとしても、

「忙しいんだから、こんなメール見てる暇ねぇよ!」

と言ってくる始末です。これはたまったものではありません。

しかも、「もうあの上司の下で働くのがつらい……こんな部署……異動したい……」とポロっとランチタイムなどに同僚に漏らしたら、大変です。おじさんに近づこうと、部署の中に、

「あいつがこんなことを言ってましたぜ」

とさりげなく言いつける輩がいたりするのです。

すると、どんなに上司のお気に入りであったとしても、形勢は一転。みんな仲良しの理想郷に見せかけたこの世界(※部署)は、

恭順か死か

の恐るべき世界だったのです。

私は恭順を選び、めっちゃヘイコラしていましたが、ストレスがたまる一方です。

この理想郷おじさんは、上への覚えがなぜかよく、その地位は盤石なものかと思われました。しかしそんな中、このおじさんを歯牙にもかけない部下の男性がいました。

ここでは仮に中村さんとしましょう。

華麗にスルーする豪の男、中村さん

彼はイベントには一切参加せず、理不尽につめられても華麗にスルーする豪の男です。なぜなら彼はめちゃくちゃ仕事ができたのです。この理想郷おじさんも仕事ができたといえば仕事ができたのですが、細かいところまで見えないおじさんでした。

しかし、中村さんは非常に細かい男でした。ミスを事前に見抜き、中村さんに仕事を任せれば1000手先まで見える……そんな男だったのです。この理想郷おじさんが理想郷を築けているのも中村さんあってのことと言えたでしょう。それがゆえに中村さんはこの理想郷の治外法権的存在だったのです。

理想卿おじさんは、己の理想郷を築くために長い年月の努力をしてきました。ちょっと努力の方向性は間違っているかもしれませんが、彼はその努力の結晶である自分の部署を自分なりに守ろうとしています。

理想郷おじさんの支配から逃れるには、その理想郷に欠かせない存在になるために圧倒的な実力をつけるしかありません。

しかし、週末イベントには出ないとはいえ、日常的には中村さんは理想郷おじさんにいいように使われている状態です。そんな状態をなぜ中村さんは受け入れているのでしょうか。気になった私は何気なく聞いてみました。

すると中村さんは「今の仕事が嫌いではないから」と答えたのです。

これってちょっと深いなと思ったんですね。

中村さんは理想郷おじさんに振り回されることは、他人に人生をゆだねることと知っていたのかもしれません。だからこそ、自分ができることのベストを尽くし続けて、自分の地位を作り上げていけたのでしょう。

それから数年して、理想郷おじさんは早期リタイアしました。もしかしたらリストラされたのかもしれません。今は中村さんがマネジャーだそうで、もしかしたら中村さんはこれを狙っていたのかもしれませんね。

中村さんはきっと理想郷は作らず、淡々と部下をしごいていくことかと思います。

といったところで今日は失礼します☆