保険会社の営業職の平均給与を確認すると見えてくること(写真:xiangtao / PIXTA)

営業が強い保険会社はどこか?


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営業が強い保険会社はどこなのだろうか……。先日「保険に入るのなら、トップセールスの人にお世話になりたい」と言うお客様とお会いした際、浮かんだ自問です。一般に営業担当者の報酬は、新契約を獲得する力に大きく左右される体系です。そこで、営業職の給与を開示している保険会社のディスクロージャーを調べてみることにしました。「平均給与」を確認すると見えてくることがあるのではないか、と考えたのです。

2016年度の実績は表のようになりました。ただし、あくまで参考にとどまることをお断りしておきます。給与額は、当該年度の税込み平均と、年度末である3月の税込み平均を表記している会社が混じっています。また、賞与や時間外手当は含まれていないので、年収での比較も不可能です。さらに代理店についてもデータがないため、たとえば、保険ショップの人たちなどは対象になっていません。

単位:千円会社名平均給与プルデンシャル1458東京海上日動あんしん749損保ジャパン日本興亜ひまわり668ソニー653メットライフ629三井住友海上あいおい453大同389アクサ312三井298日本295かんぽ292マニュライフ284第一265明治安田257住友254太陽230富国224朝日156

一見してわかるのは、外資系、損保系会社の平均給与が高いことです。この点については、転職組の男性セールスが多い外資系や損保系の保険会社では、当初の1〜2年間、大手生保などより高額の固定給を保証していることが関係しているかもしれません。

たとえば、トップのプルデンシャル生命は1988年から営業を開始していますが、ライフプランナーの平均勤続年数は9年です。2007年から2016年までの10年間の採用者数4834名に対し、在籍者の増加は1049名です。2位の東京海上日動あんしん生命も1996年開業で、平均在籍年数は約8年です。

国内大手生保などでは、計算上は5年間で全員が入れ替わるくらい、人材の離脱が激しい営業部門にあって、外資系や損保系の会社では、1〜2年間、退社しない人が多いことが、単年度や年度末月で算出した平均値を上げる一因になっているのではないか、と推察されるのです。

MDRT会員であるかどうか

参考といえば、トップセールスの世話になりたい人は、営業担当者がMDRT(ミリオンダラー・ラウンド・テーブル)会員であるかどうかを確認する方法もあるかと思います。

一般社団法人MDRT日本会の公式サイトでは、同会について次のように紹介されています。「1927年に発足した Million Dollar Round Table (MDRT) は世界69の国と地域の500社以上で活躍する、62,000名以上(2017年7月現在)の会員を有する、卓越した生命保険と金融サービスの専門家による国際的かつ独立した組織です。(以下略)」

認知度に関しては、一般的ではないかもしれませんが、会員になるためには、一定基準以上の販売実績が求められるので、人並みではない成績を上げている営業担当者が入会していることは間違いありません。

ちなみにMDRT会員が最も多く在籍している保険会社は、プルデンシャル生命です。同社のホームページで確認すると、2016年4月現在、MDRT日本会全会員数は4417名で、うち1043名がプルデンシャル生命のライフプランナーで、日本の生命保険会社の中で19年連続1位とのことです。

なお、MDRTには「会員にならない」という選択肢もあります。たとえば、代理店に勤務していた頃の筆者は、入会基準に達する販売実績を上げた年が複数回ありましたが、入会しませんでした。税理士の紹介で顧問先を回ると、高額契約を容易に獲得できたため、金鉱を見つけた気はしたものの、卓越したサービスなどを提供しているという自覚は持てず、会の定義に違和感があったのです。

ともあれ、筆者は、優秀な成績を上げている営業担当者を通して保険契約を結びたい、と考えるお客様の気持ちはわかるつもりです。

商品説明に納得感があることなどはもちろんのこと、対面販売の場では、人柄なども認められなくては、好成績を維持することは難しいはずだからです。つまり、成績が良いのは人物も良い証拠だ、という受けとめ方があってもおかしくないと思うのです。

保険契約は長期にわたることから、アフターフォローの重要性などを考えると、成績が不安定で、いつまで仕事を続けられるのか怪しい営業担当者では困る、と感じる人もいるに違いありません。

その点、トップセールスの担当者であれば、長きにわたり諸事に対応してもらえるだろうという目論見は間違っていないと思うのです。実際、アフターフォローに関しては、成績優秀な営業担当者であるほど、年々、顧客の数は多くなり、保険金支払い等の機会も増えます。

お客様の状況の変化等によるもので、意識的に経験を積むことは難しい面がある各種の手続きにしても、顧客数が多いため、経験値を上げていく機会に恵まれ、対応のよさに感謝した顧客から見込み客の紹介が出るといった好循環が生まれるわけです。

そもそも、年齢・性別・保険会社・商品・プランが同じ場合、保険料は同じなのです。そうであれば、たとえばアフターフォローが心もとないような担当者より、トップセールスに任せたほうがいいに決まっている、という論法には説得力があるのではないでしょうか。

警戒すべきだという見方も

一方で、トップセールスの並外れた営業力こそ警戒すべきだという見方もあります。実は、冒頭に発言を引用したお客様のご家族の見解です。素朴に「相手が凄腕セールスマンだったら怖い。極端な話、いらないものだって、上手に売りつけられるかもしれないでしょう?」とおっしゃったのです。

こちらも一理あると感じます。仮に2択で決めるとしたら、筆者も、トップセールスとの接触は避けたいと思います。おカネの流れを想像すると当然だと思うのです。

保険では、保険料から営業担当者などへの報酬も含む保険会社の諸経費が引かれた残りのおカネが、入院給付金や死亡保険金の原資になるため、加入者全体の収支は原則的にマイナスになります。あえて身も蓋もない言い方をすると「おカネを失いやすい仕組み」なのです。

したがって、家計のことを考えると、広範囲かつ長期の利用は控え、保険でなくては用意できない大金が絡む事態のみに限定し、必要最小限の利用を心掛けるほうがいいはずです。

ところが、営業担当者は、最大限に保険商品を利用してほしい立場です。販売実績に応じた報酬を保険会社から受け取って生計を立てているのですから、当たり前です。つまり、あらかじめ「利益相反」の関係なのです。

おカネを大切にしたい消費者は、高い販売実績を上げ続けている営業担当者が、保険料負担の増大をうながす達人である可能性を想像してみていいでしょう。

営業現場では、MDRTの入会基準や、社内での表彰制度も営業活動の動機づけに利用されています。たとえば、海外での表彰イベントに招待されるには年間保険料がXX万円足りない、という状況にある営業担当者が、未達分から逆算して商品やプランを提示したりすることはないだろうか、などと疑っていいと思うのです。

日頃から、営業担当者と顧客の利益相反を話題にすると、販売側の人から「良心に恥じない営業をしている」といった反論が出ます。たしかに良心的だと感じる人もいます。しかし、それも筆者の主観における良心にすぎません。消費者は、相談相手の収入源を根拠に警戒心を持ち続けるほうがいいはずです。

ネットや通販で加入できる保険があっても、対面で売られる保険が大半である現状です。投資信託では、運用期間中に発生する費用などの開示情報から、商品の売り手と顧客の利益相反について、客観的に判断できる情報が提供されています。保険会社にも、営業担当者が得る手数料を明らかにするなど、消費者の判断を助ける情報を提供してほしいと思います。