10月衆院選挙なら与党は現有勢力をおおむね維持できそう。「株価も堅調」でいいのだろうか(写真:つのだよしお/アフロ)

「買われすぎ」が続く米国市場

先週の日米株価や米ドル円相場は、筆者が想定している以上の上振れとなった。その要因としては、以下の2つが挙げられそうだ。

1)9日(土)の北朝鮮の建国記念日に、何らの挑発行為がなかった

2)米国南部を襲ったハリケーン「イルマ」(報道によっては「アーマ」と現地読み)が、懸念されたほどの被害がなかったとの観測が広がった

1)の北朝鮮情勢については、15日(金)朝にミサイルの試射が行われたが、為替市場などの波乱は極めて一時的で、最終的には円安ドル高に進んだ。当日の日経平均株価も、100円以上の上昇となっている。これは、それがよいことかどうかわからないが、市場の材料としては「北朝鮮慣れ」し、今後は実際に軍事衝突にでもならないかぎり、諸市場は無視するのだろう。

だが、先週の市場は、値幅は大きくなったものの、その本質は「リバウンドの範囲内」にとどまると考える。というのは、北朝鮮情勢は、実際には何らの好転もない。国連で制裁の一段の強化は決議されたが、その実効性には疑問符が付くといえる。

また、2)のハリケーンも、「ハービー」の被害は大きかったし、「イルマ」も想定ほどではなかったとはいえ、被害がなかったわけではない。実際に8月分の経済統計が攪乱されているとの指摘もあり、不透明感は強い。このように、米国相場が好調に見えても、値幅ではなく「相場の内容」がリバウンドの域を出ないのであれば、上値はいずれ重くなるだろう。
    
特に、米国の株価は、依然として予想PER(株価収益率)でみて高すぎる。こうした「買われすぎ」が発生した起点は、昨年11月の大統領選挙であり、いまだにドナルド・トランプ大統領の経済政策に対する期待が根強く残っているものと懸念される。

米国の財政審議は、一部でささやかれた「9月危機」は回避された。すなわち、連邦債務上限の引き上げや、暫定予算の策定を9月中に行う必要があったが、ハリケーン「ハービー」の被害に財政面で対応することが急務として「上限引き上げや予算でもめている場合ではない」との認識が、議会与野党と大統領府の間で広がった。このため、12月8日(金)までの上限引き上げと暫定予算が急きょ決定された。

「9月危機」は回避されたが、3カ月先送りされただけ

しかしこれは、見方によっては、問題を3カ月先送りしただけとも言える。12月には、再度の対応が必要となる。

加えて、12月上旬までに再度の策定が必要な暫定予算については、メキシコとの壁の建設を巡って、情勢が二転三転している。当初トランプ大統領は、「9月中に策定する最初の暫定予算に壁の予算を盛り込め。もし、それを巡って議会が紛糾し、暫定予算が策定できなくなって、政府機関が閉鎖されるような事態になっても構わない」といった、強硬な姿勢を示していた。しかしその直後に、大統領府から議会に対して、「9月時点の暫定予算に盛り込む必要はないが、12月までに検討する予算には盛り込んでほしい」との要請があったと報じられた。この場合、壁の建設自体に反対する議員も多いため、次回の暫定予算の審議は難航すると懸念されたわけだ。

ところが先週は、大統領と民主党の間で、夕食を交えた会合が行われ、「壁の建設は断念することで合意した」という報道がなされた。そうであれば、12月を前にした、暫定予算の審議に対する懸念は薄らいだはずだが、もともと壁の建設はトランプ大統領の公約であり、その点を評価して選挙で投票した層もいるはずだ(筆者は、壁の建設は好ましいことだとは考えないが)。支持者の離反を招きかねない方向へ大統領が進むというのも見込みにくく、実際大統領は、壁の建設は断念したのではなく先送りするだけで、民主党と合意したという事実はない、と語っている。

今後も壁を巡って、(ほかの政策についても同様だが)大統領の姿勢は何度でも変化しそうだが、上記の夕食会合が民主党との間で行われた、という点は気にかかる。というのは、ハリケーンへの対応を受けた、債務上限引き上げについては、与党共和党は、来年11月の中間選挙までの期間を要望していた。その案を蹴って、民主党が提案した3カ月分の引き上げを大統領が採用した形だ。

こうした、大統領と民主党の接近については、さまざまな憶測を呼んでおり、またどちらの党にも偏らない、独立の大統領だと持ち上げる論評も目にする。しかし、上下院ともに多数を占める共和党との関係が悪化すれば、今後予算化する必要がある、トランプ大統領の経済政策、すなわち減税やインフラ投資については、協議が難航し、かなりの規模の縮小や、断念を余儀なくされるのではないか、と見込まれる。そうした展開となれば、米国株の買われすぎが、大幅な株価下落という形で解消され、米ドル相場も対円で押し下げることになるだろう。

一方、特に日本株に関しては、大きな不安材料を見いだしにくい。企業収益は輸出製造業、特に設備機械や、それを支える機械部品、電子部品中心に堅調だ。先週発表された統計をみても、11日(月)発表の8月の工作機械受注は前年比で36.3%増加し、9カ月連続のプラスを記録した。牽引役は輸出で、受注のうち外需は48.9%増を記録している(やはり9カ月連続の増加)。12日(火)発表の7月の機械受注においては、設備投資の先行指標といわれる、船舶・電力を除く民需は、前月比8.0%増と、4カ月ぶりの増加となった。ただ日本の株価水準全般についても、予想PER(株価収益率)などでみて、割安感はさほどない。年内は、引き続き米国発の世界市場の波乱が生じ、それが日本株を押し下げる可能性を、警戒したい。

総選挙なら与党がほぼ現勢力維持だが年末に向け下落も

国内では、にわかに、28日(木)から開会の臨時国会の冒頭で、安倍晋三首相が衆議院を解散し10月に総選挙が行われる、という観測が広がっている。

現状では、野党第一党の民進党の不人気は変わらず、離党者も増えている。また、自民批判票の受け皿となりそうな、「小池新党」については、10月だと国政選挙に本格対応するだけの態勢は、整うまでには至らないかもしれない。

とすれば、安倍批判層が棄権し、低投票率のなかで与党がほぼ現有議席を維持する、という結果になりそうだ。また、現在は、政府の経済政策が株式市場の焦点になっているような状況ではなく、多くの投資家の目は、企業収益の実態に向かっている。

このため、国政の状況自体が、国内株式市況を大きく揺らすとは見込みにくいが、要注意なのは、海外投機筋の日経平均先物の売買だ。足元ではNT倍率(日経平均÷TOPIX)が大幅に低下している。これは、内外の長期投資家が、企業収益実態の堅調さに着目し、小型も含めて個別銘柄の現物をコツコツと拾っているのに対し、北朝鮮問題や安倍政権の先行きの不透明感から、海外短期筋が日経平均先物を売っているためだと推察している。

北朝鮮情勢については、当面はよくも悪くも変化がないだろうが、10月総選挙といった事態になった場合、選挙結果を巡っての情勢判断から、短期筋が日経平均先物を、買い戻したり売りを重ねたりする動きに出る可能性が高く、目先は経済実態などとは無関係な株価の乱高下が生じることもあるだろう。

こうした情勢判断のなか、目先はリバウンド継続で、日経平均株価が2万円台を維持することはあると考える。だが徐々に年末に向けて、米国株につれた下落相場入りを強めてくるだろう。このため、今週の日経平均株価は、1万9800〜2万0500円のレンジを予想する。

なお、今週は、19日(火)〜20日(水)に、米国でFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。量的緩和の縮小が決定されると予想するが、金額はすでに公表された内容に沿ったものとなり、市場にとって、本来騒ぐようなものではない。しかし、市場心理が、強気弱気のどちらかに偏っていると、売り買いの「ネタ」にされ、短期的に米国株式市況や米ドル相場が振れる可能性があるため、注意を要したい。