とろける脂身のロース肉、揚げたての熱々……。油脂が多く高カロリーなトンカツも、ロカボ(ゆるやかな糖質制限食)では食べていいメニュー。ただし糖質は控える前提で。

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いまでもダイエットといえば「カロリー制限」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし最新の研究によってカロリー制限は、骨密度の低下や 低栄養などを招き、健康に有害であることがわかってきた。『カロリー制限の大罪』(幻冬舎新書)を上梓した北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟医師が、最新の栄養学の知見を紹介する(前編。全3回)。

■「おにぎり」よりも、「から揚げ」

忙しいランチをコンビニで済まそうという時、健康を気づかうあなたなら、どちらを選びますか?

(A)おにぎり
(B)鶏のから揚げ

私がおすすめするのは、「鶏のから揚げ」です。

「おにぎり」を選んだ方は、「から揚げよりもカロリーが低いから」というのが理由だと思います。一方、「鶏のから揚げ」を選んだのは、おそらくこの数年の間にロカボをはじめとする低糖質食を知った方ではないでしょうか。

おにぎりよりも、高カロリーなから揚げを食べたほうがダイエットや健康に良いと私がすすめる理由を、エビデンスを交えながら解説していきましょう。

みなさんが長年信じてきた「カロリー神話」は、すでに崩壊しているのです。

■アメリカはカロリー制限食、脂質制限食を放棄

理想論ではなく、現実論での健康政策を目指すアメリカでは、1994年にアメリカ糖尿病学会が「カロリー制限指導では長期の有効性が得られない」とし、その後「糖尿病の血糖管理には糖質摂取量を認識することが最重要戦略だ」とするようになりました。*1

2011年には、アメリカ心臓病学会が「血中の中性脂肪が気になる人は、油脂の摂取を増やし、糖質の摂取を減らすと、中性脂肪値が下がるでしょう」という声明を発表しました。*2

また、2015年にはアメリカの食事療法ガイドラインでも、「総脂質摂取量を制限しても、動脈硬化症の危険性は減らず、肥満予防にもおすすめできません」「食事のコレステロールと血中コレステロールや心臓病には明らかな関係性はありません」と記されるようになりました。*3

これらは脂質やコレステロールは摂取上限を定めなくてもよい、と示しています。

アメリカの代表的な雑誌『TIME』は、1984年3月26日号の特集では「コレステロールを抑えるために卵やバターは控えよう」と訴えました。

ところが、2014年6月23日号の特集は「脂肪との戦いは終わった」とのタイトルを打ち、表紙は『Eat Butter』(バターを食べよ)の文字が飾りました。

30年の歳月を経て、編集部が180度の転換を決意したほど、栄養学の見解は変わったのです。

■デメリットをまねくカロリー制限ダイエット

カロリー神話はなぜ崩壊したのでしょうか。

実は「カロリー制限」自体には、もちろん減量効果があります。これは栄養学の価値観が変化した現在でも、間違いのない事実です。

ただし、ダイエットや病気の治療食として考えた場合、カロリー制限には「健康的に続ける」という点で、効果以上の多くのデメリットがあるのです。

カロリー制限のデメリットは、
(1)体脂肪よりも筋肉を削ってしまう。
(2)低栄養になりやすい。
(3)継続できずリバウドをまねく。の3点です。

カロリーを制限した食事を続けると、食事から得るエネルギーが減るため、体は自分を守るために、なるべく消費するエネルギーを節約するようになります。いわゆる燃えにくい体質になるのです。

ですから摂取カロリーを減らすと、体内での燃焼効率が悪くなるので、結果的にカロリー制限の効果はあまり見込めないのです。そして、体でもっともエネルギーを消費するのは筋肉ですから、エネルギー消費を節約するために、真っ先に筋肉の量を減らそうとします。

つまり、カロリー制限をすると確かにお腹まわりは細くなりますが、同時に筋肉も落ちて、薄っぺらい体形になりがちなのです。

やせたように見えても、実は不健康でカッコよくない。それがカロリー制限によるダイエットといえるでしょう。

■カロリー制限を長く続けるのは困難

次にキャレリーというアメリカの団体が2015年に行った介入研究をご紹介しましょう。

この研究はカロリー制限には寿命の延長効果があるという予測のもと、自由に食事を摂るグループと、カロリー摂取を75%に制限した2つのグループを2年間にわたって比較したものです。

ところが、この研究では75%の制限が厳しくて続けられない人が続出し、現実的にはグループの平均値をみると、研究開始から半年間はカロリー制限を80%に、さらに半年後以降は90%にしか制限できていませんでした。

この時点でいえることは、研究に参加したカロリー制限をしたいと強く望んでいた人たちでさえも、大半の人はカロリー制限を長く続けるのは困難だった、ということです。

■全員が脱落して研究は中止に

さて2年後の結果ですが、カロリー制限をしたグループは143人中、28人が脱落。5人に1人が続けられませんでした。

さらにショッキングなのは、カロリー制限をしたグループには、骨密度が5%以上低下した人、治療困難な貧血症になった人が7人もいたことです。カロリー制限が低栄養をまねくことは、この研究で明らかになりました。

ちなみに、私どもの北里研究所病院の肝臓グループが脂肪肝の人を対象にして同様の研究を日本で実施しましたが、カロリー制限のグループの全員が脱落して研究は中止。

あらためてカロリー制限が大変なのだということ、そして現実的なダイエットではないことを痛感しました。

■リバウンドのたびに筋肉が落ちてしまう

ですから私は自信をもって「カロリー制限はやめましょう」というのです。続けられないことをしても仕方がありませんし、むしろ怖いのはリバウンドです。

人がカロリー制限をして体重を減らす時には、筋肉が減ります。そして逆に、体重が増える時には、脂肪が増えます。

このような現象はウェイトサイクリングと呼ばれます。つまり、ダイエットをして痩せ、続けられずにリバウンドをするたびに、単に体重が増減するのではなく、脂肪が増えて筋肉が落ちていくのです。

これらの点からダイエットのリバウンドは避けるべきで、だからこそ続けられないカロリー制限はおすすめできないのです。

次回は、カロリー制限を気にせずに満腹まで食べてよいことを、さらにエビデンスを交えながら解説します。

*1 Diabetes Care 1994, 17, 519-522
*2 Circulation 2011, 123, 2292-2333
*3 JAMA 2015, 313, 2421-2422

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山田悟(やまだ・さとる)北里研究所病院 糖尿病センター長
1970年生まれ。94年慶応義塾大学医学部卒業。2013年(一社)食・楽・健康協会を設立。ロカボ=ゆるやかな糖質制限を提唱し、企業に対して啓発活動を行うなど、日本人の健康増進のために日夜活動中。著書に『糖質制限の真実』『カロリー制限の大罪』(いずれも幻冬舎新書)などがある。

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(北里研究所病院 糖尿病センター長 山田 悟)