中国当局が先月末までに脱北者70人以上を逮捕・勾留し、そのほとんどを北朝鮮に強制送還したことが、デイリーNKの取材の結果、明らかになった。

その内訳は成人が約50数人、乳幼児を含む未成年者が約20人で、雲南省昆明、遼寧省瀋陽、吉林省長白、延吉などで逮捕された。脱北者収容施設に1ヶ月ほど勾留された後で、いくつかのグループに分けて北朝鮮に強制送還された。

本国では、拷問や収容所送りなどの重罰が待っているものと思われる。北朝鮮の政治犯収容所においては、たとえ乳幼児といえども情けをかけられることがない。

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態

デイリーNK取材班が、多数の脱北者が勾留されているという情報を掴んだのは6月末ごろのことだ。しかし、韓国にいる脱北者の家族からの要請で報道を控えていた。報道されたところで、一度勾留されたら釈放されることはないだろうというのが家族らの判断で、強制送還後の処罰が重くなることを心配する人もいた。

匿名を条件にコメントした人権団体の関係者は「勾留された脱北者の家族は、韓国政府が措置を取らないことに対する不信感と、メディア報道が中国を刺激しかねないことを懸念し、救命運動に乗り出すことすらも戸惑っていた」「強制送還後に救命運動をした方がいいという意見も出た」ともどかしさを隠さない。

国連などはこれまで、中国に対して脱北者の強制送還をやめるよう説得を続けてきた。中国は北朝鮮との間で結んだ犯罪人引渡に関する条約を強制送還の根拠としている。しかし中国は「難民の地位に関する条約」と「拷問禁止条約」に加入しており、それらの条約は、国内法に優先して難民の強制送還禁止を順守すべきことを定めているのだ。

だが、中国は頑として脱北者を難民として認めようとしない。強制送還されれば処罰されることがわかっていても、「政治難民ではなく経済的な移民で、違法越境者」と主張し続けているのだ。中国外務省の陸慷報道局長は24日の記者会見においても、「違法に中国の国境を越えた北朝鮮人は、難民ではなく中国法を犯した者」であると述べた。

ただ、国際法の専門家も、中国に国際法に基づいた強制送還禁止を強いるのは難しいと見ている。韓国の政府系シンクタンク、統一研究院のイ・ギュチャン統一政策研究室長は「難民条約は(特定国家の国民に対する)難民認定を、その難民が滞在している国に任せており、中国脱北者を難民として認めない以上は、強制送還の中止を求めるにも限界がある」と述べた。

また、国連の措置に加盟国への強制力がないということも限界の一つだ。反人道犯罪撤廃国際連帯(ICNK)のクォン・ウンギョン事務局長は「脱北者の強制送還を禁止する国連の勧告は、法的拘束力がないため、中国が自ら応じなければ守らなければ他に方法がない」と指摘した。

これに対して韓国政府は、中国に対して強い態度で臨めずにいる。米国の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備など、対中外交の課題が山積しているからだ。統一省の関係者も「韓国行きを望む脱北者が迅速かつ安全に韓国に来られるように努力するという韓国政府の立場を、中国政府もよくわかっていると考える」と答えるにとどまった。

人権団体や脱北者団体から批判の声が上がる中で、韓国政府から独立した人権擁護機関である国家人権委員会は、中国で拘束された脱北者5人家族が、自ら命を絶ったとされる情報に言及しつつ、中国に対して脱北者の強制送還中止を要求。それと同時に、韓国政府に対しても適切な対応策を出し、中国国内にいる脱北者保護のために外交的努力を尽くすことを求めた。

それでもやはり、中国がこうした求めに応じる可能性はほとんどないと見られる。脱北者にとっては、命がけで越境した先の中国もまた、人権不毛地帯であり、そこで二重三重に発生する人権侵害は、北朝鮮に民主化の機運が生まれることを妨げてもいるのだ。