世界のトップ10入り――。たとえミラクルは起こせなくとも、この夏のU19日本代表は、世界でインパクトを残したチームだったことは間違いない。


今大会チームの中心となって活躍した八村塁

 7月9日までエジプトの首都カイロで開催されたU19ワールドカップで、日本は大健闘の10位という成績を収めた。世界のトップ10入りは、A代表を含めたFIBA(国際バスケットボール連盟)主催の大会では歴代最高順位。アジア予選を勝ち抜いて世界大会に出ることさえ難しい男子バスケの実情を考えれば、アンダーカテゴリーとはいえ明るい話題だ。

 日本は昨年のU18アジア選手権で準優勝して18年ぶりの出場権を得たが、ワールドカップ本選にはNCAAの強豪、ゴンザガ大で1年プレーした八村塁を大会直前に招集した。その八村と出場権をつかんだメンバーたちが「世界を驚かそう、ミラクルを起こそう」との思いで、一体となって戦ったのだ。

 予選ラウンドでマリに1勝を挙げ、ベスト8進出を決めるイタリア戦は2点差で惜敗。目標としていたベスト8入りは逃したものの、順位決定戦では「アジアで1位になる」「世界のトップ10に入る」と再設定した目標のもと、アジアのライバルである韓国、開催国のエジプトを下して大会3勝をマーク。アジア1位とトップ10という目標をクリアした。

 特筆すべきは、優勝したカナダに25点差で敗れた以外はすべてが接戦だったこと。決勝に進出したイタリアとベスト4のスペイン、9位決定戦のプエルトリコらの強豪国と対等に戦い、エジプトにはアウェーの洗礼を受けながらも延長を制し、韓国には11点のビハインドを負いながらも、4Qに30-6と圧倒して勝った。こうした粘りはA代表では、なかなか見ることができない。これまでの男子チームにはない底力をU19代表は発揮した大会となった。

 収穫は数えきれないほどあるが、大きな括りで言うとふたつ。ひとつは、チームワークを発揮するに至った準備の重要性を再確認したことだ。

 指揮官であるドイツ人のトーステン・ロイブルは大会を迎えるにあたり「この年代の海外選手はプロでプレーする選手がいる。日本の大学生はそのギャップに驚く」と懸念していた。そのため、昨年10月から月1回の強化合宿で選手選考を兼ねながら競争心を植え付け、チームケミストリーを高めてきた。6月上旬にはチェコU19代表を招集して国内で3ゲーム、大会直前にはドイツ遠征で2ゲーム戦い、”世界とのギャップ”を埋めることを目的として試合経験を積んだ。オフェンスではスピードとスペーシングを生かした攻めでボールをシェアしてシュートセレクションにこだわり、ディフェンスではオールコートのトラップディフェンスや、約束事を守るローテーションを徹底するなど、小さくても戦えるチーム作りを行なった。

 八村に次ぐ得点源の西田優大(東海大)は、「僕たちはワールドカップに向けて、ドイツ遠征やスカウティングを徹底してやってきました。負けても次の試合への修正を怠らずにやりました。そうした準備は僕たちに『世界でも戦える』という自信をつけてくれました」と答えている。

 ここまでの準備はこれまでのアンダーカテゴリーでは、なかなか実現できなかったことだが、18年ぶりの世界大会、そして2020年に向けた熱意が日本の協会をはじめ、選手たちが所属する大学や高校の団結を生んだ。

 プロリーグやNCAAに進み始めた海外選手との差がまだ開かないU19世代だからこそ、準備によって補い、戦えた部分もある。年齢が上がるにつれて、差が広がる一方であることはA代表の戦いを見ればわかることだ。だからこそ、若い年代から世界大会に出続けて海外との戦いに慣れることが必要との答えは明確に出た。今大会に向けた準備が、今後の強化における基準値になったことは言うまでもない。実際、強豪国相手では接戦を勝ち切れなかったのだから、今後はこの基準を上げる取り組みが必要だろう。

 もうひとつの収穫は、やはり八村塁の活躍だ。日本がトップ10入りを果たしたのはチームルールの中で各自が役割を果たしたことに加え、絶対的エースである八村が縦横無尽に活躍できたことに尽きるだろう。

 八村は強豪のゴンザガ大で1シーズン揉まれたが、プレータイムそのものは短かった。そんな八村がどこまでできるか注目されていた大会で、NCAAファイナルに進むチームで練習してきた成果を見せつけたのである。彼が残した個人成績(平均値)は20.6得点(2位)、11リバウンド(3位)、1.4ブロックショット(5位)と堂々たるもの。得点とリバウンドのダブルダブルは6試合(1位)、貢献度を表す数値のエフィシェンシー(EFF)も23.7でこれも1位にランクと、出場選手の中でもインパクトは絶大だった。

 U19ワールドカップはNBAのスカウトたちも注目する世界最高峰のユース大会である。八村にとっては来るシーズンでプレータイムを勝ち取るためにも、将来のNBA入りに向けても、自分をアピールする絶好の場になった。事実、大会前は「この2年、八村塁はどこに行ったのか、という人たちに自分のプレーを知らせたい」と語っていた。この思いは嘘ではないだろう。ただし、いざ大会が始まれば、自分のことよりもチームの勝利が優先。メディアに「NBAスカウトを意識しているか」と問われても、「日本のバスケのためにやるのが日本代表で、そこから自分の評価がついてくる」と答えている。

 もともと八村は周囲を生かすことができる選手だが、こうしたチーム優先の考えがあるからこそ、大会直前の合流でもチームメイトとの融合ができたのだろう。今大会のプレーを見れば明白だが、八村はディフェンスこそインサイドにつくが、オフェンスでは優れた状況判断のもとでオールラウンドにプレーする。本人も大会を終えて「僕は将来的にインサイドでやるプレーヤーではない。サイズがあっても動ける選手になりたい」と発言しているが、この考えは高校時代から変わらないものだ。よりスケールの大きな選手に向かおうとしていることが、この大会で見えた。

 とくに、リバウンドを取ってからボールを運んでフィニッシュまで持ち込むプレーに関しては、国内の大学生には見られないほどのプッシュ力があり、ジャンプシュートや3ポイントの確率が高くなっていた。それでも八村は「まだまだ課題が見えた大会でした。特にシュートの正確性はチョイスが悪いところがあった」と満足はしていない。そしてもうひとつ学んだことは、終盤に体調を崩した中で感じたコンディショニングの重要性だ。

「この大会で感じたのは『NBA選手ってすごいな』ということ。こういう国際大会のようなレベルの高いゲームを半年以上続けてやっていて、そうした体力的にきつい中でも、プレータイムも移動時間も長い中で試合をしていることがすごい。僕はNBAに入りたいので、こういう大会で体調管理や食事に気を遣うことが大切だと、NBAに行くための勉強になりました」

 今後も高いレベルでプレーしていくからこその気づきは、ゴンザガ大での新シーズンにつながるとともに、すぐに日本代表へと通じるものがあるだろう。課題はあるにせよ、八村が魅せたプレーは今すぐ日本代表に加えても戦力となり、U19の舞台を通して、日本の未来が描けるものだった。

 チーム作りにおける団結力と準備による成果。そして若きエース八村塁の存在感。この大きな2つの未来こそが、U19ワールドカップで得た収穫であり、今後、日本のバスケットボール界が生かさなければならない課題だろう。

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