「ミニマリズム」という言葉を聞いて、あなたはどんなことを想像するだろう?
何もない部屋、禁欲的、真っ白な壁、つらい倹約生活、家具がまったくない部屋で床に座る人。たいていの人は、こんなイメージが浮かぶのではないだろうか。
あなたはおそらく、ミニマリズムは苦行だと思っているだろう。
(中略)
でも、ここで本当のことを教えよう。
その想像は、本物のミニマリズムとは遠くかけ離れている。
私にとってのミニマリズムは、むしろ苦行とは正反対だ。
(35ページより)

こう主張するのは、『より少ない生き方 ものを手放して豊かになる』(ジョシュア・ベッカー著、桜田直美訳)の著者。現代アメリカにおけるミニマリズム運動の代表的存在で、自身のミニマリズム生活を紹介するブログ「ミニマリストになる(BecomingMinimalist.com)」には、毎月100万人以上が訪れているのだそうです。

彼は、ミニマリズムは自由であり、心の平安であり、喜びだとすらいいます。ものがない場所が増えれば、それだけ新しい可能性が生まれてくる。いらないものを一掃すれば、理想の人生を妨害している障害物もなくなるというのです。

そんな話を聞くと、どっぷりハマったミニマリストを想像したくもなります。が、意外なことに、ミニマリズム自体にそれほど夢中になっているわけでもないのだそうです。目指しているのは、誰もが適正量のものをもち、そのおかげで最高の人生を生きられるようになること。豊かな先進国に暮らす人の98パーセントにとって、それはものを減らすことを意味するというわけです。これは、理にかなった考え方ではないでしょうか?

高価なものをいくら持っていても、幸せになれるわけではない。
それどころか、ものがありすぎるとむしろ幸せから遠ざかってしまう。
いらないものを手放せば、本当に大切なものを追求する自由が手に入る。
(20ページより)

では、ものを減らすと、どのようなことが起こるのでしょうか? 第1章「より少ない生き方を始める」から、基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。

ものを手放すことで得られるメリット


ものを減らすと、ものを増やしていては絶対に味わえないような喜びが手に入ると著者はいいます。現代においては、「もっと買え、もっと買え」というメッセージばかりを受け取ってしまいがち。しかし実際のところ、ものの少ない生活には人生を変える力があるというのです。

そして具体的には、本書に従ってミニマリズム生活を実践することにより、次のような「いいこと」が起こるそうです。

1:時間とエネルギーが増える
ものを持つためには、まず買うためにお金を稼ぎ、そのものについて調べ、実際に購入し、手に入れてからも、磨いたりホコリを払ったりし、整理し、修理し、新しく買い換え、いらなくなったら売ったりしなければならなくなるでしょう。

しかしそれは、時間もエネルギーもかなり消費してしまうということでもあります。だからものを少なくすれば、時間とエネルギーは逆に増えるはず。それを、自分にとって大切ななにかに使うことが可能になるわけです。

2:お金が増える
買うものが減れば、使うお金も減ります。それどころか、ものを買うお金だけでなく、維持管理にかかるお金も節約が可能。もしかしたら、経済的自立という夢を達成する方法は、もっと稼ぐことではなく、ものを減らすことかもしれないと著者。

3:人のためになることができる
買うものを減らし、お金のかからない生活をしていると、意義に賛同する慈善活動などにお金を出す余裕ができることになるといいます。お金の価値は、その使い道で決まるもの。ものを買うよりも価値のある使い道は、いくらでもあるということです。

4:自由が増える
ものがありすぎると、肉体的にも、精神的にも、経済的にも、ものに支配されてしまうもの。場所を取られるし、持ち運ぶのにも手間がかかり、心に重くのしかかって気持ちを沈ませるというのです。でも逆に不用品を処分すれば、それだけ自由を手に入れられるわけです。

5:ストレスが減る
ものがたくさんあって散らかっている部屋と、ものが少なくてすっきりしている部屋、どちらが不安な気持ちにさせるでしょうか? そして、心が落ち着くのは? この問いについて著者は、「ものがたくさんあって散らかっているのは、ストレスの方程式だ」と記しています。

6:環境にやさしい
過剰な消費は、地球環境の破壊を促進します。でも消費を減らせば、環境へのダメージも減らすことができます。その結果、子どもや孫たちも含めたすべての人たちのためになるということです。

7:質のいいものを持てる
いらないものまで買うのをやめれば、本当に必要なものを買う際に、質の高いものを選ぶことが可能になるといいます。つまりミニマリズムは、ただの倹約とは違うということ。著者の言葉を借りるなら、ミニマリズムとはひとつの哲学。ものが多ければいいのではなく、質のいいものがいいという考え方。

8:子どものいい手本になれる
子どもにきちんとした価値観を植えつけ、過剰な消費を煽る文化から自分の身を守れるようにする、いうまでもなく、それは親や大人の役割です。ミニマリズムの考え方は、子どもにとっても適切な見本になるといいます。

9:人に面倒をかけない
家にものがあふれている状態のまま死んでしまったり、介護が必要になったりすることがないとはいい切れないはず。決して極端な話ではないのです。そして、もしもそうなったとしたら、家族など残された人に面倒をかけることになります。でもミニマリズムを徹底して入れば、人に面倒をかけることもなくなるでしょう。

10:人とくらべなくなる
他人と自分とを比較してしまうのは、人間の本能のようなもの。それに加え、「自慢したい」「見栄を張りたい」という欲求もあるので、悲惨な結果になりかねないということです。しかし意識して所有物を少なくすれば、誰も勝つことができない「比較」というゲームから降りることができるのだといいます。

11:満足できる
私たちは、「自分が不幸なのはある特定のものを持っていないからであり、それさえ手に入れば人生に満足できる」というふうに考えてしまいがち。しかし物質的な所有物は、絶対に心を満足させてはくれないと著者は断言しています。なにかを買ったとしても、すぐにまた不満になるのがその証拠だとも。逆に際限なくものを追い求めるのをやめたとき、そこで初めて人生の不満の正体がわかるのだそうです。
(以上、23〜27ページより)

時間が増え、お金が増え、ストレスが減り、心配事が減り、自由が増えるというわけで、まさにいいことずくめ。だから、もしミニマリストになることの利点がこういった実際的な効果だけだったとしても、それだけで実践する価値は十分にあるはずです。しかし、利点はそれだけではないと著者。ミニマリストになり、不要なものを処分すると、理想の人生をつくる第一歩を踏み出すことができるというのです。



著者の実体験が豊富に紹介されている本書を読んで実感できるのは、(冒頭の言葉にもあるように)ミニマリズムは決して苦行ではないということ。それどころか、本来あるべき生き方がそこにあるとも思えます。ミニマリストを自称するかどうかはともかく、"基本的で、大切なこと"に目を向けるという意味でも、読んで見る価値は十分にあるでしょう。


(印南敦史)