高くても、継続して購入してもらえる接客法

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「モノが売れない時代」と言われて久しい。だが、そうした状況でも、値下げ競争に陥らず、高額商品を多くの人に売って成功する方法がある。

「売ったらおしまい」、あるいは「売ることをゴール」と考えて、あなたはビジネスをしていないだろうか。そうした発想では、運よく一度は売れても、顧客が継続的に買ってくれることは難しいだろう。また、日用品やファストフードのような単価の安いものは売れても、クルマや家、宝飾品のような高額品はなかなか売れないままだろう。

■いい接客で顧客は高い満足を期待する

売るのをゴールにするのではなく、「買ってもらってからがスタート」と考える発想の転換が重要だ。言い換えると、自社の商品を提供することで顧客に感動を与え、自社のファンになってもらうことを最終的なゴールにするのだ。自社のファンになった顧客は、高くても、継続して何度も購入してくれるからだ。

顧客に感動を与える具体的な方法は、商品の価値を高めるのは当然として、顧客がその商品を購入して、使うまでの一連の「時間」の価値を高めることを強く意識することに尽きる。この「時間価値」を高めることが、高単価、継続購入につながるからだ。

顧客に高い時間価値を感じさせるために重要なのは接客だ。いい接客は、「その商品を購入すると、高い時間価値を得られるぞ」と顧客に想像、予感させることに直結するからだ。

成功事例の一つに、トヨタ自動車のレクサスのディーラー(販売店)がある。ここでは、時間価値を高める場づくりが徹底している。顧客はショールームに入った瞬間から、ラグジュアリーカー・ブランドのサービスを受けられる。レクサスのディーラーは、創業時に一流ホテルチェーンであるザ・リッツ・カールトンにサービスを学んだ折り紙付き。顧客は高度な「おもてなし」を受けることで、購入後もすばらしいサービスを受けられると期待し、「レクサスがある暮らし」をイメージできる。

またスターバックスでも、顧客の時間価値を高めるという考え方で、接客やサービスを展開している。他のコーヒーチェーンと価格勝負をせず、「お客様が店内での滞在時間をいかに快適に過ごしてもらうか」を追求している。

顧客は店内に足を踏み入れた瞬間に、おしゃれで落ち着いたインテリアを目にする。スタッフと向き合うと、満面の笑顔に、画一的なマニュアルとは違った、その顧客に合った個別の対応がなされる。顔見知りになると、いつも注文している飲み物が「今日もこちらでよろしいですか」と、笑顔とともに差し出されることもある。コーヒーなどの商品はあくまでツールにすぎず、スターバックスのサービスの本質は豊かな場所と時間を提供することにある。

顧客の時間価値は、顧客が商品やサービスを購入し、それらを利用している間、高いレベルで保つ必要がある。それが高い満足感につながり、再度の購入や利用につながるからだ。レクサスのディーラーでは、オーナーに対して、期間限定だが実にさまざまな無料サービスを提供している。たとえば「明日行くゴルフ場の場所をカーナビに示してくれないか」と電話で伝えると、遠隔操作で速やかに設定してくれる。

顧客の時間価値を高めるには、企画力も重要だ。たとえば、ハーレーダビッドソン ジャパンでは、ディーラーがハーレーオーナー同士のツーリングを企画して実施している。オートバイというモノを売るだけでなく、仲間と走る喜びも提供することで、顧客の時間価値を高めているのだ。

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酒井光雄(さかい・みつお)
1953年生まれ。学習院大学法学部卒業。日本経済新聞社が実施した「経営コンサルタント調査」で、「企業に最も評価されるコンサルタント会社ベスト20」に選ばれたマーケティングのコンサルタント会社、ブレインゲイト代表取締役。著書に『価値づくり進化経営』(日本経営合理化協会)、『全史×成功事例で読む「マーケティング」大全』『成功事例に学ぶ マーケティング戦略の教科書』(共にかんき出版)、『コトラーを読む』『商品よりもニュースを売れ! 情報連鎖を生み出すマーケティング』(共に日本経済新聞出版社)、『中小企業が強いブランド力を持つ経営』『価格の決定権を持つ経営』(共に日本経営合理化協会)、『図解&事例で学ぶマーケティングの教科書(マイナビ 監修)』など多数ある。日経BP社日経BP Marketing Awards(旧名称 日経BP広告賞)の審査委員を務める。

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(村上 敬=構成 榊 智朗=撮影)