蘇寧グループによる記者会見は南京市内の高級ホテルで行なわれ、インテル幹部や中国サッカー協会の要人を招いて、盛大に催された。(C)REUTERS/AFLO

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 欧州サッカー界における中国資本による“爆買い”は、ついに名門インテルをも呑みこんだ。
 
 6月6日、中国の蘇寧電器グループは、本拠を置く南京でインテルのクラブ株式68.55%の取得、経営権を掌握したことを正式発表した。買収額は、現地報道によれば、7億ユーロ(約850億円)と見られている。
 
 新オーナーであるグループの総帥、張近東(チャン・ジンドン)は、「インテルを再び世界の頂点に導く」と高らかに宣言した。
 
「世界一のクラブになったこともあるインテルの歴史の一部となったことに、非常に感激している。蘇寧グループはサッカー界に進出してまだ1年だが、今、名門インテルを手に入れた。インテルは今こそ、欧州のトップクラブへ返り咲く時だ。インテルはより強く、より威風堂々としたクラブになるだろう」
 
 会見にはエリック・トヒル会長以下、サネッティ副会長らインテルの経営幹部が一同に出席。壇上での挨拶の後、新オーナーとの乾杯に応じた。トヒル会長はしばらく現職に留まるが、自身が所有する残り31%のクラブ株式も早期に蘇寧側へ譲渡され、会長職も退く見込み。同時に、長くインテルの顔でもあったモラッティ前会長がクラブ経営から完全に離れることも発表された。
 
 蘇寧グループは、家電製造販売とネットショッピングを手掛け、グループ全体で年商176億ドルを誇る巨大企業。中国超級リーグの江蘇蘇寧の親会社でもある。
 
 米経済誌『フォーブス』による世界富豪ランキング403位のグループ総帥、張近東の個人資産は39億ドルに上るとされる。新オーナーがサッカー界にかける野心は大きい。
 
「我々の戦略は、今後5年の間にスポーツ界のトップリーダーとなることだ。世界のサッカー市場の拡大に手を貸したい。中国国内での目覚ましいサッカー人気の上昇がインテル買収の決断を後押しした。セリエAや欧州サッカーへの人気は、中国超級リーグに寄せられる関心よりはるかに高い」
 
 記者会見は南京市内の高級ホテルで行なわれ、インテル幹部や中国サッカー協会の要人を招いて、盛大に催された。万里の長城とミラノのドゥオーモをイメージしたPVが披露され、「Noi siamo l’Inter, fratelli del mondo (我等インテル、世界の兄弟)」とのスローガンが掲げられた一大式典の模様は、インテル・チャンネルで生中継されただけでなく、衛星放送『SKYイタリア』や国営放送RAIも昼のトップニュースで報じ、「大きな時代の転換点」と伝えられた。
 
 イタリアの有力スポーツ2紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』『コリエレ・デッロ・スポルト』だけでなく、経済専門紙『イル・ソーレ24オーレ』もサイト上で速報を行うなど、イタリアでの関心も非常に高い。
 
 気になるのは、DF長友佑都に関する処遇だ。
 長友は今年4月に2019年までの契約延長を果たしたばかり。チーム初にしてクラブ唯一のアジア圏出身選手である長友の存在がどのように受け止められるか、新オーナーや中国のファンからの反応は未知数だ。
 
 南京での会見では、サネッティ副会長と蘇寧グループの幹部が今後のチーム編成について語り合う場面もあった。
 
 副会長は「来季のチームはセリエAやELで主役を張るチームにする。是が非でもCLに戻らなくてはならない」と抱負を述べると、中国側からは「いつか江蘇蘇寧の中国人選手がインテル入りすることを望みます」と将来への期待も。
 
 世界経済で猛威を奮う中国資本の波は、ついに近年のCL制覇とクラブW杯優勝経験を持つインテルの買収に至った。セリエA初の中国資本クラブとなったインテルは新たな一歩を踏み出した。
 
文:弓削高志(スポーツライター)