ビートたけしが麻原彰晃を「面白い」と大絶賛した黒歴史

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1995年3月20日午前8時ごろ。猛毒ガスのサリンが、東京都心の地下鉄構内で撒布されました。世に言う『地下鉄サリン事件』です。
国内はおろか、世界でも例をみない化学兵器による大規模無差別テロ。通勤時間帯に過ごすはずの何気ない日常。それが突如として負傷者数約6,300人という空前絶後の非日常へと変貌した事実に、列島は震撼します。「もしかしたら、自分が被害者だったかもしれない」。すぐ隣り合わせに戦慄すべき恐怖が潜んでいることを知り、国民はリアルな世紀末を体感したのです。

首謀組織はオウム真理教。その教祖であり、最高指導者として君臨していたのが麻原彰晃でした。今は確定死刑囚となった彼について、世間で共有しているイメージといえば、悪そのもの。大量無差別殺戮の首謀者であり、国家転覆を企てた張本人なのですから当然です。国家の独裁者ではなく、一宗教団体の教祖という立場にありながら、数千もの命を奪おうとした世界史的にも稀に見る怪物といえるでしょう。

昔は「胡散臭いおっさん」的立ち位置だった麻原彰晃


議論の余地もなく極悪人の麻原ですが、90年代前半、彼はメディアに「ちょっと変わったことをしている胡散臭いおっさん」的立ち位置でよく登場しており、この時期に、たけしがホストを務める『TVタックル』にも出演するのです。
番組中での彼は一見、人の良さそうなただの風変りなおじさんに見えます。言っていることも割と筋が通ってて「なるほど」と思うようなことも多々。たけしも、そんな意外ととっつきやすい麻原との対話を終始楽しんでいるようで、後に「通じ合うものが多かった」とまで語っています。
さらには、自ら申し込んで雑誌上にて対談まで実施。生と死の問題、快楽の問題、人間の意識の問題……。様々なテーマについて長時間、語り合ったとのこと。このとき麻原は「たけしさんの活躍の根底には仏教観がある」とし、たけしもたけしで「面白いなァ、麻原さんは」と彼を褒めているのです。

オウム幹部たちがとった行動に、狂気の影が…


たけしほどの聡明な男が、なぜ彼の本性を見抜けなかったのでしょうか? それについての解となるような見解を、たけしと同じく麻原と会談経験のある宅八郎が述べています。
オウム真理教が社会問題化した後のインタビューで、麻原と会ったときの印象は? と問われた宅は「とても狂気なんて感じなかった」と応えています。しかし同時に「取り巻きの幹部には怖さを感じた」とも。彼によると、麻原の座る椅子を幹部たちが、まるで神輿のようにかついでいるのを見て「手伝いましょうか?」と言ったところ、「触らないでください!」と過敏な反応を示したのだそうです。

麻原彰晃を持ち上げたメディアの危険性


麻原が悪人であることは、これまでに犯した罪から疑いようもありません。けれどもその背景には、メディアが面白がって彼を取り上げたこと、信者たちがそんな彼を祀り上げたことと、無関係ではないのでしょう。周囲から持ち上げられた「面白い宗教家」程度の男は、もともと持っていた自己顕示欲・出世欲も相まって、自己肥大が加速していき、ついには世紀末の怪物となったのではないでしょうか。
そもそも、彼が世間から注目されるきっかけとなったのは、かの有名な「空中浮揚写真」が大衆雑誌に掲載されてからです。超常的なもの、オカルト的なものを安易にメディアでもてはやすことの危うさを感じます。

先述のたけしと麻原の対談。たけしの発言には続きがあります。麻原のことを「宗教から一番、遠い人のような気がする」とも述べているのです。ある意味、先見の明があったわけですが、まさかこれほどまで遠い人物とは、さしもの天才芸人も気が付かなかったのでしょう。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより時効 (ソフトバンク文庫)