スリムは本当に美しいのか?モデルの「痩せすぎ」社会問題に

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総合格闘技の女子選手ロンダ・ラウジーをご存知だろうか。

あまりの圧倒的な強さのため、カード編成に支障が出るほどの選手である。どのような体勢からでも必ず極まる腕十字固めは、未だに誰も攻略していない。

そんなロンダだが、彼女は最近ではモデル業をこなすようになった。そしてロンダに限らず、競技で名を馳せた女性アスリートがモデルを始めるということは珍しくなくなっている。

一昔前ならばそういうことをやれば、ゴシップ誌で「あの◯◯選手が脱いだ!」と取り沙汰されたものだが。今ではオリンピックに出場する選手すらも、雑誌の中で水着姿になっている。

そうした流れは、各地のミスコンにも波及しているらしい。というのも、何かしらのスポーツ経験者を優勝させるという大会がここのところ目立つようになってきたからだ。

それも「これを少しだけやってました」というレベルではなく、誰しもがフィジカルエリートと認めるだけの実績を持つ者である。

要するに顔形の美しさや体型の細さといった基準が、絶対的なものでなくなっているということだ。

むしろ、今のモデル業界は「細いことは美しい」という従来の基準をどうにか振り落とそうとしている。

痩せすぎモデルの登場を禁止に

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今年4月、フランスの下院議会でこんな法案が成立した。

モデルのBMI値(体格指数)制限に関する法案だ。あまりに痩せすぎているモデルはショーに出ることを禁止し、所属事務所にも罰則を課すというものである。これに対しフランスの業界団体は反対声明を出したが、正直この問題に関するモデル事務所関係者の言葉に説得力はない。

モデルの過度なダイエットは、フランスでは社会問題と化している。フランスやイタリアは、最先端のファッションや皮革製品を世界中に発信している国である。

大手メーカーは他社に出し抜かれまいと、人気のスーパーモデルを常に囲い込む。だがその最中でモデルが太ってしまっては元も子もない。だから来たるイベントに合わせたボディーサイズを維持するよう、モデルたちに厳命する。

今年3月27日付のヘルスプレスの記事に、このようなものがある。『サイギャップ(太ももの隙間)』と『ビキニブリッジ(ビキニと下腹部の隙間)』が、若い女性の間で憧れとなっているという内容だ。

<太ももの間にスキマができる細い脚を「サイギャップ」、ビキニとおなかの間に隙間ができるのを「ビキニブリッジ」――。これが10代〜20代女性のあこがれとなっているのをご存じだろうか。(ヘルスプレス 2015年3月27日より引用)>

つまりは大腿の内側や下腹部に肉がない状態が「美しい」とされている、ということだ。写真SNSのInstagramでは、POV(主観ショット)で撮影された『ビキニブリッジ』の写真が流行した。

大手服飾メーカーがこれらの要素をモデルに強要しているとしたら、確かに問題である。

『サイギャップ』にしろ『ビキニブリッジ』にしろ、そもそも全体的なボディーバランスをまったく考えていない基準だからだ。

日本の格闘家も15年ほど前までは“アミノ酸偏重主義”というものに陥っていた時期があったが、アミノ酸やタンパク質のことしか考慮に入れず、結果的にコンディションを崩してしまうという選手がその時は相次いだ。

だが、当の本人は「俺はまだまだアミノ酸不足だ」という意識で、高価なサプリメントを摂取する以前に、普段の食事が非常に乏しいものだということに気づかない。

スーパーモデルたちが陥っている罠の構造も、それとまったく同じだ。

スーパーモデルの死

2006年から2007年にかけて、ヨーロッパのモデル業界は改革を余儀なくされた。

その原因は3人のスーパーモデルの死である。ブラジルのアナ・カロリナ・レストンと、ウルグアイのラモス姉妹の相次ぐ早逝が世界中で問題提起されたのだ。

特にラモス姉妹の話題は衝撃だった。姉のルイゼイと妹のエリアナは共に人気モデルだったが、僅か半年の間に二人とも同じ死因、すなわち拒食症に起因する心不全でこの世を去ってしまった。

ちなみにルイゼイは、キャットウォークを歩いている途中に体調を悪化させ控室の前で倒れて、そのまま帰らぬ人となった。

その後、ヨーロッパの広告業界を中心に「痩せすぎモデルの起用をやめさせよう」と呼びかける動きが起こった。

そのために、敢えて拒食症モデルを使った広告を出すということをやった人物もいる。

市民の間でも、自国のファッション業界の体質に疑問を抱く声が噴出し始めた。生身の人間に非現実的な体型を強要するのは倫理的に間違っているのではないか、と。

だがそれは決して、業界の全否定というわけではない。

再考される「美」

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先述のヘルスプレスの記事を、もう一度引用しよう。

<一方、「肥満大国」アメリカでも、「サイギャップ」「ビキニブリッジ」に対抗する動きがある。有名スポーツ誌『スポーツイラストレイテッド』が、2015年水着特集のモデルに、初めて12号サイズのロビン・ローリーを起用して話題となった。(ヘルスプレス 2015年3月27日より引用)>

アメリカの12号サイズとは、日本のJIS15号サイズに相当する。

当然、モデルの世界ではあり得ないほどの“肥満体型”だ。ウエストサイズはおおよそ60センチ台後半から70センチまでといった辺りだ。よく考えれば、一般社会ではそのくらいのサイズが一番現実的である。

そして現実的とはすなわち、健全であるということだ。

そういえば、スポーツイラストレイテッドの表紙をロンダ・ラウジーが飾ったことがある。この雑誌は、『スポーツイラストレイテッド』という名前を裏切るようなことはしない。スポーツとはほど遠い“不健康な美”は必要ないのだ。

ところで、日本人には“身長-110=理想体重”という呪縛に似た概念がある。

ここで“呪縛”という表現を使うのはやり過ぎではないかと言われそうだが、筆者はそうは思わない。

現にダイエットを目指す日本の女性の間では「50キロが壁」とよく言われている。日本人女性の平均身長が約158センチだから、それに上記の計算公式を当てはめれば理想体重は48キロ。確かに「50キロが壁」という結論になる。

だが先ほどの話の繰り返しになってしまうが、50キロにも満たない体重の女性は果たして現実的だろうか?

業界関係者に限らず、我々は“現実的な美”についてより深く考える必要がありそうだ。

【参考・画像】

フランス、「痩せすぎ」モデルを禁止する法案可決 - AFP

※ “太ももの間にスキマ”が美の基準? フランスが痩せすぎモデルを禁止!? - ヘルスプレス

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