【戸塚啓コラム】内田篤人の代役とは言わせない。緊張感から解放された背番号21
「あんまり緊張するタイプではないんですけど、久々に緊張したというか」
理由は複合的なものだ。「全く知らない相手だったので、どんなことをしてくるのかちょっと探り探りになってしまって、前半は後手、後手の対応が続いてしまった」と言う。リスクを最小限に止めるという守備の原則を出発点に考えれば、酒井の心理状況にはうなずけるところがある。
「イージーなミスも多かったし、そういった反省はありますけど、時間が経つにつれて自分らしさというか、らしさまではいかないですけど、相手との関係に慣れてきて対応が楽になってきたのはあった」
前半のうちに意識を切り替えている。攻撃参加の意欲は、できるかぎり封印した。
「圭佑くん（本田）がわりと中にいたので、自分の上がるスペースはあったんですけど、タイミング次第かなと思っていて。で、相手側のベンチが、僕のマークつくような声掛けをしていた。サイドハーフの選手もケアしてきたし、自分が前へ出たときはサイドバックの選手がもうアプローチしてくる状態を作っていた。フリーで受けられる感じはあまりなかったんです。逆にユウトくん（長友）のほうはスルスルといっていたので、今日はユウトくんのほうに任せようかなと、２点目が入ったときに話しました」
このバランス感覚こそは、酒井の長所である。さりげなく適切に、彼はリスク管理を遂行していくのだ。
「もちろん、ユウトくんも僕も前へ出て行けたらいいと思うんですけど、こっちのほうはあまりスムーズじゃなかったし、自分のミスもけっこう多かったので、そういう意味ではちょっと後ろで、同サイドの７番の選手もわりと残っていたので、あまりリスクを背負って上がるのは良くないと思って。アグレッシブにというより状況を見て動くことを意識して、ユウトくんとのバランスを見て自分はなるべく後ろにいようと早めに決断していたので、そこのところの左右の関係は良かったと思います」
そうは言っても、充足感に満たされることはない。パレスチナ戦を振り返ると、課題が列をなしていく。
「今日は勝てたことが良かったかな、というぐらいですかね、僕もそうだしチームとしても、時間帯によっては簡単なミスとか簡単にボールを奪われてしまった。それでも相手のチャンスにはならなかったシーンが多かったと思うんですけど、次からの２試合の対戦相手は、それをちゃんとチャンスにしてくるチームだと思う。そういったところを突き詰めないと、次はやられてしまう。対イラクということで、ゼロから見つめ直さなきゃないけないと思います」
内田に代わって右サイドバックを務める今大会は、日本代表における彼の立場を大きく左右する。分かりやすい成果を求めたいところだが、ここでも酒井は冷静なのだ。
「こういう大会で活躍したい、目立ちたいというのはもちろんありますけど、自分は攻撃の選手じゃない。そこはやっぱりチームとしてのバランスを重視しなきゃいけない。リスクを一番に考えてプレーしなきゃいけないので、いきたいところはあったけど、ステイしておくところもありました」
何よりも重視するのはチームのバランスだが、マッチアップする相手との心理戦は怠らない。
「サイドバックが前へ行かないと、相手も攻め上がりを警戒しないで残っちゃったりする。そこのところの駆け引きは、ずっとやっていきたい」
利己的なメンタリティの発露ではない。それもまた、チームの勝利へつながる要素のひとつである。
緊張感から解放された背番号21は、イラク戦で右サイドを支配できるのか。グループステージ突破へのポイントである。
関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
