右利き・左利き、どっちが有利? PK戦に勝利するための技術

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W杯に限らず、多くのサッカーの試合ではPK戦で勝敗が決まることも少なくない。では、より確実に勝つためにはどうすればいいのだろうか。物理学者、数学者、経済学者、心理学者などが、「完璧なPK」を研究している。

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ブラジルW杯2014も終わりに近づいている。PK戦が決め手となった試合も1つならずあった。例えば、ギリシャ対コスタリカの試合がそうだった。コスタリカの選手たちは、まさにペナルティーマーク上での試練を通過して、次の段階へと進んだのだった。

PK戦は、最終的な結果がまったく予測不可能なため、しばしば「くじ引き」だと言われることもある。しかし、果たして本当に、どの「券」も同じ価値をもつのだろうか。

近年、物理学者や数学者、経済学者、心理学者が、定量的手法にビッグデータ、洗練されたアルゴリズムや統計的分析を詳細に検討し、この疑問に答えようと試みた。それだけでなく、この困難な挑戦に答えを出そうと、ピッチや実験室で実験も行った。

先行・後攻、どちらが有利?

ペナルティーマーク上にボールを置く前に結果を決定づける、さまざまな要因が存在する。

まず最初に、コイントスだ。運よく、先にPKを始めることを選べるなら、それは大きなアドヴァンテージとなるだろう。研究者のホセ・アペステギアとイグナシオ・パラシオス=ウエルタは、PK戦で勝敗が決まった129試合を分析して、先にPKを始めて最初にゴールを決めたチームは、勝利の可能性が60%に上がることを明らかにした。

理由は、心理的なものだ。もし先攻で始めてすべてのPKを成功させれば──これは十分にありうることだ。なぜなら、PKの約75%は成功する──、相手にはプレッシャーがかかり、失敗する確率が上がる。実際、5本目のPKが近づくと成功の確率は下がり、11本目のPKでは無残にも64.3%になる。

さらにワールドカップでは、そのキックの失敗がチームの敗退につながるような場合には、この確率は44%にまで落ちる。一方、成功すれば勝利となる場合には、91%に上がる(敗戦を恐れるほうが、より失敗を引き起こすのだ)。

幸いなことに、コイントスに勝ったキャプテンたちはこの統計を知っているようだ。滅多にない不幸な例外(2008年の欧州選手権のブッフォンがそうだ。イタリアはスペイン相手にPK戦で敗退した)を除き、彼らはいつも先攻を選ぶ。

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赤いユニフォームは、キッカーの闘争心を高めてくれる。image: Celso Pupo / Shutterstock.com

「勝者の呪い」に気をつけろ

心理的なプレッシャーは、FIFAの年間最優秀選手やバロンドールのような栄誉ある賞を受賞したチャンピオンにまで、たちの悪いいたずらをする。

データを見ればわかるのだが、一度受賞を経験した選手は、同レヴェルの選手たちと比べて、PKでの自身のパフォーマンスを悪化させる傾向がある。純然たる迷信に近い現象で、「勝者の呪い」として知られている。

左利きのほうが有利

左利きの選手には、有効な武器がある。左足で蹴る選手は、右利きの選手よりPKを決める確率が高いことを、データが明らかにしている(右利きの72%に対して、76%成功する)。

この傾向は、キーパーが左利きの選手にあまり慣れていないことに起因しているのだろう。左利きはサッカー選手のうちわずか15%にすぎず、したがってキーパーのシュートを予測する力も低くなる。

ユニフォームは「赤」

ユニフォームの色に関する、実に興味深いデータがある。マーシャル・アーツにおいて行われたいくつかの研究を取り上げてイギリスのリーグに応用したところ、この50年間、赤いシャツ──闘争心を増す要素だ──を着てホームでプレーするチームは、他のチームよりも勝つことが多いことが判明した。これは、PK戦においてもだ。

ボールを置いてから、すべきこと

ボールを置くときは、キーパー及び、蹴ろうと思っている場所を見ながら後ずさりに歩く方が、ゴールに背を向け頭を下げて歩くよりもよい結果が得られる。

助走距離を取ったら、次にどこを狙うか決めなくてはならない。統計によると、PKは4回に1回失敗する可能性があると統計は述べている。さらにキーパーが方向を予測できなかった場合、失敗する可能性は10%にまで下がる。

最も賢明で一般的な選択は、左か右に蹴ることのようだ。これは「完璧なPKの方程式」をつくったリヴァプール・ジョン・ムーア大学の研究でも正しいと証明されている。

まず5、6歩分の助走距離を取り、20度から30度の弧を描いて、ゴール上部の2つのコーナー(正確にはポストとバーの交点から50cm)の1つを狙って、時速約100kmでボールを蹴る──。これが「防ぐことのできないPK」だ。近年その有効性は、高名な物理学者、スティーヴン・ホーキングによっても裏づけられた。

実際のところ、キッカーたちは83%のケースにおいて、コーナーを狙ってシュートする。右利きの選手は左へ蹴り、左利きの選手は右に蹴る傾向も確認されている。一方、キーパーもこのことを知っているので、確認されたケースのうち57%は自分の右側へ、41%は左側へ飛ぶ。

しかし、経済学者たちは物理学者たちのようには考えていないようだ。スティーヴン・レヴィットは、最新作『ヤバい思考法』(Think Like a Freak)において、サッカー選手の習慣と、「完璧なPK」の背後にある数学者たちの計算に疑問を呈して、コーナーを狙うシュートの神話を覆した。

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左方向へのシュートは、右方向へのシュートより成功率が高い。image: katatonia82 / Shutterstock.com

中央に蹴れば、チャンスは81%?

レヴィットによると、最も優れたPKは、キーパーが予期していないところ、つまりゴールの中央にシュートするものだ。しかし中央に蹴られることは、全シュートの17%しか確認されていない。キーパーが動かないことは100回のうち7回しかないにも拘わらず、だ(代表の試合ではさらに少なく、100回のうち2回だ)。

ゴール中央にシュートすることで、ゴールを決めるチャンスは81%となるだろう。これに対して、右へのシュートは70%、左へのシュートでは77%だ。ワールドカップでは、1982年のスペイン大会から2010年の南アフリカ大会まで、22もの試合がPK戦で勝敗を決したが、204のシュートのうち、中央に蹴ってキーパーに防がれたものはなかった。

それではなぜ、選手たちは中央にシュートしないのか? 経済学者イグナシオ・パラシオス=ウエルタの新著『美しいゲーム理論:どのようにサッカーは経済学の助けとなれるか?』(Beautiful Game Theory: How Soccer Can Help Economics)によると、答えは「ゲーム理論」にある。

レヴィットの議論は、観念上は正しい。しかし、実際のところPKは相反的相互作用の典型的な例で、いつも同じ戦略を用いることが最善の解答とはならない。

例えばジャンケンで3つの手のうち1つしか使わなかったとしたら、相手にとっては明らかな有利になる。敵はこちら側の行動をより確実に予測して、効果的に対抗することができるようになるだろう。

ナッシュ均衡

同じ話がPKにもあてはまる。「ゲーム理論」によると、PKは、2人の参加者(キッカーとキーパー)の間の典型的なゼロサム・ゲームだ。つまり、あるプレーヤーが勝利する手には、常にもう一方の敗北が伴う。

経済学の分野では、ノーベル賞学者、ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアが、この種の相互作用における最善の戦略を理論化している。つまり合理的な戦略とは、予測できない方法で自分の手を変化させて、いわゆる「均衡」──彼の名前を取って「ナッシュ均衡」と呼ばれる──を得ることだ。

イグナシオ・パラシオス=ウエルタは、ナッシュの理論が、どのようにシュートを打つかを規定するときだけでなく、選手たちの行動を記述するにあたっても正しいことを、1995年から2012年までに集められたサンプルによって証明した。そこで分析された9,000本のPKは、予測不能なかたちで、考えうるさまざまな方向に同じような比率で蹴られていた。

しかしキッカーにとって、助走の軌道や、シュートの強さや、ジョン・ナッシュについて考えることが、PKを決める助けになるのだろうか? 一度ボールを置いたらあらかじめ決めていたシュートを打つことが最善の解答なのだろうか?

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PKを決めて大喜びするのは当然だ。しかしそれは、続くキッカーの背中を後押しする大事な要素でもある。image: AGIF / Shutterstock.com

認知科学者ゲルト・ギーゲレンツァーは、これまで述べてきた条件に異を唱える立場をとっている。

最新の著作、『リスクの知識』(Risk Savvy)で、ギーゲレンツァーは、PKのキッカーを導くのは本能でなくてはならないと主張している。何年もの試合や練習で強化された無意識的行為を台無しにする意識的な考察であってはならない。シュートを打つ前に考えれば考えるほど、失敗するリスクが高くなる。

「完璧なPK」に、キーパーはどう対抗するか

この話はキーパーにもあてはまる。ゴールキーパーは本能に頼って、敵の動きを読み、意図を先取りしなければならない。しかしそれと同時に、敵の注意を逸らし、考えるように仕向けることが重要だ。もしキッカーが走りながら自分の決心を変えてくれれば、キックをミスする確率は高まる。

キーパーは、ゴールライン上で動き、何度も手を広げて、感じられるゴールの大きさを減少させる。そしてキッカーの注意を引き、彼が自分の方に蹴るように仕向けたり、シュートの軌道を約32cm変える。UEFAチャンピオンズリーグ2004-5の有名なイスタンブールでの決勝におけるリヴァプールのイェジー・ドゥデクは、そのいい例だ。また、イェンス・レーマンは、ドイツW杯2006のアルゼンチン対ドイツ戦でソックスの中に入れていたメモを何度も見て、決定的な瞬間においてキッカーたちの気を逸らすことに成功した。

さらに、もしキーパーが完全に中央に位置取らず、わずか9cmくらいでも右か左に離れると、キッカーの失敗の確率が高まる。与えられた、より無防備なコーナーを狙う傾向があるのだ。

成功したら大喜びしよう

最後に。PKを蹴って決まったなら、大喜びするのを忘れないようにしよう。

迷信深い人々は無視していいが、PKが成功した後で自分の喜びをあからさまに表現するプレーヤー──66%が天に向かって両手を上げることで表現する──と、最終的な勝利の間には、強い相関関係が存在する。

大喜びの後、次の敵のキッカーは、失敗しやすい傾向がある。一方、次の味方のキッカーは、大喜びに「感染」して、より高い確率でPKを決める傾向がある。

コーナーを狙うか中央を狙うか、強さか正確さか、よく考えるか、本能か。サッカーの魅力はまさにその予測不可能性にある。データや実験も、決してこれらに取って代わることはできないだろう。しかし、間違った神話や、根拠のない見解、直感の誤りを明らかにする助けとなることはできる。

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