たとえば原発。「脱原発でも原発推進でも、東電・福島原発の問題は避けて通れない。廃炉まで最低でも40年、毎年数千人が働き、費用は5兆円ともいわれる。東電1社の負担能力をはるかに超え、政府が動かざるをえないが、野党はこの議論から逃げた。仮に原発を再稼働しても、実際に動かせる原発は全国54基のうち半分程度。不足分を太陽光や風力、地熱で補うと野党が言っても、いつまでにどれだけの新しい電力源をつくるか、実際には工程表さえない」。確かにこれでは、野党が惨敗したのも当然だろう。

一方、海外では、日本の孤立化を懸念させる状況になりつつある。「米国のオバマ大統領が中国の習近平国家主席と会談したのは2日間で8時間。安倍・オバマ会談は1時間40分だった。また、韓国の朴大統領は米国議会で演説してきたが、安倍首相はしていない。ワシントン・ポストなどの有力紙が日本の右傾化に警鐘を鳴らす記事を書いていることから判断すると、米国の対アジア戦略が変化して、日本はアジアの中で難しい位置に立たされているとみていいだろう」

さて、日本経済の先行きだが、田原さんは「大型財政出動や金融緩和の効果で、今年から来年にかけて景気はよくなる」とみる。問題はその後。「景気回復が続くかどうかは、安倍首相が『岩盤規制』を打ち破れるのかにかかっている」という。

権力の中枢に深く食い込んできた田原氏は、首相の力量を測る経験則がある。「戦後の首相のうち、実力者と呼ばれるのはすべてタカ派」というものだ。昭和では、日米安保条約をまとめた岸信介氏や国鉄民営化を成し遂げた中曽根康弘氏、最近では郵政民営化の小泉純一郎氏などが該当する。

田原さんはかつて、竹下登・元首相から政治家としての心構えをこう聞いたという。「誰からも好かれる政治家になりたければ野党でいればいい。しかし、政権を担うからには嫌われる覚悟も必要だ」と。

この言に沿って考えれば、「ハト派の首相は国民に嫌われたくないから、改革はできない。しかし、タカ派の首相には覚悟がある」。

田原さんは安倍首相に「右翼にならず、タカ派になれ」とアドバイスしたという。秋には追加成長戦略が発表され、安倍氏の「覚悟」が政策となって表れてくるはずだ。

田原総一朗(たはら・そういちろう)

1934 年4月15 日生まれ。早稲田大学第一文学部史学科を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)へ開局と同時に転職。ディレクターとして活躍し、1977年に独立。ジャーナリストとして、幅広い執筆活動を続けると同時に、超有名討論番組「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日)や「激論! クロスファイア」(BS 朝日)の司会としても大人気。



この記事は「WEBネットマネー2013年10月号」に掲載されたものです。