■3本幹で、話の輪郭をくっきりさせる

とにかく話はおもしろく、とめどなくあふれ出る知識には感心する……。けれども、話を聞き終えてみると、輪郭がボヤけてしまって結局何が言いたかったのか? と、大事なポイントを理解できなかった経験はないだろうか。雑談ならともかく、商談の席においては避けたい流れである。

察しがいい読者ならもうお気づきだろう。今回のテーマは「ポイントを絞って伝える」コツについてだ。

話したいことがたくさんあったとしても、話のポイントは3点までが効果的だとされている。それ以上伝えても、むしろ印象をボヤけさせ、結果として記憶の妨げになってしまうからだ。

話の目的がハッキリしている場合、3本の幹を立てて、それぞれの幹から枝葉へと展開するイメージが、聞き手が理解しやすい情報伝達手段となる。

まずは「本日、お話したいことは3点あります」のように、話のポイントを予め提示することから始めるのも大切だ。

「話す内容のポイント」とは、裏を返せば「聞くべきポイント」だ。

前もってポイントがわかれば、聞き手はその部分に焦点を絞って聞くように心の準備ができ、必要なことを重点的に伝えるのに効果的に作用する。

プレゼンの名手と言われたスティーブ・ジョブズは、話をする際に必ず3つのポイントを挙げ、そこからまた枝分かれするように話を展開した。拙著『スティーブ・ジョブズに学ぶ英語プレゼン』(日経BP社)にも登場する有名なスタンフォード大学でのスピーチでも「今日話すことは3つです。たった3つだけ。まず〜、次に〜、最後に〜」と予め明示している。

最初にポイントを列挙することで、聞き手は目の前に地図を広げてもらったかのように、全体像をつかめるというわけだ。

一つの主題に入ったところで、その中でさらに伝えたい<=聞くべき>ポイントを3つまで提示する。一本の幹からまた3枝に分かれるイメージだ。

枝分かれのコツは、最初の主題から次に移るときに「話が変わる」ことをハッキリ告げること。これで話の内容は常に整然とし、聞き手は最初に広げた地図の中で、自分が今どこにいるのかが把握できるので迷うことがない。

もちろん、これは営業トークや商談でも応用できるテクニックだ。

なぜ、話を展開する際の軸は3点が望ましいかを心理学的にみてみると、人がもっとも覚えていやすい数が3つまでとされるからだ。プリンストン大学のジョージ・A.ミラー博士は7±2が、人間の記憶の限界であるとしている(*)。ジョン・F・ケネディのスピーチライターとして有名なテッド・ソレンセンの原稿には、目標や成果番号にすべて5つ以下の番号(*2)がふられていたそうだ。

■数字「3」が持つ、不思議な力

少々脇道にそれるが、この「3」という数は、昔から物事を考えたり構成したりするときの“基準的な数字”となっている。

たとえば、人間は「一人(主観)」対「一人(主観)」に「第三者的な一人」が加わることで“客観性”が生まれ、初めて社会が成立する。つまり3人が社会を構成する最小単位となる。

「過去・現在・未来」「開始、経過、終了」「創造・維持・破壊」など、多くの世界観も3点で表現され、三権分立、三位一体、三種の神器……など、「3」という数は、単に語呂やテンポがいいだけではなく、太古の昔から重きを置かれ、あるいは神聖視されてきた。

これらのことが、上述した“記憶可能な数”と関連しているかどうかは定かではない。けれども、この「3」という数字そのものや「3つ」という数が、人間にとって心地よいリズムであり、周辺社会や子孫により正確に「伝承」するために育まれた人類の知恵だとしても、少なからず説得力を感じられるのではないだろうか。

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閑話休題。「話の輪郭をハッキリさせる」ために必要な要点をまとめてみよう。

相手に伝える目的がハッキリしている場合は、できれば「3ポイント」までにしたい。「今日は3点です」のように、予め“話の全体地図”を示し、聞き手の心の準備も整えよう。そして、ポイント間を移動する際は、必ず「次に移る」と告げること。

これらを忘れずにおけば、あなたの話が整然として効果的に伝わるばかりではなく、デキるビジネスマンとして印象づけられること請け合いである。

[参考資料]
*George A. Miller of Princeton University’s Department of Psychology in Psychological Review, “The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: some Limits on our Capacity for processing Information”
*2 John F. Kennedy presidential library and Museum, Special Message to the Congress on Urgent National Needs 1961
*2 Carmine Gallo [2010] The presentation Secrets of Steve Jobs - How to Be Insanely Great in Front of Any Audience, MacGrawHill

(上野陽子=文)