中学受験にはどれほど費用がかかるのか。受験・学歴研究家の伊藤滉一郎さんは「世帯年収1500万円が最低でも必要だ。中学受験が本当に生活を切り詰めてまでする価値があるのか考える時期が来ている」という――。(第1回)

※本稿は、伊藤滉一郎『子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

■小3から3年間で300万円が「最低ライン」

東京23区ではもはや定番の選択肢の一つとなった中学受験ルートを見ていきましょう。小学校受験は検討せず公立の小学校に通わせたものの、中学からは私立に入れたいというご意向の家庭は首都圏を中心に近年増加しています。

まず中学受験対策から見ていきましょう。中学受験は、小3の終わりの2月から小4の間に対策を始めるのが一般的です。また、中学受験対策の塾や個別指導は、小4→小5→小6と受験が近づくにつれて授業料が高くなっていきます。

最もメジャーな中学受験対策の集団塾に通った場合、図表1のような授業料が必要になります。個別指導塾の場合は「1コマ当たりいくら」という感じで、受講する授業数に応じて授業料が決まるところが多いです。週3〜4回通い、季節講習も受けたとすると、かかってくる費用はおおむね、図表2のようになります。

出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)
出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)

つまり総額だと、集団塾でも個別指導塾でも、3年間で300万円程度はかかるというのが実態です。参考までに、私が長らく仲良くさせていただいているあるお父さんの話を紹介します。小1から小6まで、SAPIXと個別指導塾に娘さんを通わせ、最難関校に合格したそうです。総額で630万円かかったと話していました。

■本当に中受は必要なのか

中学受験組はSAPIXや四谷大塚といった大手中学受験塾に(小3あたりから入塾したとして)300万円程度の課金をしたのち、入学後も学費や寄付金を6年間にわたって払い続けていく必要があり、教育費の総額はとても大きなものになります。

最近は公立中高一貫校という選択肢もありますが、中学受験参戦者の大半は私立に進学します。もちろん子どもが2人、3人といる家庭であれば、必要となる費用も2倍、3倍に膨れ上がっていきます。

経済的に余裕のあるご家庭なら問題ないでしょうが、こうした出費が家計を逼迫し、悲鳴を上げながらも、一度始めてしまった以上は親子の物語を止めることはできない、というご家庭も少なくありません。「中学受験は本当に生活を切り詰めてまでする価値のあることなのか?」と胸に手を当てて考えてみることも必要です。

私立の中高一貫校に入った場合、まず入学金がかかります。おおよそ30万円前後のところが多いです。続いて授業料は、年間で50万円前後です。なお、高校授業料無償化の対象地域であれば、高校3年間で約150万円がかからなくなります。

ですが私立校の場合、設備費用や学校納入金、寄付金といったその他費用も大きいです。その他費用も年間で50万円前後のところが多いようです。

■「桜蔭」の世帯年収は1700万以上

合計すると、入学金を除いても年間で100万円ほどを学校に納める必要があり、中高6年間で600万〜700万円の費用が必要になります。受験業界では、今の中学受験に参入するためには、世帯年収1500万円程度は必要なのではないかという意見が共通認識になりつつあります。

少し前の調査にはなりますが、2008年に週刊誌が難関中学合格者の家庭の世帯年収を調査したところ、桜蔭が約1736万円、海城が約1628万円、聖光学院が約1561万円となっていました(※)。

※週刊現代「2008難関中合格者親子1300人アンケート取材」

ただ、近年増加している、夫婦ともにフルタイムで働く「パワーカップル」世帯の場合、親御さんがお子さんの学習の伴走に割くことができる時間が限られるという問題が生じるため、中には祖父母を同居させたり、専門の業者に塾の宿題プリント管理を外注するところもあるようです。

出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)

公立中学→公立高校受験ルートであれば、当然ですが学費はかなり安く抑えられます。受験にかかる塾代を見ても、中学受験には300万円ほどかかるのに対し、高校受験はその半額以下が相場です。高校受験塾も中学受験塾と同様に、受験が近い学年ほど費用が高くなる傾向があります。

■では高校受験ならどうか

文部科学省の調査によると子ども1人当たりの学習塾費は、公立中学校の場合、図表4のようになっています。中学1・2年時の内申点が重複される都道府県では、高校受験を見据えた対策はもちろん、中学1・2年時から学校の定期テスト対策で塾に通わせることも多いようです。

出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)

中学受験塾の年間90万〜130万円という費用を見てしまうと感覚がおかしくなりますが、高校受験対策では最も課金が必要な中学3年時でも50万〜70万円ほどで十分であると言われています。モデルケースとして、難関高校受験対策のために、中1から国数英の3科目を受講し、中2、中3で5科目を受講した場合の塾コストを算出してみましょう。

中1の3科目であれば週2日ほど塾へ通うことになり、月額は1万5000円程度、季節講習代や模試費用を含めても、年間で20〜25万円程度あれば足ります。中2からは5科目に増やして週3日、中3からは演習も含めて週4日通ったとすると、月額は3万〜4万円になります。季節講習代や模試費用を含めて、年間では40万〜60万円程度になるでしょう。3年間の合計は100万〜145万円程度です。

■中高公立なら総額316万円だが

もっともこのケースでは余裕を持って中1から塾に通い、中2から全教科の対策をしていますが、中学レベルであれば家庭学習で学校の定期テストをクリアでき、得意科目であれば学校の授業のみで対応可能というお子さんも多いと思うので、その場合かかる費用はさらに少なくなります。

とはいえ、高校受験であっても、都立日比谷などの最難関公立進学校や早慶付属などの難関私立校を目指す場合、より手厚い対策が必要となるため、相場より高い費用がかかってくるでしょう。

公立中高の6年間でかかる学費の総額は316万円程度が相場(公立中学3年間で約162万円、公立高校3年間で約154万円)となっているようで、実に私立中高ルートの半額以下です。

公立の中学・高校に進んだ場合、入学金や授業料、設備費といった学費はもちろんかかりません。入学時に必要な制服代などの入学準備金は10万円ほどで、給食費や修学旅行の積み立てにかかる費用も年間10万〜20万円程度です。入学金や制服代を除いても年間100万円前後かかる私立中高との差は一目瞭然です。

出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)
出所=『小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)

■中高一貫校でも塾通いは必要

いやいや、公立の高校では大学進学のために塾に通う必要があり、私立の中高一貫校では授業が充実していて塾に通う必要がないのだから、塾代まで含めたら中高一貫校の方がコスパがいいのでは……?という声もあるかもしれません。

しかし、私立中高一貫校の多くは授業のスピードが速く、内容も高度なため、学校の授業についていけず補習対策として塾通いが必要になることもあります。また、大学受験を見据えて結局大手の進学塾の対策が必要になることもあり、中高一貫校に通っていても塾に通うのが一般的です。

伊藤滉一郎『子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)

文部科学省のデータによると、私立中学生も50%が塾に通っています。小学生時代も含めれば、「ここまで課金したのだから失敗できない」というサンクコストの意識もはたらき、中高一貫校に課金しながら塾にも重課金してしまう親御さんがいるのでは、というのが私の見解です。

以上のように、小学校から大学までオール公立ルートとオール私立ルートを比較すると、総額では1500万円程度の差があることがわかります。最終学歴を起点にコスパで考えるのなら、ここの学習費は削れるのではないか、ここは公立でよいのではないかなど、それぞれのご家庭の懐事情を鑑みながら、ご検討いただければと思います。

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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)
受験・学歴研究家、じゅそうけん代表
1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、教育機関向けの広報支援サービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
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(受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)