『ミルキー☆サブウェイ』亀山陽平のルーツとは? バッグス・バニーなどの“原点”を明かす
映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』(以下、『ミルキー☆サブウェイ』)が公開24日間で観客動員33万人、累計興行収入4.5億円を突破。原作・監督・脚本・キャラクターデザイン・音響監督など、ほとんどの制作を1人で手がけた亀山陽平の名を聞かない日はもはやない。
参考:『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』なぜヒット? “ショートアニメ劇場化”の成功例に
2月21日、TOHOシネマズ 日比谷にて行われたトークイベントにも亀山が1人で登壇。本作の個性的なキャラクターのモデルには亀山自身の知り合いが多数存在するなど、さまざまな裏話を明かすなか「完成版を観たら、いろいろなところにミスが見つかった(笑)」「時代劇をやってみたい」といった意外な心境も述べた。本作誕生の背景として、「『トムとジェリー』のようなクラシックカートゥーンから影響されていて、好きなものを全部詰め込んだ」と語るように、亀山の留学経験と独自のルーツが本作独特のテンポ感を生み出している。
今回はトークイベント後の亀山を直撃。亀山が幼少期から触れてきた、『ミルキー☆サブウェイ』のルーツとなる作品や日本アニメーションの展望について話を聞いた。
『ミルキー☆サブウェイ』会話劇のルーツはバッグス・バニー
--亀山さんが『リアルサウンド』に登場していただくのは、Mori Calliopeさんと対談していただいたとき以来になります。
亀山陽平(以下、亀山):よろしくお願いします。『ミルキー☆サブウェイ』のインタビューじゃないのかな、と思ったら、音楽部で受けていたからなんですね。
--今日はトークイベントからお話を聞いていましたが、亀山さんはクラシックカートゥーンがお好きだということで、今日も『トムとジェリー』の名前が出ていましたね。
亀山:そうですね。ただ『トムとジェリー』はコレクションしているほどというわけではなく……、どちらかというと『ルーニー・テューンズ』を高校時代にDVDでよく観ていました。『ルーニー・テューンズ』のほうがキャラの個性とギャグの種類が多いと感じていて、『トムとジェリー』的なアクションで笑わせるのがメインの“ワイリー・コヨーテとロード・ランナー”もいるし、ロジカルなギャグがメインの“バッグス・バニー”と“ダフィー・ダック”のトークもあって、手数が豊富なのが好きです。
--セリフで笑わせてくるのは『ルーニー・テューンズ』の特徴ですよね。
亀山:やっぱりバッグス・バニーが一番好きで、見た目はもちろん、彼は狡猾で、常に相手の一歩先を行くずる賢さみたいなものを持っています。それに対してダフィー・ダックは自己顕示欲が強いけど能力が伴っておらず、その2人の掛け合いが面白い。キャラクター一人ひとりの特徴がはっきりしていて、それらが組み合わさる面白さが一つの世界の中で構築されているところは、『トムとジェリー』との決定的な違いだと思います。自分はマーベル映画も好きなんですが、マーベルのキャラクター同士の絡みにも通ずるところがあるのかなと感じます。
--そういう“キャラクター同士の掛け合い”は、『ミルキー☆サブウェイ』を作るときにも意識されていたんですか?
亀山:すごく影響されていると思います。SNSで『ミルキー☆サブウェイ』の二次創作を見かけるんですが、やっぱりキャラクター同士の絡みを面白いと思っている人たちが想像を広げて描いてくれている作品が多く、そこを魅力として受け取ってもらっているのかなと。
幼少期に影響を受けたのはハリウッド映画
--幼少期は『ルーニー・テューンズ』以外ではどんな作品に触れていたのでしょうか? たとえば第12話のサブタイトル「マキナ 死す」なんかは我々の世代(1996年生まれ)だと元ネタを簡単に連想できますよね。
亀山:ハリウッド映画からは強い影響を受けていて、はっきり覚えているのは『ハリー・ポッター』シリーズです。当時初めて観た映画なのでめちゃくちゃ怖くて印象に残っていて(笑)。それから実写映画をたくさん観るようになりました。逆に日本のアニメは、兄の影響で触れてはいたんですが、内容があまり理解できずそれほど影響を受けていないんです。ただ、スタジオジブリ映画は新作が出るたびに観に行っていたので、アニメでも滑らかに動いている映像だったら楽しめるタイプの人間なんだと思います。自分にとって日本で主流のリミテッドアニメーション(※作画枚数や動きを意図的に抑え、止め絵・口パク・省略表現を多用するアニメーション技法。テレビシリーズを中心に、日本の商業アニメで広く用いられてきた)の魅力を理解できるようになったのは、もう少し歳を取ってからのことでした。そういう意味では、実写映像やジブリアニメ、ディズニーアニメーションのようなフルアニメーション(※動きの省略を最小限に抑え、多くの作画枚数を用いて滑らかな連続運動を描く。ディズニー作品や一部の劇場アニメなどに代表される)からは大きな影響を受けていると思います。『ルーニー・テューンズ』からインスパイアされていたのも、フルアニメーションだったというところが大きいです。
--リミテッドアニメーションといっても、近年の国内商業テレビアニメは作画コストが非常に高い作品もどんどん増えてきましたが、亀山さんはどのように感じていますか?
亀山:まず、作画枚数にばらつきを持たせることがリミテッドアニメーションの魅力だということに気づいたのが本当に最近で、その魅力を把握したうえで観ると日本のアニメはすごく高度なことをやっているんだと気づきました。そこでわかったのは、自分にとってリミテッドアニメーションは“何も考えずに観る面白さ”というよりも“頭を使いながら観る芸術の面白さ”としての側面が強いということです。派手なアクションでも、しっかり動かすところと止め絵で見せるところの緩急がすごい。ただアクション以外でも止め絵だからこそ観ている側がいろいろと感じることもあると意識できるようになったのは、細田守監督が『おジャ魔女どれみ』シリーズで演出を担当した回(『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』第40話、第49話)を観てからですね。専門学校の授業で観る機会があったんですが、授業でなければ観なかったくらいなので、自分にとってはアンテナをしっかり張っていないと理解できないレベルの芸術の世界ではあります。結構な尺を止め絵で見せる瞬間があって、そこにすごく引き込まれました。あれはアニメならではのキャラクターデザインで、だからこそ成立する止め絵の画力と演出だなと思います。自分はリミテッドアニメーションの楽しみ方の理解はすごく弱いんですが、弱いからこそ気づける魅力はまだまだいっぱいあるなと思っています。
--いわゆる“深夜アニメオタク”とはルーツと研究対象が逆転しているのが非常に面白いです。音響面でいうと、『ミルキー☆サブウェイ』はプレスコ(声優の音声を収録してからアニメーションを制作する手法)で作られている点も、アフレコ(アニメーションが作られてから声優の音声を収録する手法)が主流の日本のアニメ制作とは異なる点ですね。
亀山:欧米のアニメーションは声優の演技や表情を強調する傾向があって、それを観て育っただけに『ミルキー☆サブウェイ』でも演技に集中してほしいのもあって、プレスコで収録しました。ただ会話のテンポに関しては、むしろ日本のショートアニメのフォーマットが前提としてあったのでそこを参考にしていました。アニメにおける“ダレない会話”はどんな感じなんだろうと、いろいろとショートアニメを観て勉強するなかで『てーきゅう』を参考にしました。『てーきゅう』は非常にテンポが速く、速いところはもうそれだけで面白いかもしれないと感じるようになって。
--『ミルキー☆サブウェイ』が現れたことで、今後ショートアニメはますます注目されると思います。
亀山:『ミルキー☆サブウェイ』は瞬間の面白さを優先している分、ストーリーにはあまり深いものを持たせていないんですね。逆に日本で主流の30分枠のTVアニメは、キャラクターのバックグラウンドにしっかりフォーカスしてストーリーを見せられるので、そういう意味では30分アニメはなくてはならないと思います。それから日本には魅力的な漫画がたくさんありますが、漫画だけだとどうしても手を出さない人はいると思いますし、特に海外では“アニメは観るけど漫画は読まない”という人は多いです。コンテンツを知ってもらうきっかけとしても30分アニメは必要な存在だろうと思っています。僕も『ゴールデンカムイ』などはアニメ化をきっかけに「これは絶対自分の好きなジャンルで面白い作品だ……!」と思って漫画を読み始めたので、アニメが漫画の広告として機能している部分はあると思います。
亀山陽平から見た日本のアニメの良さ
--『ミルキー☆サブウェイ』は絵コンテ(※作品全体の構成を設計する設計図。カット割り、構図、動き、セリフ、時間配分などを絵と文章で示した制作初期の資料)ではなくビデオコンテ(※簡易的な映像・音声を組み合わせて作る仮編集映像。完成形に近い形でテンポや演出を確認するために用いられる)から作られたとのことですが、ビデオコンテの良さを亀山さんはどう感じていますか?
亀山:『ミルキー☆サブウェイ』は映像のカッコよさよりも会話劇のテンポを優先させたかったので、まず音を聞き取れるビデオコンテから作ったほうがいいと判断しました。もちろん、もっとストーリーや映像で話を伝えることに注力して作品を作ろうと思ったら、しっかりした文章や絵コンテから始める必要があるのかなと思っています。ただ、脚本はあったほうがいいと思うんですが、もしかすると今の時代は絵コンテよりビデオコンテから作りはじめてもいいのかもしれません。スマホひとつですぐ音や声を収録できますし、ラフな映像なら絵がうまい人であればお絵描きツールを使えばすぐ描けてしまうので、ビデオコンテから入る手法があってもいいのかなと思っています。
--ビデオコンテにすると具体的にどういったところが作業としてよいのでしょうか?
亀山:ビデオコンテはまず、映像の完成形を直感的に理解しやすいんです。「この尺で本当にちょうどいいかどうか」がわかります。絵コンテだとカットごとのラフ画があって、横に「尺は⚪︎秒、⚪︎フレーム」と書かれてはいますが、その秒数がその映像に適切な長さなのかどうかは、だいぶ経験のある人でないと想像つかないと思います。だから僕が、ビデオコンテで作りやすかったのは、自分が映像経験の薄い素人だったからというのも影響しているかもしれなくて……。その情報量にはどれくらいの尺が必要なのかということをビデオコンテだと一目で確認できるので、その点はよかったのかなと思います。あとは制作前のアニメの企画を通さなければならないといったとき、たぶん『ミルキー☆サブウェイ』の内容を絵コンテで描いて渡しても、面白いのかどうか想像つかないと思うんですよね。
--たしかに『ミルキー☆サブウェイ』ほど音ハメを軸に物語が進行していくような作品だと、静止画と文字だけでイメージを共有するには限界がありますね。
亀山:一方で絵コンテの強みは、ストーリーの展開や大まかな流れをリストとして一度に俯瞰して見られるところだと思います。ビデオコンテだと再生しなければ全体の流れが見えず、毎回リニアな確認になってしまうので、大まかな構成の確認をするうえでの利点は絵コンテにあるような気がします。
--制作工程を変えて別作品を手がけることは考えているのでしょうか?
亀山:関わる作品の規模や環境によっては絵コンテから作らないといけないこともあるかもしれないですね。ただ『ミルキー☆サブウェイ』と同じような座組であれば、ビデオコンテにそこまで欠点は感じなかったですし、この方式のまま作るのではないかと思います。
--今後も個人制作にはこだわっていくんでしょうか?
亀山:いえ、作品の需要が大きくなった分、そこにこだわりを持たなくてもいいかなと。提供する側としての責任が増えてきているので、人に任せられるところはお願いして作っていく必要があると思っています。自分の場合は、今は知り合いとスタッフ集めをして活動を広げている段階です。知り合いのクリエイターもいろいろなきっかけで仲間集めをしていますが、ほとんどはSNSでつながっているので、手段に正解はないと思いますが、SNSで主体的に作品をあげたり連絡を取ったりを続けていけば一緒に仕事ができる仲間は見つかると思います。
--『ミルキー☆サブウェイ』の大ヒットについて、先ほどのイベントでは「あまり実感はない」とおっしゃっていましたね。
亀山:当然、妄想として「こんだけ売れてくれたら最高だなぁ」というビジョンはありましたが(笑)、そんなことにはなってくれないだろうと。夢を大きく持ちすぎないようにしていました。だから劇場版まで作らせてもらって、多くの人に観てもらっている今の結果は、本当に想像していなかったレベルまでいっています。ある程度の人に好きになってもらって、ファンアートを描いてもらえるレベルまでいったら嬉しいな……と思っていたくらいです。だからそれ以上に広まって、今ではIPとして描き下ろしをしたり、続編をしっかり展開させないといけなかったりといったところまで辿り着いている現状を考えると、ヒットした嬉しさもありつつ、どんどん増えていく責任感に対して気負いもあります。今日のトークイベントのような舞台はある種の夢ではあったので、おしゃべりも好きですしそれが叶って嬉しい気持ちももちろんありますが、今はそういう場が増えたので、そろそろ制作に戻って集中したいという気持ちもあります(笑)。
--今はすでに何か新しい作品を作っているんですか?
亀山:新しい作品のための環境づくりはしつつ、『ミルキー☆サブウェイ』はやっぱり続けていきたいなという気持ちがありますが、「IPにも賞味期限が来ちゃうんだろうな」とも思っています。そのうち『ミルキー☆サブウェイ』1本ではやっていけないときも来ると思っていますし、そのときは新しいことに挑戦するタイミングだろうなと考えています。
--今後の活躍も非常に楽しみにしています。
亀山:最近は以前ほどハリウッド映画に枠を取られなくなったり、国内コンテンツが想像以上にヒットしていたり、今の日本の劇場にはこれまでにない状況が展開されています。そういう意味では『ミルキー☆サブウェイ』は、オーソドックスな映画と比べるといろいろと不思議なバランスの作品にはなっていると思います。新感覚のエンタメとして、劇場の環境で観てもらえたら嬉しいですし、新しい経験ができるのではないかなと思うので、これをきっかけに劇場に足を運んでもらえれば、と思います。(文=リアルサウンド編集部)
