プレゼンテーションするホンダの三部敏宏社長(筆者撮影)

「ホンダの未来」がうっすらと見えてきた――。

10月上旬に行われた「ホンダ 0(ゼロ)テックミーティング2024」で、三部敏宏社長の回答を聞いてそう感じた。

ゼロテックミーティングは、栃木県芳賀町にある本田技研工業(ホンダ)の四輪/BEV(バッテリーEV)開発センターと四輪生産本部で行われた、技術と事業方針の発表イベントである。

CESで発表したプロトタイプに乗る

ホンダは、2040年までにグローバルで販売する新車の100%をEV・FCEV(燃料電池車)化すると宣言している。そうした高い目標に向けた最初の一歩が、ホンダ「0(ゼロ)シリーズ」だ。

0シリーズは、2024年1月のアメリカ・CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)で2つのコンセプトモデルを世界初公開。そのうちのひとつである「サルーン」を2026年に量産することが決まっている。


ホンダ「0シリーズ」のコンセプトモデル「SALOON」(筆者撮影)

そして2030年までに、ミッドサイズSUV、3列シート大型SUV、コンパクトSUV、エントリーレベルのコンパクトSUV、スモールサイズSUV、そしてコンパクトセダン、サルーンと、合わせて合計7モデルを導入する計画だ。

ホンダはすでに、中国市場に特化したBEVラインアップを導入するなどしているが、ゼロシリーズはこれまでとは違う技術でアプローチする、次世代BEVとなる。

今回のゼロテックミーティングでは、まずゼロシリーズの技術をフル装備した、「CR-V」ベースのプロトタイプをテストコースで試乗した。

搭載電池容量や車重など詳細なスペックは公開されなかったが、車重は2トン近いものと推定される。それでも、コーナーでの先読みがしやすいハンドリング、アクセルによる車速コントロールのしやすさを実感できた。

【写真】ホンダ0テックミーティング2024で見た未来への布石

新開発の低重心・低慣性プラットフォーム、薄型バッテリー、小型軽量・高効率のeアクスル(モーター・インバーター・ギア)の採用に加えて、歩行ロボット「アシモ」で培った3次元ジャイロ姿勢推定と安定化に対する制御を採用。結果的に「意のままにドライブ」できる感覚となっていた。


ゼロシリーズの技術を搭載した、SUVとセダンのプロトタイプ。筆者はSUVに試乗した(筆者撮影)

筆者はこの11日前、ホンダの北海道鷹栖町にある大規模テストコースで、量産型の燃料電池車「CR-V e:FCEV」を試乗していたが、ハンドリング・乗り味・走行感が、ゼロシリーズSUVプロトタイプも“同じ方向性”にあると感じた。

つまり、“ホンダらしい”走りが統一されているということだ。

そのほかにも先進ドライバー運転支援(ADAS) や自動運転技術、データやサービスを敏速に行うためのE&Eアーキテクチャー、AIを使った車内および車外でのドライバーの意図理解・行動予測、遠隔からの仮想同乗などの最新技術を体験し、量産レベルに達していることを肌で感じることができた。

変わる「バリューチェーン」

四輪生産本部では、6000トン級で行う鋳造技術、いわゆるメガキャストで生産するゼロシリーズ向けバッテリーパックの製造工程や、ホンダが独自に開発した直流を制御する溶接手法「CDC」などについて詳しい説明を受けた。

丸1日にわたり行われたゼロテックミーティングを通じて、ゼロシリーズの技術的な背景や、ホンダ技術のポテンシャルはよくわかったが、その一方で「コスパと実用性を考慮したクオリティ」と「他社との差別化」とのバランスの難しさを感じたことも事実だ。


メガキャスト技術で作られた車体部品の一部(筆者撮影)

各種の技術とサービスがゼロシリーズの魅力を高めることはわかる。しかし、BEVがグローバルで急激に進化する中で、ユーザーが“ホンダらしさ”をどうとらえるのかは未知数である。

そこでキーになるのが、いわゆる「バリューチェーンの変革」だ。ここでいうバリューチェーンとは、ユーザーが新車を手にしたあとのサービス領域全般を指す。

一方で、自動車製造過程での材料や部品の調達、そして最終組み立ての領域をサプライチェーンと呼んでいる。現在の自動車産業は、実質的にサプライチェーンとバリューチェーンが分離している構造だ。

これが次世代BEVになると、充電・給電によるエネルギーマネジメントや、バッテリーのリサイクル・リユース、SDV(ソフトウェア・デファインド・ヴィークル)化によるデータ管理・通信まで、さまざまな領域が枠を超えて関わっていくことになる。

そこで、三部社長に対して「バリューチェーンの変革やメーカー/ディーラー/ユーザーとの関わり方は、どう変わっていくのか」と尋ねた。

これに対して三部社長は、ハードウェア/ソフトウェアという2つの視点から回答した。電動化については、電池の材料調達・製造、リユース、充電などで「複数の事業が立ち上がっている」とする。


ホンダが描く、EV関連のバリューチェーンに関する提案の一部(筆者撮影)

具体的には三菱商事と協業するALTNA(オルタナ)や、アメリカで自動車メーカー7社と協業するIONNA(イオンナ)などだ。それら各事業が最終的にはエコシステムとしてつながり、新しいビジネスの構築を目指すという。

初めての「踏み込んだ」発言

そのうえで示したのが「(従来のような)開発、生産、売り切る(ビジネスの形)とはかなり変わってくる」とのイメージだ。各種事業が動き出すのは、ゼロシリーズが市場導入される2026年からの想定だという。

2028年ごろにはゼロシリーズの中古車が生まれ、バッテリーのリユースなどが始まるため、2030年代までに新しいバリューチェーンが動き出すというシナリオだ。

また、SDVに対しては「ソフトウェアとともにハードウェアの進化も必要」だとして、車載システムのハードウェアには導入初期から一定以上のスペックを持たせる必要性を示した。

ハードウェアの導入サイクルも、半導体の高度化などにともない「3年程度で進化する」との見解だ。


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また、ソフトウェア領域は今後、自動車産業やIT産業界での標準化が進むことも想定されるため、単独での収益性については慎重に考えていくという。

最後に、このような自動車産業のバリューチェーンに対するホンダの事業方針については、「また別の機会を設けて説明したい」と語った。

バリューチェーンの変革について、ホンダとしてここまで踏み込んで話したのは、筆者が知る限り今回が初めてだ。EVシフトを踏まえたホンダのビジネスモデルのシフトは、これからもフォローしていきたい。

【写真】プロトタイプ車両から技術展示まで0テックミーティングの中身

(桃田 健史 : ジャーナリスト)