6回、中谷(左)はペッチに強烈な左ストレートを放つ(カメラ・小林 泰斗)

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◆プロボクシング ▽WBC世界バンタム級(53・5キロ以下)タイトルマッチ12回戦 ○王者・中谷潤人(6回TKO)同級1位ペッチ・ソー・チットパッタナ●(14日、東京・有明アリーナ)

 WBC世界バンタム級王者・中谷潤人(26)=M・T=が、同級1位ペッチ・ソー・チットパッタナ(30)=タイ=の挑戦を6回2分59秒、TKOで退け、2度目の防衛に成功した。5年4か月ぶりとなったサウスポーとの対戦を苦にせず、6回に連打で最初のダウンを奪うと、終了間際にもパンチをまとめてダウンを演出。レフェリーが試合を止めた。中谷は試合後、世界最強を示すため、次戦は他団体王者との王座統一戦を目指したいとアピールした。

 まるで中谷のワンマンショーだ。王者はアッパー、体を崩しながらの左フック、相手の腹をえぐる左ボディーと「カギとなる3つのパンチ」で76勝1敗のペッチを圧倒。6回、ワンツー、アッパーの連打で、ダウン経験のない挑戦者を倒した。なおもパンチをまとめて再びダウンさせるとレフェリーが試合を止めた。

 「試合をしながら戦う距離を勉強しながらパンチのタイミングを見極めて試合を組み立てた。ダウン経験ない選手をKOできてよかった」と中谷。国内史上最大級となる2日間での8大タイトル戦の“大トリ”起用の期待にキッチリ応えた。

 8月から米ロサンゼルスで恒例の強化合宿を実施。スーパーバンタム級の世界4団体統一王者・井上尚弥(大橋)らの相手を務めたラミド(米国)ら160回のスパーリングでサウスポー対策を徹底。帰国してからも12ラウンドを2度行うなど約200回の実戦練習で仕上げた。

 7月に世界1位アストロラビオ(フィリピン)をボディー一発で初回に仕留め、世界的注目は更に高まった。世界の名選手をプロモートしてきた米興行大手トップランク社と契約。ビッグマッチのチャンスが広がった。「評価してもらえて、すごく光栄。歴史に名を刻めるよう頑張る」という中谷に、92歳のボブ・アラムCEOは来年、井上尚との対戦まで期待する。指導するルディ・エルナンデス・トレーナーは練習の時に尚弥の名前を出すことが増えた。

 「確かに多くなっている。日本人がパウンド・フォー・パウンド(PFP、全階級での最強ランキング)の上位(尚弥が2位、中谷は9位)にいるなら当然、そういう考えになる。階級も近いし」と中谷。尚弥については「どんな試合でもしっかりアジャストできる対応力が優れていると思う」と分析するが、「PFPで1位になるためにも統一戦で勝ちたい。それに僕はまだ、バンタム級なので。今日のようにまた、KOをお見せしたい」と言う。前日、WBA王者が井上拓真(大橋)から堤聖也(角海老宝石)に変わったが、4団体王者は全て日本人。中谷は今はまだ、その中での最強を示すことだけしか考えていない。(谷口 隆俊)

 ◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重県生まれ。26歳。ボクシングは中1から。中学卒業後、単身で米国留学。2015年4月にプロデビュー。16年度全日本フライ級新人王。19年2月、日本同級王座獲得。20年11月、WBO世界同級王座獲得(2度防衛)。23年5月にWBO世界スーパーフライ級王座、24年2月にWBC世界バンタム級王座を獲得し、世界3階級制覇を達成。172センチの左ボクサーファイター。家族は両親と弟。

 ◆山中慎介Point

 中谷の試合を見て改めて「さすがだ」と感じた。実力あるサウスポーの挑戦者に、開始直後はやりづらそうな印象を受けた。ズルズル苦手意識を引きずるどころか、3回には早くもパンチがヒットし始める。さらに圧巻だったのは相手との距離が遠かろうが、近かろうがお構いなし。しっかり倒して勝ってしまうのだから手が着けられない。バンタム級には4人の日本人世界王者が存在するが、文句なしに最強だろう。(元WBC世界バンタム級王者)