ニトリは約30年で急成長を遂げた企業だ。背景には何があったのか。流通アナリストの中井彰人さんは「製造物流IT小売業として、コストパフォーマンスの高い商品を提供していることに加えて、『インテリア雑貨+家具の店』という品揃えを選んだことの効果が大きい」という――。
写真=共同通信社
ニトリの店舗=東京都世田谷区 - 写真=共同通信社

■増収増益記録が36期でストップしたニトリ

ドン・キホーテの運営会社パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)は、2024年6月期で35期連続増収増益を達成し、さらに2025年6月期で、36期連続も達成見込みである、と発表されていた。PPIHの記録更新を後押ししたのが、円安を背景としたインバウンド需要の拡大であり、同社の通期免税売上高は1173億円(前期比+790億円)にも達し、増益にも大きく貢献したという。一方で、同じく円安の影響から、増収増益の世界記録を持っていたニトリホールディングスの2024年3月期決算は、増収ながら減益となり、36期で連続記録はストップした。

製造物流IT小売業を自称するニトリは、そのインフラを背景に、自社製品の海外生産から国内販売までを一気通貫したサプライチェーンが強みであることで知られているが、さすがにピーク時160円にまで進行した円安には抗しきれず、記録は途絶えた。減益決算発表時は株価も大きく下落する等、市場は過敏に反応したが、その後、日米金利政策の影響もあって、円安がピークを越え、円高方向へと戻る傾向が見えてくると、株価も急速に決算前の水準に戻した。

この会社の市場評価は、為替によって大きく変動するようだ。実際のところ、この会社、これからも成長可能なのか、それとも市場飽和に差し掛かっているのか、少し様子を見てみたい。

■北海道の地場家具チェーンから、急速な成長を遂げた

1994年時点では、24店舗、売上193億円の北海道の地場家具チェーンであったニトリは、2000年代以降、急速な成長を遂げ、30年で売上約9000億円の大手小売企業となった(図表1)。この規模は、日本の家具小売市場が、ざっくり1兆1000億円強といわれていることを考えれば、ものすごい寡占ということになるのだが、ニトリの売上の半分以上(公表していないので推定)がインテリア等雑貨だと考えられるため、実際はそこまではいかないだろう。ただ、家具インテリア小売業で関連売上を、公表データの範囲で並べてみても、その売上規模は突出しており、他の追随を許さない圧倒的な存在であることは間違いない(図表2)。

ニトリホールディングスIR資料より
筆者作成

■「コスパの高いインテリア雑貨+家具の店」という品揃え

ここまで圧倒的な存在となった背景は、製造物流IT小売業(図表3)として、自社商品を海外でコストを抑えて生産し、ITと自社物流のインフラで一気通貫されたサプライチェーンを構築したことで、コストパフォーマンスの高い(「お、ねだん以上」と表現している)家具、インテリア商品を提供しているから、である。

ニトリHPより

ただ、この凄い仕組みの話は、いろいろなところで語られているので、あえてここでは触れない。それよりも、なぜ、ニトリだけが製造物流IT小売に進化できたかを取り上げたい。それは、ニトリが家具店ではなく、コスパの高いインテリア雑貨+家具の店という品揃えを選んだことにある。「?」だと思うので、この点について説明したい。

ニトリの店舗は、1階にインテリア雑貨、キッチン用品などのいわゆるホームファッション(家周りの様々な小物雑貨類)が並び、2階以上に家具などの大物が展示されている作りになっていることはご存知であろう。一般的に家具を買いに行く、という機会はどのくらいか思い出していただきたいのだが、普通は月に1回行くかどうか、という感じではないだろうか。なので、家具を見に行くだけの店ならば、そんな頻度でしか消費者は来店しないだろう。

■1階の雑貨群で女性消費者の心をつかむことに成功

しかし、家周りの生活雑貨類や消耗品も揃えたニトリの1階は、週単位で買物に来てくれる品揃えになっている。この1階があることで、ニトリは普通の家具店の何倍も来店してもらうことができる。その上、その商品は十分にコスパが高いため、徐々にリピーターを増やしていくことができた。同業比、圧倒的な来店頻度を獲得したニトリは、来店した顧客の家具探索のタイミングに2階に上がってもらうことで、家具のコスパも伝えることができた。ニトリの成長のカギは1階の雑貨群にあったのである。

図表1をもう一度見てもらうと、2000年以降に、売上の増え方が急加速していることがわかるだろう。この時期、女性の免許保有率が上がり、軽自動車の普及が急速に進んだことで、地方の女性消費者がパーソナルカーという機動力を持ち始めた時代と重なる。コスパの高い雑貨類を備えたニトリは、まず雑貨で女性消費者の心をつかむことに成功した。そして、実質的には家庭の財布を握っている女性消費者の家具購入タイミングをつかむことができた。ニトリは雑貨を撒き餌として、単価の高い家具需要をも、一気に取り込んでいくのである。並行してサプライチェーンの効率化を進めたニトリは、商品のコスパで他社の追随を許さない域まで進化、マーケットで圧倒的な地位を確立したのだ。

■国内マーケットの制覇は国内での成長余地の限界を意味する

こうして雑貨+家具コスパ大型店として地方のロードサイドを席捲したニトリにとっての最初のハードルは、大都市マーケットの攻略だった。広い一戸建てが基本の地方と、狭い戸建て、マンションなどに住んでいて、家具をあまり置けない大都市生活者のニーズは異なる。また、地方のような大型店を出すスペースが少なく、地代も高い大都市圏では、従来型の店舗の出店余地は少ない。そこで「デコホーム」という都市型小型店舗が登場する。ホームファッション雑貨と軽めの家具で再構成したデコホームを商業施設内に出店することで、大都市への進出を可能にした。デコホームは、前期末174店舗に増えているが、これによりニトリの実質的な全国展開の道筋は整った、といえるだろう。

こうしてニトリは国内マーケットをほぼ制覇するメドがついたのであるが、それは国内での成長余地の限界が見えてくるということでもある。会社でも国内での飽和に対する考え方を公表していて、地域ごとの人口あたり売上を比較して、低い地域を最も高い水準に引き上げていく、そして、品揃え、サービスの幅を広げることで全体の水準を引き上げていくことで、成長余地を生み出せるというものだ。

■一人あたり売上を上げれば成長余地は生み出せる

図表4は、この考え方に沿って各地域の一人あたり売上から実際に試算してみたものである。確かに会社の言う通り、2023年度実績で最も高いのは地元北海道(6万3000円)だが、最も低い東北は4万7000円とかなり差はある。また、コロナ前の2018年度と比べてみると、どの地域も概ね1000円ほど引き上げられている。会社の言う通り、商品、サービスの拡張で消費者への浸透を図っていく、という考え方は十分ありうるということだろう。これでいくと、一人あたり売上7万円、8万円、9万円へと上げていくことで、+2500億円、+3700億円、+5000億円ほどの成長余地を生み出すことが可能、といったイメージである。

ニトリIR資料より筆者作成

■売上3兆円に到達するには海外の成長が不可欠

ただ、これでは2032年ビジョンとして会社が目指す売上3兆円には遠く及ばない。国内が1兆5000億円まで行けたとしても、海外を同規模まで成長させなければ、目指すステージには行けない、ということだ。海外店舗数は2022年度末129店舗から2023年度末179店舗と一気に50店舗を増やした。さらに今期は国内55店舗純増に対して、海外は116店舗の純増が計画されており、アジア地域でのさらなる出店加速が見込まれている。このペースでの成長がどの程度、業績に貢献するのか、詳細はまだ明らかにはなっていないが、ここは会社のチャレンジ精神に大いに期待したい。

ニトリは家具チェーンからスタートして、今や、家の内側に関するあらゆる商品、サービスを提供する企業へと進化した。家具業界での圧倒的シェアを獲得するとともに、生活雑貨全般においての存在感も大きい。さらに、ECチャネル開発、アパレル、家電製品などを軸に、ダイニング事業、ショッピングモール事業、リフォーム事業などにも取り組み、布石を打っている。

家具、インテリアにおいて圧倒的なシェアを得てしまっているため、既存事業での成長余地が限定的ではあるが、領域の拡張に取り組んで少しずつ実現しつつある。円安に苦しんだ2023年度を経て、直近では既存店売上、特に客数が回復基調にある(図表5)。連続増収増益の軛から解放されたニトリが新たにどんな布石を打ってくるか、大いに期待したい。

ニトリIR資料より筆者作成

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中井 彰人(なかい・あきひと)
流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。
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(流通アナリスト 中井 彰人)