「何これ……?」。激しい陣痛に襲われ、自宅のトイレで男の子を出産した34歳女性。その後、彼女がとったあまりにも残酷で、あまりにも身勝手な「行動」とは…。ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 女の性犯罪事件簿』(鉄人社)より一部抜粋してお届け。なお本書の登場人物はすべて仮名であり、情報は初出誌掲載当時のものである。(全2回の1回目/後編を読む)

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写真はイメージ ©getty

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実の子をトイレで水死させた「34歳女性の人生」

 長らくキャバレーで働いていた吉田悦子(34)は、風営法改正を機にヘルスに転職することにした。「常連客には手●する」という店のサービスが違法営業に当たり、「いずれは客層も変えて、新規キャバクラでやっていくしかない」という店側の方針が、三十路の悦子には合わなくなったからである。

 悦子は大手ヘルス系列の面接を受け、人妻専門の店で働くことになった。さっそく風俗マスコミの取材も受け、顔を手で隠しているにもかかわらず、「妖艶な雰囲気の元高級クラブ嬢」という吹聴がウケて、早々と客が殺到する人気嬢になった。

「ホントに人妻なの?」
「実はバツイチ。18歳で結婚したんだけど、20歳で別れてね。それ以来、男性と縁がないの」

 性的サービスもさることながら、悦子はテレクラにハマっていた時期もあり、男を喜ばせる会話のツボを知っていた。

 そんな中で恋仲になったのが、妻子ある遠藤茂(41)だった。遠藤は初期の頃の客だったが、店外デートに誘い、泊りがけの温泉旅行に成功。

 悦子が遠方の地方都市から店に出勤し、終電を気にしながら働いていることを知ると、「近くでマンションを借りたらいい。ボクが保証人になってあげるよ」と言って金を出し、すっかり信頼を得ることになった。

「ありがとう。これからはいっぱいHしようね!」

 それ以来、2人は暇さえあれば、情事にふけるようになった。遠藤はそれだけでなく、自分の勤務先で働けるように斡旋した。

 会社の事務室やトイレでこっそり卑猥な行為をするスリルを味わい、半年ほど夢のようなセクハラライフを楽しんでいたが、それがバレて社長に呼び出され、2人そろってクビになった。

 遠藤は悦子との交際どころか、離婚危機に陥り、妻子と別居。必然的に悦子のマンションに転がり込み、就職活動したが、以前のような条件で働ける職場はなかなか見つからなかった。

 悦子は再び風俗店で働くようになり、少しでも収入を増やそうと、店には内緒で「本番」を持ちかけるようになった。

「私と1万円追加でどう?」
「えっ、いいのかい?」
「お店には内緒にしてよ。あなただからOKするのよ」

 こう言われると、たいていの常連客は1万円札を差し出してきた。

「旦那さんは店でこうやってしてることを知ってるの?」
「知るわけないじゃん。知ったら泣くよ」
「最近はいつしたの?」
「今日の昼間にしたよ。キャハハ…」

 遠藤を夫に見立てて、あれこれ私情を話すと、客は喜んでリピートしてきた。悦子の客は常連ばかりとなり、本番の臨時収入があるので、以前のように半日出勤でラクに過ごせるようになった。

 事実、遠藤は悦子が客と本番までしていることまでは知らなかった。妻との離婚は条件面で折り合わず、すぐに悦子と再婚することもできなかった。その点だけは慎重で、遠藤は常にコンドームを着けるようにしていた。

妊娠した子供をトイレで…

 ところが1年後、悦子は客の子供を妊娠してしまったのである。

「どうしよう…」

 あの人かもしれない、この人かもしれない…。心当たりを考えても、該当する客は十数人にのぼっていた。

 遠藤が相手である可能性はゼロに近かった。何とか既成事実を作ろうとしたが、遠藤は頑なだった。

「今日はナマでしてよ」
「ダメだよ。妊娠させたら困るから」
「私が嫌いなの?」
「そうじゃないけど、今はダメだ」

 悦子はますます遠藤に切り出しにくくなった。毎日腹の周りばかり気になり、中絶するにしても、遠藤にどうやって「病院に行く理由」を話すか、そればかり気にしていた。

 妊娠6カ月を過ぎると、法的に堕胎できない。「まだ時間はある」と思いつつも、妙案は浮かばず、客とはヤケクソで膣内射精するようになり、料金は1回2万円を取った。

 そんなふうだから、悦子の人気はさらに沸騰し、予約なしでは入れないプレミアム嬢となった。

 5カ月後のある日の未明、悦子は激しい陣痛に襲われ、自宅のトイレで男の子を出産した。身長約33センチ、体重約880グラムの未熟児だった。

「何これ……?」

 産声も上げず、もぞもぞと手足を動かす様子を見て、我が子を慈しむ感情どころか、自分に巣食っていた寄生虫の正体を見たかのような気になり、悦子はとっさに便器に放り投げた。
    
「このまま流しちゃえば、誰にも気付かれないわ…」

 浅はかな考えと身勝手な被害者意識の末、悦子はタンクのレバーを回した。

 ジャーッという音と共に、我が子は配水管の奥へと消えていった。

「これで安心だ」

恋人が「水が流れていかない」と大騒ぎ…“生まれたばかりのわが子”をトイレに流した「34歳女性のその後」(2008年の事件)〉へ続く

(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))