◆「実は満点」のエヌビディア決算で株価が下落した理由

 ジャクソンホール会議、エヌビディア 決算と大きなイベントを通過し、8月の荒れ相場から脱したと思ったら、9月に入って再び振れ幅の大きな展開を見せている米国株市場。いまの米国経済は、インフレは収まりつつあり、消費もそれほど落ち込んではいないが雇用には不安がある、といった具合で、一概に捉えることができない状況だ。それを9月17日から始まるFOMC(米連邦公開市場委員会)ではどう判断していくのかが次の焦点になる。

 9月の利下げ開始は濃厚で、マーケットはすでに年内1%以上の利下げを織り込み出したが、さすがにこれは行き過ぎのような気がする。今後、毎月発表される雇用統計、CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)などの各指標を睨みながら、FRB(米連邦制度準備理事会)が慎重に判断していくのではないだろうか。

 ところで、ここで改めて、世界中が注目したエヌビディアの決算と、その後の株式マーケットの反応を振り返ってみたい。ご存じのように、同社は好決算を発表しながらもマーケットは好感せず、株価が大きく下落した。さらに9月に入ると、米司法省から反トラスト法違反の嫌疑をかけられたとの報道もあって、同社の株価はついに100ドル台まで下落した。いよいよエヌビディア神話の終焉かという声が高まっているが、はたして、一連のマーケットの反応は本質的なものと考えていいのだろうか。

 決算後に同社の株価が下落したのには3つの大きな理由がある。一つは24年第3四半期(8~10月)のガイダンス(業績予想)が、市場予想の最大値に届かなかったことだ。だがこれは過剰反応で、そもそも今回の決算では、楽観派と悲観派との間で事前のマーケットの予想値の幅が広すぎて、本来のコンセンサス(平均値)の役割を果たしていなかった。

 先日、半導体産業のリサーチャーたちと話をする機会があったのだが、彼らが言うのは「今回の決算内容は基本的には満点で、予想値が高過ぎただけだ。そんな楽観的な予想をすること自体がおかしい」と。まったく同感で、素直に決算内容を見ると、相変わらず前年同期比で2倍以上の増収となっているし、現段階のAI半導体への中心的なニーズ、「学習」については同社の製品力は圧倒的で、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD) やインテル などがいくら頑張っても太刀打ちできない状態だ。

 彼らによると、データセンターに適したAI半導体として、エヌビディア製のGPU(画像処理半導体)の評価はますます高まっている。次世代製品の「ブラックウェル」の生産遅延が伝えられているが、製品自体の評判は抜群にいい。AIの次の段階として「推論」がニーズの中心になると、初めて他社にもチャンスが出てくるが、それはまだかなり先の話。エヌビディアも推論性能を高めたCPU(中央演算処理装置)、「グレース」の強化を進めているので、すぐにキャッチアップすることはできないだろう、ということだ。

◆エヌビディアに対してマーケットが感じ始めた二つの疑念

 二つ目はエヌビディアの顧客たち、つまりマイクロソフト やグーグル(アルファベット )、アマゾン・ドット・コム などの大手クラウドサービス企業の投資回収の遅れに対するマーケットの懸念だ。先日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、データセンターへの投資回収に対するマーケットの期待値は、おおむね4年間で投資額の5倍の収益を上げることなのだという。