この基準に当てはめれば、毎年、1.5~1.7倍ぐらいの利益成長が求められる計算になる。つまり、各社の現在の利益成長率では物足りないということだ。エヌビディアの決算説明会でもこの点の質問が相次いだそうだが、ジェンスン・フアンCEOは抽象的な話ばかりで明確な回答をしなかった。そこがマーケットの失望を生んでしまったようだ。

 そしてもう一つは、エヌビディアの業績そのものへの疑念だ。フアンCEOは現行モデルの「H-100」の需要が旺盛で、「顧客が列をつくっている」と述べていたが、それならなぜ、マージン(売上総利益率)が下がるのか、という指摘がマーケットから出てきているのだ。2024年に入って同社決算では、第1四半期のマージンが78.9%と市場予想を約2%上振れた。これがサプライズの要因の一つだったのだが、第2四半期は75.7%となり、市場予想を0.2%上振れたに過ぎなかった。同社の見込みでは、第3四半期にさらにマージンが下がる見込みで75.0%になるという。それだけ需要が旺盛なのに、何故、マージンが低下するのか、というのだ。

 これまでマーケットは、エヌビディアの次世代半導体、高価格が予想される「ブラックウェル」の出荷が第3四半期から始まることを織り込んできた。だが、同製品の生産遅延によって、計算に狂いが生じてしまった。私が感じるのは、この誤差をマーケットはまだかみ砕けていないのではないか、ということだ。

◆名ばかりのAI投資はもういらない……すでに利益を生むメタには高評価

 エヌビディアと同日に発表されたセールスフォース 決算も、AI相場の今後を占う試金石として注目された。だが、ここでも売り上げ、利益ともに市場予想を上回りながら、ガイダンスで次の四半期の減速が示唆されると、翌日の株価はじりじりと下落した。やはりAI投資の回収状況に、市場が敏感になっているのだ。少し引いて考えてみれば、AIの社会への普及はまだ始まったばかりだし、エンドユーザーに近い同社のような企業のAIでの収益化はまだ先の話だ。だが、それならいまはまだ買いたくない、というのがマーケットの本音のようだ。

 一方、今回の決算ですでにAI投資の効果が目に見えて表れ始めたのが、メタ・プラットフォームズ だ。広告事業がAI効果で市場予想を上回る結果となり、今後も成長が続くという見通しを発表したことによって、GAFAMの中では唯一、決算後の株価が上昇した。メタの強みはGAFAMの中では唯一の創業者経営で、変化に対して迅速に対応できるところにある。

 例えば、従業員一人当たりの利益は、2020年以降、コロナ禍の需要拡大と収縮で大きく変動したが、いち早くリストラに踏み切り、今年になってAIに経営資源を振り向けると瞬く間に業績が改善し、一人当たり利益も大幅に伸びている。AIは利益になかなか結び付かない、という見方が広がり始める中で、ビッグテックではメタだけがすでに明確な結果を出していて、この点が株式マーケットからも評価されているのだ。
 
◆今こそカンニング戦略が有効、狙い目は"ハイテク寄りの不動産"セクター

 ともあれ、8月以降の米国株市場の動向を見ると、これまでハイテク一辺倒だった物色対象が他のセクター、特に生活必需品や不動産、ヘルスケアなどのセクターにも広がり始めたことは確かだろう。実際、ウォルマート は8月に株価が12%上昇し、コストコ・ホールセール も8%上昇。最大手家電量販店のベスト・バイ は16%の上昇となり、ハイテク・セクターをはるかにしのぐパフォーマンスとなっている。