久々に代表復帰した伊東。決定的な仕事に期待がかかる。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部)

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「三笘(薫=ブライトン)と伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)の起用については、試合を見て楽しんでいただければなと思います。2人とも日本代表にとって大きな武器。最大限、自分の武器を発揮して、得点に絡んでもらうことを期待しています」

 9月5日に行なわれる北中米ワールドカップ・アジア最終予選の初戦となる中国戦を翌日に控えた公式会見で、森保一監督は両翼のエースへの絶対的信頼を改めて口にした。

 2人が揃ってスタートから出るなら、2023年9月のドイツ戦以来。その間のトップ下に久保建英(レアル・ソシエダ)が入るようなことになれば、久保本人が「ロマン」と表現するほどの豪華陣容になるのだ。

 とはいえ、「それ相応のリスクもある」と久保が認めるように、この2列目トリオが中国完全攻略の最適解になるとは言い切れないところがある。久しぶりのコンビになるうえ、守備面で一抹の不安が見て取れるからだ。

 特に10日の次戦・バーレーン戦を視野に入れると、怪我がちで消耗の激しい三笘のフル稼働は難しい。その分、タフで連戦OKの伊東にかかる部分は大きい。前回の最終予選で日本の全12ゴール中7ゴールに絡んだ“イナズマ純也”の存在価値は、やはり頭抜けたものがあるのだ。

「前回の救世主? それは自分のやるべきことをやっただけ。ゴールやアシストは自分が一番やらなくてはいけないことだった。それがうまくできて、チームも勝たせられてよかったです」と、本人も3年前の目覚ましい活躍を思い返していたが、ベルギーでプレーしていた当時よりも、今は個のレベルや国際経験値は格段に上がっている。
 
 半年以上、代表から遠ざかったため、周囲の面々との連係や感覚は少し鈍っている部分もあるかもしれない。が、10〜20メートルのロングスプリントから凄まじいスピードで敵を剥がして決定機を作れるアタッカーは、やはりこの男だけ。その強みを最大限発揮していくことが、日本勝利の近道になるのは間違いないはずだ。

「純也君が出る時は、チームとして彼のスピードを活かした攻撃が1つのパターンになると思う。(僕自身が)ゴール前でどういうタイミングでクロスに入っていくかっていうところは、いつも話をしています」と、トップ下で先発候補の南野拓実(モナコ)も言う。

 伊東に大きなスペースを与えるために、中盤が近い距離で連係して敵を引き付けたり、縦関係を形成する菅原由勢(サウサンプトン)が多彩なポジション取りでメリハリをつけていくこともより一層、求められてくる。

 今年1〜2月のアジアカップでは、彼ら右の縦関係が対戦相手に分析・研究され、人数をかけて守られるという苦境に直面した。98年フランスW杯で、クロアチア代表コーチを務めていた頃から日本代表をチェックし続けている敵将ブランコ・イバンコビッチ監督も、そのストロングを徹底的に消しに来るに違いない。

 そうなった時、伊東があえて黒子の役割に徹し、マークを引き付けて、他の選手をフリーにする形を作り出すことも重要だ。3年前の彼はガムシャラに前へ前へと突き進み、圧倒的な推進力で結果を残していたが、今はより効率的にプレーしてもいい。多彩な仕事ぶりも必要になってくるのだ。
 
 S・ランスでの一挙手一投足を見ると、中村敬斗ら若いメンバーの良さや特長を引き出そうと意識的に取り組んでいる。7月のジャパンツアーではリーダーとしての自覚も口にしていた。

 日本代表でもそういった姿勢を見せてほしいもの。「周りを活かしつつ自らも活きる」というプレーを具現化できれば、伊東はもうひと皮もふた皮も剥けられるのではないか。

 31歳になった彼は目下、攻撃的プレーヤーの中ではチーム最年長。週刊誌報道を機に7か月、代表を離れたこと、その間、懸命に守り続けてくれた森保監督に対する恩に報いることを含め、大きな責任と自覚を持ってピッチに立つべきだ。
 
「前回は初戦を落として、自分たちで難しくしたアジア最終予選だった。わざわざ追い込まれに行く必要はないので、まずはしっかりと中国に勝って、良い状態で挑んでいければいいと思います。今はチームに貢献することしか頭にないし、チームのために頑張りたいです」と、本人も静かに闘志を燃やしていたが、見る者を納得させるためには結果を残すしかない。

 前回最終予選の4連続ゴールを上回るくらいの突出したパフォーマンスで、日本の右サイドの第一人者として真価を示してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)