実家の相続で相続税をおさえるにはどうすればいいか。税理士の大田貴広さんは「配偶者か同居親族か、あるいは3年以上賃貸暮らしをしている別居親族であれば相続税が80%抑えられる特例がある。ただし、条件があるため注意が必要だ」という――。

※本稿は、大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■自宅を誰に相続すれば相続税が節税できるか

自宅は配偶者か同居している家族が相続すると相続税が大きく軽減されます。相続税には「亡くなった方の自宅の土地を配偶者か同居している家族が引き継ぐと、土地の評価が80%オフになる」小規模宅地の特例というものがあります。

例えば自宅の土地の評価が5000万円の場合、80%オフで1000万円まで評価が下がります。4000万円も評価が下がりますので、税率が30%の場合は1200万円も節税できます。よって自宅を誰が相続するか迷ったら、まずは配偶者か同居している家族を優先的に候補にすることで節税できるのです。

限度面積は、330平方メートル(100坪)です。330平方メートルを超えている場合でも、330平方メートルまでは80%オフとなり、超えた部分は通常通りの評価となります。

『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)より

■住民票を移すだけの見せかけ同居はNG

小規模宅地の特例によって相続税は1000万円以上変わることもあります。すると「実際に同居していなくても、住民票だけ両親と一緒にしておけば認められますか?」と質問をされることがよくあります。結論から言うと、これはNGです。住民票のみ一緒でも、それは見せかけの同居にすぎませんので、特例を使うことはできません。

また、こう言うと「税務署が見せかけの同居かどうか分かるのですか?」という質問をされます。税務署が調べようと思ったら最後は、近隣住民への聞き込み調査まで徹底的にやりますので、油断は禁物です。実態として同居かどうかを見定めるにあたり税務署は次の項目を見て総合的に判断します。

・住民票
・郵便物(公共料金の領収書、民間企業からの請求書など)
・勤務先からの通勤手当の受給状況、会社への届け出住所
・通勤・通学定期
・子供の学校(公立の場合、近所の学校に通っていないとおかしい)
・相続人の通帳(住宅ローンの支払いがあるか、どこのATMを使っているか)
・大型家具の搬入日
・水道光熱費の使用量が通常通りか
・近隣住民への聞き込み(実際に住んでいたかどうか)

税務署はこれらを確認して総合的に判断しますので、住民票を親と一緒にしておくだけの見せかけの同居では、一発でバレてしまいます。

それでは、親の介護のために実際に亡くなる直前まで同居していた場合はどうでしょうか。結論は、ケースバイケースです。

■親の介護で同居する場合、元の家は売却か賃貸に

小規模宅地の特例には、相続後に10カ月間は住まなければならないという条件があります(配偶者が相続する場合、この制限はありません)。親の介護のためだけに同居していた場合は、親が亡くなったら実家に住み続ける理由がありませんので、相続後に10カ月間は住まなければならないという要件を満たせません。

仮に10カ月間実際に住んだとしても、小規模宅地の特例を使うために住んでいたのであって、10カ月経過後も引き続き住まないのであれば税務署から認められない可能性が高いのです。

この特例は、相続税を払うために自宅を売却して、住む所がなくならずに済むように作られた優遇措置であるため、元から家を持っている相続人は使えません。

親の介護のために同居していた相続人がこの特例を使うためには、元々住んでいた物件を手放すか、もしくは賃貸に出しましょう。このいずれかをやっておけば、親の実家が主たる住居である証拠となりますので、小規模宅地の特例を使える可能性が高くなります。

この特例は、相続後に10カ月間は住まなければならないという条件はありますが、実は、相続前に同居する期間には制限がありません。極論を言うと、法律上は亡くなる前日でも同居していれば特例を適用できるということになります。

実際に私が過去に申告したお客様で、亡くなる直前の2カ月間同居していただけで、小規模宅地の特例が認められたケースがあります。その方は実際に同居していましたので、住民票も変更していましたが、これだけだと決め手に欠けます。このお客様の場合、決め手は引っ越し業者からの領収書によって大型家具の搬入日が分かったことです。生前の同居の実態が証明できたことで、無事に特例を使って数百万円節税できました。

■別居家族でも80%オフになる「家なき子特例」

小規模宅地の特例は、基本は配偶者か同居親族が相続することを前提としていますが、実は、賃貸暮らしを3年以上続けている家族が相続した場合も特例を受けられます。

大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)

先ほど説明した通りこの特例は、相続税を払うために自宅を売却して、住む所がなくならずに済むように作られた優遇措置のため、持ち家がない家族の場合にも同様の取り扱いとなっています。このように小規模宅地の特例を別居親族が使えることを、俗に「家なき子特例」などと呼ぶことがあります。

ただし、家なき子特例は、配偶者か同居している家族が他にいない場合に初めて使えます。配偶者がいないということは、いわゆる二次相続の際にしか使えないということになります。よって二次相続において、実家を離れた子供の中で賃貸暮らしを3年以上続けている家族がいた場合、その方が家なき子特例を利用して、自宅を相続すると相続税が大きく軽減されます。

ここでいう賃貸暮らしは、第三者の家主から家を借りている場合に限られ、一定の親族が所有している物件を借りている場合は当てはまりませんのでご注意ください。

また家なき子特例の場合も、相続後10カ月間は所有していなければ使えません。よく「親の実家に引っ越して住まなければいけませんか」と聞かれることがありますが、結論としては、引っ越しをしなくても問題ありません。家なき子特例は別居が前提ですので、10カ月間所有さえしていれば、住まなくてもいいのです。

■親の土地に二世帯住宅を建てる際の落とし穴

親の土地に親子で二世帯住宅を建てる場合は、小規模宅地の特例が十分に使えない可能性があります。「親子で同居すれば小規模宅地の特例が使えるから相続税は安心だ」と思われている方は要注意です。

二世帯住宅で、特例が使えないのは「家屋を区分登記」している場合です。区分登記とはマンションやアパートのように、部屋や階ごとに登記をすることをいいます。例えば、親が暮らす1階と子供家族が暮らす2階を別の家屋としてそれぞれ登記する場合などが該当します。

このように家屋を別々で区分登記している場合には、子供が同居親族として小規模宅地の特例を使うことはできません。なぜなら区分登記の場合は、税法上同居してないと考えるからです。二世帯住宅を区分登記していると、税法上はアパートの101号室と303号室と同じように別々で暮らしていると考えるのです。

二世帯住宅で特例を適用するためには、「家屋全体に1棟の登記」をする必要があります。この場合は、一つの家屋で親子が同居している扱いとなり小規模宅地の特例を適用できます。よって家を建てる際は、小規模宅地の特例が使えるかも念頭に置きましょう。もし既に区分登記をしている家屋の場合でも、条件が揃えば、合併登記によって一つの家屋とすることによって小規模宅地の特例が使えます。

『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)より

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大田 貴広(おおた・たかひろ)
円満相続税理士法人 代表社員
歴10年の相続専門税理士。遺産総額100億円超から数千万円まで幅広い案件を手掛け、通算300件以上の相続税申告を担当。相続税の相談実績は3000人を超える。著書に『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)。
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(円満相続税理士法人 代表社員 大田 貴広)