スクラップブック形式のソーシャルメディア企業であるPinterestがオンラインショッピングの推進を強化する中、Pinterestを再び広告予算に追加するブランドも現れている。

「Pinterestは少し生まれ変わったようだ」と、ティヌイティ(Tinuiti)のシニアソーシャルイノベーションディレクター、ジャック・ジョンストン氏は語る。「誰もが信じられないほど好調にスタートしており、したがってエージェンシー全体でPinterestへの投資が45%増加したことがことしの第1四半期にはみられている」。

そう考えるのは、ジョンストン氏だけではない。

広告主復活の理由と新CEOによるショッピング機能強化



ワラルーメディア(Wallaroo Media)の創業者ブランドン・ドイル氏は、「最近、当社ではクライアントのためにさらにPinterestを活用している」と話す。このエージェンシーではおよそ135社のeコマースブランドと提携している。「Pinterestは最近、より多くのダイレクトレスポンスの広告ユニットを導入していて、うまくいっている」。

Pinterestにおける広告主の需要が復活した理由は、このソーシャルメディア会社のCEO、ビル・レディ氏(以前はGoogleのシニアエグゼクティブだった)が、プラットフォーム上のピンを保存するボードで目にしたものを購入しやすくするためにアプリを刷新したためである。

それまでのユーザーエクスペリエンスは、基本的にウィンドウショッピングに限られていた。Pinterestのアプリの投稿をスクロールすることはできたが、プラットフォーム自体で何かを購入する方法はなかったと、レディ氏はCNBCのインタビューで語っている。

現在は、ユーザーがアプリ上でほしいものを見つけたら、それをクリックすると小売業者のウェブストアにリダイレクトされることが可能となった。

また、レディ氏はブランドや小売業者が同プラットフォーム上に広告を出す方法も見直した。ことし、Pinterestはアルファベット(Alphabet)のGoogleとの契約に合意したと発表した。これによってPinterestのショッピングへの取り組みはさらに強化され、同社の広告収入が増加することになるだろう。

AI投資が生んだ急成長



これはPinterestにとって、昨年Amazon Adsとの契約を発表して以降、2番目となるサードパーティの広告提携である。

レディ氏は昨年のショップトーク(Shoptalk)にて、特に若者を中心とするユーザーに与える心理的影響に関して厳しい監視の目が向けられているTikTokのようなソーシャルメディアアプリに代わるものとして、Pinterestを売り込んでいる。これは、同CEOがブランドや小売業者にPinterestで商品を宣伝するよう説得を試みるための別のやり方である。

この変化は実を結び始めている。4月末、Pinterestは第1四半期決算で売上高を前年同期比23%増の7.4億ドル(約1156.8億円)と報告し、ウォール街を驚かせた。

Pinterestはまた、世界の月間利用者数が前年同期比12%増となり、5億1800万人に達している。5億人を突破したのは初めてだ。

「AIとショッパビリティへの投資のおかげで、当社は広告主にさらに大きなリターンをもたらし、パフォーマンス予算へのアクセスを獲得している」とレディ氏はプレスリリースで述べている。

これは1年前の同時期とは対照的である。当時、米モダンリテールでは、広告代理店のトップが広告予算からPinterestを削減すると述べたと報じている。小売業者が景気後退の可能性に備えるなか、広告主いわく、ブランドは長い間ブランドの売上獲得に苦戦していたPinterestのようなトップ・オブ・ファネルのチャネルではなく、ボトム・オブ・ファネルのマーケティング投資に重点を置いていた。

「昨年後半は、たしかに例年よりも少し軟調だった」とジョンストン氏は述べている。だが一部のブランドがPinterestから手を引くなか、このアプリに固執するブランドはプラットフォームへの投資を増やしたという。

その戦略が追い風となっている小売業者もある。ジョンストン氏によると、あるファッションブランドでは、広告の想起率(広告を見た後、オーディエンスがどれだけその広告を覚えているかを示すもの)が昨年の第1四半期を上回る25%上昇した。また、購買意欲も前年同期比で10%上昇している。

トレンドデータと戦略的マーケティングの強み



メタ(Meta)やTikTokのような、その瞬間の体験にフォーカスしたプラットフォームとは対照的に、昔からPinterestは、重要なショッピングホリデーに先駆けてマーケティング戦略を綿密に計画するブランドには役に立つ存在だったと、ジョンストン氏はいう。

「Pinterestは、実際に信じられないほど貴重なトレンドデータを大量に保有しており、多くの場合、ブランドはほかのプラットフォームで実際にヒットする前に、Pinterest上で特定の関連コンテンツの急上昇やトレンドを目にできることが多い」。

「Pinterestは、ブランドがより早く市場にコンテンツを投入して種をまきはじめることができるため、実際にある程度のテストベッドのようになっている」と話す。

こうしたPinterestの実験的な性質は、広告費が大きく落ち込む中で小売業者がそのような三次的なテストプラットフォームを削減しようとしたため、昨年は同社に打撃を与える結果となったというのがジョンストン氏の意見だ。

TikTok禁止令と市場の変化がもたらす新たな機会



だが不況への懸念が和らぐにつれ、それも変わりはじめている。さらに、TikTokの将来を脅かす米国での禁止令が迫っているため、小売業者は新しいマーケティングチャネルを試すことにこれまで以上に前向きになっている。

そう話すのは、エージェンシーのデジショップガールメディア(Digishopgirl Media)の創業者、カティア・コンスタンティン氏だ。「ブランドは、何か変化があった場合のプランを準備しておくべきではないかという話をしている。不意を突かれたくないのだ」。

コンスタンティン氏のクライアントのうち約10社は、昨年初めに広告予算からPinterestをカットした。「現在では、1年前にはPinterestに広告を出していなかった広告主が、5%程度の少額の予算をPinterestに割り当てているのを目にしている」とコンスタンティン氏は述べている。

とはいえ、誰もがPinterestに投資する価値があると確信しているわけではない。

世界的に約200ブランドの代理店を務めるエージェンシー、ポディーン(Podean)の創業者兼CEOのマーク・パワー氏は、「Pinterestはリテールメディアに全面的に参入しているほかの企業ほど洗練されてはいないと考えている」と述べた。「その一方で、この業界におけるほかの企業は全力で前に進んでいる」。

[原文:Brands are making room for Pinterest in their ad budgets]

Allison Smith(翻訳:Maya Kishida 編集:坂本凪沙)