『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督×「天元突破グレンラガン」今石洋之監督、夢の日米クリエイター対談 ─ 「僕たちは似ていますね」

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映画史に残る神話的名作『猿の惑星』の完全新作、『猿の惑星/キングダム』がいよいよ公開だ。現在から300年後の世界。そこでは猿が圧倒的な進化を遂げる一方、かつてこの惑星の支配者だった人間は退化し、動物のように猿たちから隠れて暮らしていた……。

シリーズに新たなはじまりを告げるこの新作を手がけたのは、人気シリーズ『メイズランナー』のヒットで知られ、さらに今後は日本のゲーム『ゼルダの伝説』ハリウッド実写版映画を監督することも決まっているウェス・ボールだ。実はボール、日本のアニメの大ファン。アニメ文化と共に育ったため、『猿の惑星/キングダム』では随所にその影響が反映されているという。

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そんなボールが特に大好きだと公言するのが、「天元突破グレンラガン」(2007)だ。日本のみならず海外でも大人気のロボットアニメ作品。地下の村で暮らしていた少年シモンと兄貴分であるカミナとの絆や、シモンの成長、豪快で斬新なアクション、そしてエピソードを追うごとに拡大し続けるスケールが魅力。2008年と2009年には劇場版映画も登場し、大ヒットを記録した。ボールはかつてX(Twitter)で「『グレンラガン』の全27話を観終えた。過去最高のアニメだ」と絶賛している※。 

なんとTHE RIVERでは、この「天元突破グレンラガン」を手がけた今石洋之監督(TRIGGER)と、『猿の惑星/キングダム』のウェス・ボール監督による、ハリウッド映画×日本アニメの垣根を超えた夢のクリエイター対談が実現。大好きな「グレンラガン」の今石監督との対面に、ボールも大興奮だ。

ボールは『猿の惑星/キングダム』と「天元突破グレンラガン」には類似点があると楽しそうに語り、そして今石監督はハリウッド作品の規模の大きさ、過去作への意外な告白に驚愕。日米のトップクリエイター同士、互いに質問が飛び交う貴重なクロストークとなった。

『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督 × 「天元突破グレンラガン」今石洋之監督 特別対談

ウェス・ボール監督:初めまして!僕は「天元突破グレンラガン」の大ファンなんです!お会いできて光栄です!実は、僕はアニメーターになりきれなかった過去があるんです。手描きアニメではなかったのですが、3Dアニメに挫折したことがあって……。

今石洋之監督:それから映画監督になられたんですから、すごいですよね!僕は、ウェス監督の『メイズランナー』シリーズも観ています。監督は、SF設定が複雑な物語でも、キャラクターに感情を乗せてエンターテインメントに仕上げるのが、ものすごくうまいですね。『猿の惑星/キングダム』も複雑な設定ですし、描くのが難しい“猿”というキャラクターでしたが、しっかり感情移入できました。シリーズの過去作よりもさらに磨きがかかっていたので、すごく惹き込まれましたよ。

ボール:まさに、そこが難しいところでした。人間ではない生き物であり、さらに言えば、全てがCGIで作られているキャラクターたちです。全て自分の力というわけではなく、WETAデジタル(VFX制作会社)のアーティストさんたちのおかげです。

今石:しかし、演出が上手い方でないと、CGIをうまく使いこなせません。

ボール:おっしゃる通りです。ご存知のように、監督はスタッフたちにいかにインスピレーションを与えるかが仕事だと思います。

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今石:かつてCGアニメーターになりたかったということで、アニメーターのできることや得意なことがわかった上で、制作依頼をしているのですね。

ボール:その通りです。だからこそ、簡潔なコミュニケーションができるし、プロ同士の言語のやり取りができるんです。彼らがやっていることは、僕はできませんけれど(笑)。どれだけ大変なことかがわかりますからね。

僕が思うに、映画製作とは“妥協のマネジメント”です。一方に力を入れすぎると、他方が薄くなる。持っているリソースをどこにどう配分するかが大事なんですよね。

今石:本作では、それがうまく反映されていたので、素晴らしいです。

ボール:実は、本作1本分の製作費は、『メイズランナー』全3作分を合わせても足りないくらいですよ。

今石:うぉぉ、すごい……!(笑)

ボール:それでも、他の『猿の惑星』シリーズ作品に比べたら抑えられている方なんです。製作期間も短い方。技術面においても、僕にとって大きな学びになりました。

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── ウェス監督は、アニメ「天元突破グレンラガン」の大ファンなのだそうです。「グレンラガン」のどんなところがお好きで、どんなインスピレーションを受けましたか?

ボール:キャラクターですね!大好きなんです。「グレンラガン」の主人公シモンは、本作の主人公ノアに似ていると思います!シモンもノアも純粋無垢で、世界を知って大成長を果たすキャラクター。監督と僕は、自分のポテンシャルに気付き、それをどれだけ形にできるか、というキャラクター造形に興味があるのだと思います。それから、ラガン(ロボットの名前)がどんどん大きくなっていくスケールも最高でした。「グレンラガン」は、文字通り地下で始まる物語ですよね!本当に大好きですよ。

ですから、「グレンラガン」と猿の惑星キングダムには似ているところがあると思います。ノアを見ると、少しシモンのことを思い出しますから。普遍的な物語ですよね。

今石:『猿の惑星/キングダム』は、最初の村のシーンがテンポよく進んでいくのが、僕の好みなんですよ。主人公が旅立って、その先がたっぷり見られるというのが、僕は好きです。

ボール:実は、そこはかなり悩んだんです。本当はもっと長めに描きたかったんですが、なかなか思い切れなくて。自分の書いたものに惚れ込み過ぎてしまって、捨てきれない時がある(笑)。そしてスタッフに、「早く先に」と急かされるんです(笑)。

でも、アニメのようなシリーズの場合は、じっくり時間をかけて描くことができますよね。映画は2時間なので、全てを詰め込もうとしても、なかなかそうはいきません。シリーズものは、ぜひやってみたいですね。

今石:『猿の惑星』は、テレビシリーズでやったら、色々なことができそうな魅力的なシリーズですよね。

ボール:そうですね。それぞれのキャラクターに時間を費やして掘り下げることができますよね。

──お二人で『猿の惑星』の完全新作アニメシリーズを一緒に作ってみては?(笑)

ボール:(天を指さして)イエース!面白そうですね。ディズニーに聞いてみましょう!良いものができそうです!

今石:日本では猿が主役の作品があまりないですよね。もしも日本向けに作るのなら、「猿の学園」にしてみたいですね。

ボール:最高ですね!(笑)「僕のヒーローアカデミア」みたいに、「ヒーロー“エイプ”デミア」を作りましょう!

今石:「ヒロアカ」をご存知なんですね!すごい!(笑)

ボール:ところで今、僕の娘に日本のとある漫画を勧めたらドハマりしているんですが、名前が思い出せないんです……。女の子が主人公の物語で、土星とか、さまざまな惑星の人々が登場するんです。有名な古い作品なのですが。

今石:女の子と、惑星……、なんだろう?

(現場スタッフ:セーラームーン?)

ボール:イエス!(笑)大ハマりしています!娘はまだ9歳で、僕としてはもっと読んでほしい(笑)。「iPadはもうやめにして、セーラームーンを読みなさい!」というと、「わかった!」って飛んでいきます(笑)

──今石監督、アニメ制作の現場から、ハリウッドの現場の様子について気になることはありますか?

今石:そうですね、僕らのアニメ制作は300人くらいでやっています。ハリウッド映画の制作で大規模な人数を統括するのに苦労するのは、どんなところですか?

ボール:VFXのクルーだけでも1,000人程います。もちろん、実際にやり取りをするのは各部署の代表者なので、1,000人全員を自分でまとめるわけではありません。ピラミッド型ですね。

楽しいですよ。自分で身振り手振りの演技を録画して、動画を送って、こういうものを作ってくれと頼むんです。コンセプトアートを見せながら、何を達成したいのかを説明します。役者たちと仕事する時も同様です。先導して、みんなに同じ方向に向いてもらうのが、監督の仕事ですよね。スタジオ映画の制作プロセスは、本当に巨大だと思います。

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今石:僕も、小さい規模ですが、手描きのアニメーションでは自分で絵を描いて、「こう描いてくれ」と指示してしまいます。結局、それが一番早く伝わるんですよね。

ボール:全くその通りです。僕自身、VFXの経験が少しあるので、モックアップを作ったり、自分で構図を手直しをしてフィードバックすることはあります。何週間もかけて説明のやり取りをするよりも、そうした方がよっぽど早いですから。

──ウェス監督、今石監督はアニメ「スター・ウォーズ:ビジョンズ」のエピソードも監督されているんですよ。

ボール:えぇ、そうだったんですか!知らなかったです!最っ高でしたよ!どのエピソードですか?

今石:シーズン1の「THE TWINS」です。

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ボール:本当ですか!素晴らしかったです!『スター・ウォーズ』のルーツは黒澤映画ですから、日本のアニメ会社が制作するというアイデアがすでに素晴らしいです!

僕はとにかく、今石監督の作品の大ファンなんです。300名でアニメを制作されているということですが、どれくらいの時間がかかるのですか?

今石:ものすごくざっくりとですが、最初は10~20名で、1年~1年半かけて、脚本やビジュアルコンセプト、絵コンテなどを作って準備します。作画が始まったら人数が一気に増えて、そこでまた1年~1年半かけて、完成という感じです。

ボール:漫画が原作の場合、漫画のコマをそのまま写して絵コンテを作ることはありますか?

今石:本来、そのやり方は難しいんですよ。映像に置き換えるためにアングルを変えたりとか、画角を変えたりしないといけないからです。

ボール:なるほど!

今石:ですが、最近では原作通りにやってほしいというファンの方が多い。だから、なるべく原作のコマをそのまま再現するのが、最近のアニメの流れなのかもしれませんね。

ボール:興味深いですね。AIについてはどうですか?アニメ業界に影響は出ていますか?もしくは、ツールとして活用していますか?

今石:AIは使っていないですね。スタッフの間でも、反発感があります。

ボール:わかります。まだまだ抵抗感がありますよね。

今石:もしかしたらスタジオによっては実験しているところもあるかもしれませんね。

ボール:とても興味深いです。AIの波は今後必ずやってきます。クリエイターである我々は、どう向き合うべきなのでしょう。

今石:法的な規制やガイドラインができれば、使い方が見出されていくのだと思いますが、まだまだ時間がかかりそうですね。

ボール:その通りですね。アーティストに取って代わるものではなく、アーティストを支援するツールになってほしいですね。

今石:自分の絵だけを学習させて、自分自身だけで出力できる形だったらいいんですが、そういうわけにはいかないみたいです。

ボール:僕もそう思います。自分を助けてくれる範疇の使い方ができれば、問題ないですよね。人間のタッチは損なわれないし、あくまでもアシスタントとして使える。CGアニメでもそうです。キーフレームだけを作り、その間の中割り(原画と原画の間を繋ぎ、絵が動いているように見せるための作業)はコンピューターが作ってくれる。

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今石:『猿の惑星/キングダム』の続きも気になります。『メイズランナー』も3部作でしたが、今回はどうでしょうか?

ボール:3部作にするのが目標です!今石監督もアニメシリーズを製作する時に、今後のシーズンについて考えることはありますか?

今石:僕は、1シーズン限りで終わるものしか作っていないんです(笑)。ストーリーのあるものを作っているときは、全部出し切っちゃいますね。

ボール:面白いですね。取っておく、ということはされないのですか?

今石:出し惜しみをしたくないので、全部描き切ります。次、オファーが来るかもわからないので、全部やっちゃおう、って(笑)。

ボール:なるほど、だから今石監督の作品は、全部を入れ込むスタイルなんですね!(笑)

今石:そうなんです(笑)。だから、いつも続きが作れないんですよね。

ボール:でも、おっしゃる通り『猿の惑星/キングダム』の続編のことは考えていますよ。今作は、まだまだ模索ができそうなことを示唆するエンディングになっていますからね。

今石:とても期待できそうな結末になっていたので、続きが観られるのが楽しみです。

ボール:そうなると良いなと願っています!

今石:全体的には、『メイズランナー』に通じるようなところも感じました。若者が主人公になる構造であったり、クライマックスの迷路的な表現であったりとか。

ボール:確かに、なるほど!(笑)その通りだと思います。撮影中も、「これ『メイズランナー』っぽいな」と、自分でも思ったくらいですよ!『メイズランナー』3部作は、映画作りを学ぶトレーニングになりました。物語を作ることはやっていたけれど、制作をする、というのは『メイズランナー』で学びましたね。今石監督は、作品ごとに学びを得ているという実感はありますか?

今石:そうですね、常に学びはあります。新作を作るときは、今までと違うことをやろうと思って取り組むんですが、また同じようなところに戻ってきたりはするんですけど(笑)。一番好きなスタイルというのは固まっていて、その見た目、外側の部分を、常にどれだけ新しくするかを考えます。作るたびに、どこがお客さんにウケて、自分がどこに満足したのかという知見がどんどん溜まっていくので、それをうまく加減して作るようにしています。

ボール:興味深いです。僕も、毎作品すべてイチからやり直すという気持ちでやっています。時々、自分でも自分が何をやっているのかわからなくなる(笑)。

今石:同じ監督が3部作をやり通すというのは、なかなか稀有なことだと思います。観客としては、監督が続投していると安心できますし。

ボール:『メイズランナー』では、毎回かなり違う作風にしたのも面白かったです。タイプも、ビジュアルも、世界観も、毎回新しくなっていましたから。

今石:そうですよね。毎回ステージも変わっていました。

ボール:実は、当初は2作目(『メイズ・ランナー2: 砂漠の迷宮』)と3作目(『メイズ・ランナー: 最期の迷宮』)を作るつもりはなかったんです。原作小説が好きじゃなくて。

今石:新しい情報!(笑)

ボール:1巻は大好きなんですけど、2巻と3巻をどう映画化すれば良いのかわからなかった。だから、映像化できるように色々と変更を加えたんです。原作に忠実なファンはあまり喜ばなかったかもしれない(笑)。

今石:1作目で迷路を出ちゃいますからね(笑)。

ボール:まさに、それが問題でした!これからどうしよう?って(笑)。そういうわけで2作目はゾンビ映画になって、3作目は侵入系の物語になったんです。キャストたちも僕の続投を望んでくれていたし、僕自身、オーナーシップのような気持ちが芽生えて、シリーズを守りたいという感覚になった。誰か知らない人にダメにされるくらいだったら、やっぱり自分でやりたいと思って。最後まで描き切ろうと、義務感のような気持ちがありました。

──お二人とも、本日は貴重なお時間をありがとうございました。今石監督、『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督とお話されてみて、いかがでしたか?

今石:アニメーターを目指していたということで、さらに親近感が湧きましたよ。

ボール:僕たちは同類で、よく似ていると思います。

今石:技術を無駄にしないで、演出に活かしきるところがリスペクトできます。

ボール:嬉しいです。お話できて本当に光栄でした。素晴らしい機会になりました。

今石:こちらこそ光栄です。ありがとうございます。

ボール:次回作も楽しみにしていますよ。今は何を作っているんですか?

今石:今は、久々にコメディ作品を作っているんですよ。まだ正式にタイトルは言えないんですが。海外でも配信されるはずですよ。

ボール:素晴らしい!アメリカでも観られることを、楽しみにしています。今日はありがとうございました!

「天元突破グレンラガン」の豊かなキャラクター描写に通ずるところもあるとボール監督自身も認める成長物語や、圧倒的なスケールのVFX映像による、リアルな世界観……見どころ満載の『猿の惑星/キングダム』には、これまで数々の人気アニメで個性的なキャラクターたちの物語を創り上げてきた今石監督も「しっかり感情移入できて、すごく惹き込まれた」と太鼓判だ。いつか本当に、ボール監督と今石監督が、一緒に『猿の惑星』関連のアニメシリーズを作ってくれたら……そう期待させられてしまうほど意気投合の様子の二人は、笑顔でかたい握手を交わし、貴重な対談を終えたのだった。

おさらい不要の完全新作『猿の惑星/キングダム』は2024年5月10日より大ヒット上映中。

今石洋之 (いまいし ひろゆき)
1971年生まれ、東京都出身。GAINAXでアニメーターとして活躍した後、2004年に公開された劇場作品『DEAD LEAVES』で初監督を務め、その後も『天元突破グレンラガン』『キルラキル』『プロメア』『サイバーパンク: エッジランナーズ』など、数多くの話題作で監督を手がける。
ウェス・ボール
1980年、米・フロリダ出身。フロリダ州立大学映画芸術大学で学んだ後、グラフィックデザイナー、VFXアーティストとして活動。2011年に約9分の短編CGアニメーション『Ruin』を監督。2014年にジェームズ・ダシュナーの同名小説を映画化した『メイズ・ランナー』の監督に抜擢され、全世界で大ヒットを記録。続く『メイズ・ランナー2:砂漠の迷宮』(2015)と『メイズ・ランナー3:最期の迷宮』(2018)でも監督を手がけた。本作の完成後には、日本発の人気ゲームの映画化『ゼルダの伝説』の脚本・監督、短編『Ruin』の長編映画化プロジェクトなどが控えている。


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