日本株の好調の要因の1つは、やはり米国株の好調にある。金利が高止まりしているが、大丈夫なのだろうか(写真:ブルームバーグ)

米国株が堅調だ。昨年10月末を直近の底にして順調な上昇が続いており、代表的な指標であるS&P500種指数は今年2月9日に史上初めて終値で5000ポイントの大台に乗せた。その後も最高値を更新し続け、3月1日は5137ポイントまで上昇している。

昨年末までの米国株高は、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ転換期待を背景とした金利低下とともに起きていた。だが2024年に入ってからは、同国の債券市場で金利が上昇する中で、株高が併存する状況となっている。

もともとアメリカの金融当局は利下げに慎重だった

アメリカの金利が再び上昇しているのは、FRBによる利下げ期待が後退したことによる。昨年12月にジェローム・パウエルFRB議長が利下げについて議論していることを表明すると、市場では「利下げが早々に始まる」との見方から、年間で1.5%以上、すなわち25bps(ベーシスポイント)換算で年間6回以上の利下げが一気に織り込まれた。

その後、年明け以降は堅調な経済指標などを受けて、FRBが早期かつ大幅な利下げを行うとの見方は修正された。2月22日にクリストファー・ウォラー理事が「インフレ指標を少なくとも2〜3カ月見定める必要がある」との考えを述べるなど、FRBの多くのメンバーから、年央以降の利下げが妥当との考えがあらためて示された。現在は、6月のFOMC(公開市場委員会)から利上げが始まり、年間3〜4回の利下げになるとの見方に債券市場の思惑はほぼ収斂しつつある。

昨年12月のFOMC会合時に参加者が示した見通しでは、2024年における年間の利下げ幅は0.75%、つまり年間3回の利下げだった。FRBの政策転換への債券市場の期待は昨年末から揺れ動いたことになるが、もともと利下げ開始に向けて慎重姿勢を取るFRBの想定どおり、経済情勢を見定めながら利下げを始める可能性が高まっている。

2023年は、アメリカの長期金利が上昇すると米国株が下落、逆に長期金利下落なら米国株は上昇、という場面が多かった。これは、FRBが経済インフレをしっかり制御できないとの疑念が強かったためだ。株式市場では金利上昇のシグナルが「リスク要因」とみなされた。

FRBに対する市場の信認が高まっている

だが2024年に入り、FRBの想定どおりに利下げを徐々に進める可能性が高まる中で起きている金利上昇は、株式市場にとってリスクとはみなされない。むしろ、FRBの政策対応に対する信認の強まりで金利上昇が起きているのだから、株式市場にとっては悪いことではない。この点が、2024年になって金利が上昇しても米国株が下げない理由の1つである。

もちろん、2024年も経済指標のサプライズで金利上昇が嫌気される場面はあるのだが、インフレ制御に成功しつつあるFRBの政策への信認が毀損するまでには至らない。総じて見れば、FRBが想定するとおりインフレは制御されつつあり、「インフレはアメリカ経済の問題にならない」との構図は崩れないだろう。

株高と金利上昇が併存するもう1つの要因は、もし長期金利4%台前半という現在の金利水準が続いても、アメリカでは経済成長と利益拡大の構図が変わらない可能性が高まっていることだ。2023年10〜12月期のアメリカ企業決算は総じて堅調で、事前予想よりも1株当たり利益(EPS)は上方修正された。経済の安定が続き、多くの企業の業績改善が続いていることが、株高と金利上昇の併存をもたらしている。

一方、金利上昇の影響で、昨年まで好調だった個人消費には2024年にややブレーキがかかっている。一方で、金利敏感セクターである住宅市場には底入れ感が出るなど、金利上昇が及ぼす影響はややばらつきがみられている。

それでも、金利上昇や引き締め効果によって、経済活動が急失速するリスクはここにきて低下している。この点が、2024年になってからアメリカで金利上昇と株高が併存している2つ目の理由といえる。

2023年とは異なり、2024年はインフレ懸念に起因する金利上昇が、米国株のリスクになりづらくなっている。1月分のインフレ率が市場の予想よりも上振れるなど、インフレリスクは払拭されてはいない。

だが、FRBの利下げ転換までを変えるまでには至らず、FRBへの信認が揺らぐことは想定されない。2024年は株高と金利上昇が併存する時間帯が増え、金利上昇が株式市場の下落をもたらす可能性は低いだろう。

すでに年初来のS&P500の騰落率は約8%に達しており(3月1日時点)、好決算を推進力とした、いわゆるビッグテック株主導での相場上昇は、短期的にはいつ一服しても不思議ではない。だが、FRBの政策運営に対する信認が米国株市場を支える構図は変わらない。そのため、仮に米国株市場が下げるとしても、それは短期的に止まるだろう、と筆者は考えている。

日本株は日銀の政策転換をきっかけに上昇が緩やかに?

ところで、日経平均株価は2月22日に、約34年ぶりに史上最高値を更新した。34年間も最高値を更新しなかったことが世界的には異例なことではあるのだが、インフレ定着を伴う日本経済の正常化が株式市場で評価されたということだろう。

長期的に見れば、今後、日本が再びデフレを半ば放置するような緊縮政策を再び採用しなければ、日経平均が3万円を下回ることはもはやないだろう。日本経済は30年以上も前の平成バブル崩壊後の停滞をやっと克服しつつある、ということだ。

だが、年初からの日本株の大幅上昇は、米国株の上昇に加えて、円安ドル高進行が重なったことで、ほぼ説明できる。米国株の上昇基調は簡単には崩れないため、日経平均株価が4万円をつけたあとも上昇する可能性が高い。

ただ、4月までに予想される日本銀行の政策転換をきっかけに、為替市場ではこれまでの「大幅な円安」の修正が起きるとみられ、今後の日本株の上昇ペースは緩やかになるのではないかと筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(村上 尚己 : エコノミスト)