後半戦に入った2024年の「冬ドラマ」。次世代メディア研究所長の鈴木祐司さんがGP(ゴールデン・プライムタイム)帯(夜7〜11時)に放映されている“父と娘”を軸とする人気ドラマ3作品をどんな属性の人が視聴しているのかデータ分析したところ、意外な結果がわかった――。

2024年冬ドラマも後半戦に入った。今期の特徴は“父娘ドラマ”がGP帯(夜7〜11時)に3本あり、うち1本が視聴率トップ、他の1本が最も話題になっている点だ。父と娘はある意味“時代の変化”に直面し、思うところの多い層だ。では“父娘ドラマ”3本の見られ方にどう反映されているのかを検証してみよう。

■3つの「父娘ドラマ」の特徴

今期GP帯ドラマの中で視聴率トップを行くのはTBS「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」(日曜夜9時)。主演は父役の西島秀俊と娘役の芦田愛菜だ。天才指揮者だったがある事件で家族も音楽も失った父親と、父も音楽も拒絶した娘が地方オーケストラを通して失った情熱(アパッシオナート)を取り戻すヒューマンドラマのようだ。

画像=TBSテレビ 日曜劇場「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」公式サイトより

このところのTBS日曜劇場はヒットが続いているが、今回も全世代によく見られている。特に男性3〜4層(50歳以上)が普段より高いのは、“父娘ドラマ”ならではと言えよう(データはスイッチメディア「TVAL」関東地区データより)。

筆者作成

視聴率的には2位グループながら、話題性でバツグンなのがTBS金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(金曜夜10時)。宮藤官九郎の脚本、父親役は主演の阿部サダヲ、娘役は昭和が河合優実と令和の仲里依紗だ。

画像=TBSテレビ金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」公式サイトより

初回冒頭「おい!起きろブス! 盛りのついたメスゴリラ」から始まり、「チョメチョメ」「おっぱい」「ケツバット」など令和のテレビ放送ではみかけない昭和の言葉やシーンが次々に出てくる。

個人視聴率では日曜劇場の7割ほどにとどまるが、1〜2層(男女20〜49歳)では肉薄し、T層(男女13〜19歳)では逆転している。さらにドラマ好きな女性20〜30代に至っては1.7倍も勝っている。不適切な表現が頻出するために毎回注意喚起のテロップが表示されるなど、昭和と令和の時代差を逆手にとったユニークな展開が、若い世代を中心に大きく刺さっていることがわかる。

3本目の“父娘ドラマ”は関西テレビ「春になったら」(月曜夜10時)。フジテレビ月9「君が心をくれたから」に続く10時からの放送ながら、6回中5回も世帯視聴率で上回るほど健闘している。3カ月後に亡くなる父が木梨憲武、3カ月後に結婚する娘を奈緒が演じている。

母の死後に反発しながらも支え合ってきた父娘が、「結婚までにやりたいことリスト」と「死ぬまでにやりたいことリスト」を実現していくハートフル・ホームドラマだ。視聴率ではTBS日曜劇場の半分ほどだが、FT(女性13〜19歳)やドラマ好き20〜30代女性では健闘している。親の死と自らの結婚という生老病死をうまく取り込んだドラマに、一定の支持があるとわかる。

■特定層含有率に現れる特徴

視聴率の絶対値以外に特定層の含有率を分析すると、ドラマの特徴はより際立つ。各特定層の視聴率を個人全体で割った数字である。

まず「女性20〜40代・結婚願望あり」層で見ると、娘の結婚がテーマの1つになっている「春になったら」の含有率が一番高い。新たな家族を作る際の、父娘だけだった家族の問題は重みを持つことがわかる。

スイッチメディア「TVAL」データから筆者作成

「子と同居する40〜50代」層では、男女で対照的となった。父たちの“父娘ドラマ”への関心はあまり高くないようだが、母たちは大いに注目した。中でも「春になったら」は、父78%と平均より低いが母は126%と平均を大きく上回った。父が娘の結婚をどう見るか、娘が父の死をどう捉えるのか、女性たちには大きな意味を持ったようだ。

40〜50代の単身者では、男女の差はより大きくなった。男性では“父娘ドラマ”を避ける人が明らかに多いが、中でも娘の結婚や父の死が前面に出た物語を敬遠した。そもそもファミリードラマがNGなようだ。

ところが女性にはそんな抵抗感が微塵もない。「春になったら」ですら平均の1.6倍で、「不適切にもほどがある」に至っては2倍超。すべての層の中で断トツの視聴率となった。同層には多くのことに関心を持つ活動的な人が多いのかもしれない。

■職位による差の意味するもの

管理職・非管理職・非正規職員における差も興味深い。まず男性40〜65歳では、「さよならマエストロ」の含有率が圧倒的となった。特に管理職が断トツだが、「音楽に没頭して家族を顧みなかった父親が親子の絆と人生を再生させる」物語という触れ込みは、仕事に邁進して得た高い地位の男たちにとって、どこか思い当たる部分があるのだろう。大いに気になっている様子はSNSのつぶやきにも表れている。

「父と娘に何があったのか」
「夏目の根本にあるのは家族を顧みなかった後悔なのかもしれない」
「はたして家族はもとの形を取り戻すことができるのか」

地位の高い男と異なり、中高年でも非正規職員や女性20〜30代の非管理職や非正規職員では、「不適切にもほどがある」の比率が高くなっている。特に女性非管理職や非正規職員では「さよならマエストロ」の1.2倍ほどの含有率となったのは興味深い。

「100%で仕事してたウチの父、死ぬまでマジでずっとこの阿部サダヲ状態だった」
「昭和のおやじあるあるすぎ」
「30年前の日本は週6勤務でセクハラやパワハラが当たり前の時代」

令和になっても、男社会の残滓は至る所に残っている。立場の弱い人々は、その理不尽で痛い目に遭った経験があるのだろう。昭和と令和のギャップが次々に出てくる展開に、思うところが少なくない人が注目していると思われる。

■職種別の差から垣間見えるもの

職位の差以外に、職種別での差も注目に値する。まず事務職・技術職などでは特徴が出なかったが、「営業職」や「宿泊飲食業界」で働く人たちは“父娘ドラマ”のいずれも平均以上の含有率となった。多くの人にとっても“自分事”であり、話題になりやすいためにチェックしているようだ。

中でも宿泊飲食業界で働く人では、「春になったら」が最多となった。

画像=関西テレビ放送 カンテレ「春になったら」公式サイトより

「自分事として見るべき視点がたくさんある」
「生と死を考える深くもほっこりする今までにない素敵なドラマ」

親の死や娘の結婚など、一般のお客と話を合わせるには格好のドラマとなっているようだ。一方「営業職」では、「不適切にもほどがある」の比率が最大となった。企業や組織で働く人々と接することの多い同業種では、コンプラやハラスメントなどがより“自分事”で、取引相手との話題にもなりやすいのだろう。

「職場で流行ってる(中略)自分達の昔話に飛んだり、めっちゃ楽しい」
「お客さんと営業中盛りあがってた」
「(昭和と令和の)違いやそれぞれの異常さがよくわかって面白い」

同ドラマの含有率が断トツとなった職業公務員だった。価値観やルールの変化に最も敏感とならざるを得ないのが公的な立場の人々だからだろうか。また「春になったら」が極端に低くもなっていたが、どうやら“父娘”などファミリードラマの要素より、昭和と令和の落差など社会性に公務員はより引っ張られているようだ。

■回を追う中での変化

最後に3ドラマを回を追う中での変化と特定層の関係に触れておきたい。まず比率が高まっているのは、「不適切にもほどがある」の中年男性と「管理職」層、そして「ドラマ好きの40〜50代男性」だ。やはり時代の変化にさすがにオジサンたちが気づき始めているのだろう。特に地位の高いオジサンや、アンテナを高く上げている人々には欠かせない物語になり始めている。

逆に比率を下げているのは「春になったら」の「公務員」や「男性40〜65歳営業職」。仕事の上では“自分事”ではなくなっているようだが、それでも中高年の女性では高い支持を保っている。仕事ではなく私生活上で大切な話となっていることがわかる。

変化があまりないのが「さよならマエストロ」。そもそも視聴率全体も安定しているが、どの層の比率も変化していない。仕事と私生活の問題をバランス良く織り込み、各登場人物の課題も次々に登場し、あらゆる視聴者を飽きさせずにうまく見せているかがわかる。さすが安定の日曜劇場だ。ただし“父娘に何があったのか”は明かされずに7話まで引っ張ってきている。その展開次第では落胆させる人も出かねないだけに、今後は責任重大だ。

さて3ドラマはいよいよ終盤に入っていく。着地をどう魅せるのか、各物語に手腕に大いに期待したい。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)