この記事をまとめると

■使い方次第ではオールシーズンタイヤをオススメしたいというケースがある

■日本で販売されるオールシーズンタイヤの大半はスノーフレークマークが記されているので高速道路で「冬用タイヤ規制」が実施されても問題なく走ることができる

■オールシーズンタイヤは万能なタイヤではないが、使い方に合っていれば合理的で便利なものである

1年中履きっぱなしでいられる合理性が魅力のオールシーズンタイヤ

 仕事柄、相談されることも多いのだが、理想としてはこれまでどおり、しかるべき時期が来たらサマータイヤとスタッドレスタイヤを履き替えるのがベストと思いつつも、最近はその人の使い方を聞いたうえで、あなたこそオールシーズンタイヤを薦めたいというケースが多いことを、あらかじめお伝えしておこう。

 オールシーズンタイヤというのは、海外ではすでに普及しているところも多いのだが、冬道の条件の厳しい日本には不向きという先入観は根強く、日本ではほとんど注目されてこなかった。

 ところが、グッドイヤーが送り込んだ「ベクター4シーズンズ」が、その流れを大きく変えた。舗装路をサマータイヤと同じように走行できながらも、急に雪が降ってきても走れてしまうというスグレモノであることから、にわかにオールシーズンタイヤが脚光をあびるようになった。奇しくもちょうどそのころ、首都圏などでいきなり雪が降り積もることがたびたびあったのも効いて、なおのことオールシーズンタイヤに目が向けられたように感じている。

 もちろんオールシーズンタイヤにすることで、1年中、履きっぱなしで大丈夫なので、スタッドレスタイヤに履き替えるためのお金や保管場所や交換の手間が省ける。じつに合理的だ。

 高速道路で「冬用タイヤ規制」が実施されても、日本で販売されているオールシーズンタイヤの大半は走行が許可されるスノーフレークマークが記されているので問題なく走ることができる。さらに厳しい大雪時の「チェーン規制」が実施されても、チェーンを装着すれば走れるのもスタッドレスタイヤと同じだ。

技術の進化でますます”オールシーズン”使えるタイヤに進化する

 では反対にスタッドレスタイヤを履くべき人はというと、やはり降雪地に住んでいる人や、たとえ住んでいるのが非降雪地でも、ウインタースポーツをたしなんだり仕事や家庭の事情で降雪地を冬場にクルマで走る機会がそれなりにあったりする人だ。

 ポイントは凍結路をどれぐらい走るか。雪道は走るけど凍結路は走らないと思っている人も、雪があれば溶けて凍る可能性がある。実際、冬場にスキー場に向かうと、上り勾配の途中で上がれなくなってしまっているクルマを必ずと言っていいほど見かけるのだが、タイヤのパターンからしてオールシーズンタイヤを履いていると推測されることが多い。

 その点、スタッドレスタイヤはおしなべて、メーカーによる調査で消費者が重視する項目としてまっさきに挙がるアイスグリップを重視して開発されているので、商品によって性能差はあるものの、凍結路の走破性に優れると思っていい。

 凍結路を走る可能性があるときにはスタッドレスタイヤを履くほうが賢明であることはいうまでもないが、どうしてもオールシーズンタイヤでそうした場所に行かなければならない場合は、チェーン等の滑り止めを携行したほうがいい。低価格で簡単に着脱できる布製チェーンでも効果は絶大だ。

 また、オールシーズンタイヤは前後に回転方向を指定したトレッドパターンによって雪上でのグリップを確保しているものが大半なので、バックで走るときにはその性能が満足に発揮されないと思ったほうがいい。たとえ凍っていなくても、雪の積もった場所で斜め前下がりの状態で駐車すると脱出できなくなる可能性もあるので、気をつけたほうがいい。

 一方、舗装路ではどうかというと、普通に問題なくあまり何も気にすることなく走れ、耐摩耗性にも優れる。そこは多くのスタッドレスタイヤに対して圧倒的に優位な点であり、そのあたりはサマータイヤと比べても遜色ないレベルの速度記号にも顕著に表れている。

 ただし、サマータイヤほどのグリップや剛性の強さはない。静粛性や燃費の面でもサマータイヤより劣ると思ったほうがいい。そのあたりは商品によって程度に差があり、現状オールシーズンタイヤのなかにも性能には幅があり、スタッドレスタイヤからサイプを省いてゴムの質をサマータイヤに近づけたものから、サマータイヤをベースに雪道もなんとか走れるようにしたものがあるので、購入を検討する際にはその商品がどういう位置づけなのかよく調べたほうがいい。販売店の詳しいスタッフに聞くのもよし、WEB CARTOPのような自動車メディアの情報も大いに役立つはずだ。

 一方で、日本でオールシーズンタイヤを使うことに懐疑的なメーカーもある。日本ではちゃんと履き替えたほうがいいというスタンスだ。反対に、オールシーズンタイヤのニーズが高まっているからこそ、それに応えようというメーカーがこうして増えてきたのだが、タイヤメーカーにとって、オールシーズンタイヤのユーザーが増えても、むしろその分ざっくりスタッドレスタイヤが売れなくなるわけで、オールシーズンタイヤで儲けようという話ではない。どちらの考え方にもタイヤメーカーの「良心」が根底にあり、どちらに共感するか、という認識でよいかと思う。

 オールシーズンタイヤのことを、サマータイヤの代わりだと思って使って欲しいと強調しているメーカーもある。それゆえ、履き替えるのが当たり前の降雪地域においても、本格的な冬場の直前や直後に思いがけず雪が降ってもあわてずにすむからだ。現在スタッドレスタイヤを履いている人も、春に履き替える際に検討してみる価値は大いにあるだろう。

 そんなわけで、オールシーズンタイヤは決して万能なタイヤではないわけだが、使い方に合っていれば非常に合理的で便利なものであることには違いない。技術的にもどんどん進化して性能が向上しているし、現在では温度や水分に反応してゴムの柔らかさを最適化して凍結路でも走れるようにするという次世代に向けた技術も開発されている。ゆくゆくはより“オールシーズン”ぶりに磨きがかかることが期待できそうだ。