可愛らしいデザインとキビキビした走りは一部で高い評価を得たが、販売は苦戦していた(編集部撮影)

ホンダが同社初の量産型EV(電気自動車)である「HONDA e(ホンダe)」の生産を来年1月までに終了することがわかった。

ホンダeは小回りの良さを強みとしたコンパクトEVとして2020年夏に欧州で発売。同年10月末に日本国内でも販売を始めた。欧州で2021年に厳格化されたCAFE(企業別平均燃費基準)規制への対応が主な開発動機だったためか、当初から年間販売計画は欧州で1万台、日本で1000台と控えめだった。

ただ、累計販売台数は日本国内で1761台、グローバルでも1万1987台にとどまっている。すでに欧州では販売を停止しており、日本でも在庫がなくなり次第、販売を終える予定だ。

車両価格と航続距離

車両価格は495万円、1回のフル充電で走行できる距離は259キロメートル(WLTCモード)と、競合のEVと比べて商品性で見劣りしていた。

送迎や買い物といった短距離の街乗りを想定。タッチパネルなど5つのディスプレーを並べたインターフェースや、サイドミラーをなくし車載カメラで外部の様子を確認できる「サイドカメラミラーシステム」を搭載するなど、当時の先進技術を多く盛り込んだ。もともと多くの販売台数を見込んだ商品ではなかったが、想定以上にユーザーを振り向かせることができなかった。


5つのディスプレーを並べたインターフェースや、サイドミラーをなくし車載カメラで外部の様子を確認できる「サイドカメラミラーシステム」を搭載するなど先進技術を多く盛り込んだ(記者撮影)


関東圏のホンダ系販売会社幹部は「うちでは1台も売れなかった。価格が高い一方で、航続距離が短く使い勝手がよくなかったのでは」と指摘。中部地方のホンダ系販社幹部は「そもそも日本国内でEVがまだまだ主流ではない。まずは新型N-BOXをしっかり売っていく」と話す。

欧州では急速にEV市場が拡大しているが、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ、BMWなど既存メーカーに加えて、EV専業であるテスラもEV販売台数を伸ばしており、競争が激化している。その中でホンダeの存在感を示していくことは難しかったとみられる。

2024年は次々とEVを投入する

ホンダ側は「各国のニーズを踏まえラインナップの見直しを図っており、今回はその一環」と説明する。

2040年までに世界で販売する新車をすべてEVかFCV(燃料電池車)にする計画を掲げるホンダ。欧州では、2023年に新型EVであるSUV(スポーツ多目的車)「e:Ny1(イーエヌワイワン)」を発売した。2024年には、北米や中国で複数車種、日本では商用軽「N-VAN」ベースのEVの販売を計画するなど、主要市場で続々とEVを投入する。

【2023年12月11日22時10分追記】初出時の商用軽EVのベース車について、上記の通り修正しました。

そもそもホンダeは台数を稼ぐモデルというよりもホンダの目指すEVの方向性を示す側面が強かった。初の量産型EVで培ったノウハウを、今後投入するEVにどのように生かしていくかが今後は問われることになる。


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(横山 隼也 : 東洋経済 記者)