新NISAで腹落ちできる「絶対的に正しい運用方法」
2024年から始まる「新NISA」。「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つがあって、使い方などでいろいろ迷いそうになる。だが、筆者が勧めるのは「たった1本の投資信託」。きわめてシンプルだ(写真:Getty Images)
2024年から「新NISA(少額投資非課税制度)」がスタートする。金融庁の関係者によると、2024年以降は単に「NISA」と呼ぶようになるらしい。
「新NISA」をどう使いこなせばいいのか
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振り返ってみると、「新しい資本主義」の中身のない大風呂敷から、「所得倍増計画」という明らかに無理な目標が叫ばれ、これを「資産所得倍増計画」と現実的なサイズに縮めて、岸田内閣の目玉商品として登場したのが「新NISA」だった。
「総理の肝いりなので、ショボいものにはできない」とばかりにあれこれの要望が詰め込まれて、「ひょうたんから駒」的に予想されていた以上に柔軟で規模の大きな、意外にいい制度に仕上がった。このままだと岸田文雄首相の唯一のポジティブな業績として記憶されるようになるかもしれない。
新NISAは制度上、1人が1つの金融機関でしか利用できない。変更は年単位で可能だが、一度決めたら面倒なので、変更する投資家は少ないだろう。また、1人で複数のNISA口座を持てるようにすることは、システム上極めて複雑で、現実的ではない。金融業界は口座獲得に力を入れざるをえない。
また、新制度の大きな導入なので、雑誌の新NISA特集号や、新NISAの解説本がかなりの数で登場している。これらの記事は、率直に言って玉石混淆だ。筆者が専門の「運用」について見てみると、1つには筆者や編集者が正しい理解を持っていないケースがあるし、もう1つにはビジネス上の利害によって内容が歪められているケースがある。
新NISA口座での正しい運用法は本来、あれこれ迷うようなものではないし、決して難しくないシンプルなものだ。今回は、新NISAの制度の「運用に関わる」ポイントのみに焦点を絞って、「どのような運用法がなぜ正しいのか」について、読者が「腹落ち」するような解説を目指す。
運用に関わる「6つのポイント」とは?
口座開設の手続きなど、新NISAの運用以外の諸制度については、金融庁のホームページや数多ある解説本などを見てほしい。
筆者の見るところ、「運用方法」に関わる新NISAの制度上の特色は(1)運用益非課税(2)年間投資枠360万円(3)生涯投資枠1800万円(4)随時解約可能(5)投資枠復活(6)投資期間無期限、の6つだ。以下、順に見ていこう。
(1)運用益非課税
新NISA口座内の運用益が非課税になる。仮に投資の期待リターンを年率5%とすると、ざっくり年率1%程度、課税口座よりも有利だと考えられる。
これが新NISA制度の根幹である。この口座の「中」で運用すると、通常の、課税される口座(証券会社の特定口座など)で行われる運用益に対する課税を回避できる。NISAは投資の対象そのものではなく、投資対象を中に入れておくと有利な「器」のようなものだと理解するといい。
この器の有利さの程度は、運用がどれくらいうまくいくかによるが、株式投資のリスク・プレミアムを5%とした場合、無リスク金利+5%のリターンにかかる約20%の税金が免除されるのだから、利回りで考えて年率1%くらいと思っておくといいだろう。今後、日本でも金利が上昇するとさらに大きくなると考えることもできる。
運用の利回りで年率1%は大きい! 利用しないと損だ。このルールから導き出すことのできる原則は、大まかにはNISAは「大きく、早く」使えということになる。リスク資産に投資するのにNISAを使わずに、特定口座などを使っているとするともったいない。
また、積み立て投資を始めるにしても、NISAを大きく使うべきだ。
例外は、既存の証券口座の中に、買い値の何倍にもなっている株式や投資信託などがある場合だ。こうしたときは、税金を払ってまで現金化せずにそのまま運用するほうが、資金をNISA口座に移すよりも有利な場合がありうる。だが多くの場合、リスクを取った投資はNISA口座に早く移し、その後もNISA口座での運用資金を大きくしていくことが正解になる場合が多い。
NISA口座の利用は「大きく、早く」と申し上げておく。
2つの投資枠をどう使いこなせばいいのか
(2)「年間投資枠360万円」
「つみたて投資枠」で120万円、投資タイミングが自由な「成長投資枠」で240万円まで、年間に投資可能だ。
運用資金をNISA口座に大きく、早く、と言っても、資金を好きなだけ自由に動かせるわけではない。NISA口座には、つみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円という入金ルールがある。この2つの投資枠は「単なる入金ルールの違い」だと理解するといい。
前者では、その名のとおり定期的な積み立て投資が必要である一方、後者では年間240万円までいつでも、一括でも、分割でも投資できる。成長投資枠は、枠内の金額であれば、好きなときに好きな金額だけ投資できるので自由度が高い。
ただ、成長投資枠の自由度は、例えば、投資に回せるお金が新たにできたときに使うといいのであって、「投資するタイミングを計って、いいタイミングで投資しよう」、あるいは「向こう何年かの間に有望な成果の上がる商品を選んで投資しよう」とする投資家の裁量に利用することは無意味だ。
(A)いつが投資にいい(悪い)タイミングなのかは、投資家は(プロでも)判断できない
(B)どの投資対象商品が平均よりもいいのか(悪いのか)は、投資家は(プロでも)事前には判断できない
この2点は、金融・運用業界にとって不都合だが、残念ながら真実だ。
論理的な帰結はこうだ。投資タイミングでも、商品選択でも、成長投資枠の自由度には投資上プラスの意味はない。つみたて投資枠と成長投資枠に共通なベストの商品があれば、両者の違いは単に入金ルールの違いなので、同じものを買えばいい。
金融庁はつみたて投資枠の商品を、長期の資産形成に向いたものに限定して制限している。では、投資の時間が数年単位の短期ならよりいい商品と投資方法があるかというと、上記の(A)(B)より、それは不可能だ。つまり、長期でダメな運用商品は、考えるまでもなく短期でもダメなのだ。
幸いなのは、ベストと思える商品が、つみたて投資枠の選定商品の中にあることだ。
生涯投資枠は1800万円と使い出十分、随時解約も可能
(3)生涯投資枠1800万円
1人で合計1800万円まで(取得価格ベース)投資可能だ(うち「成長投資枠」1200万円まで)。
入金可能額が年間360万円までなので、5年間ほどは投資家の制約にならないが、NISAで投資できる総額は1人1800万円となる。誰にとっても十分とは言えないまでも、総枠として相当に使い出のある金額だろう。
なお、つみたて投資枠は事実上1800万円まで使えるが、成長投資枠は240万円の5年分である1200万円が使用できる上限となる。
なぜこのような制限が設けられたかというと、年間240万円までの入金という制限があるとはいえ、売っては買い直すといった売買が増えることを、金融庁は好ましくないと見ているからだろう。原則論としてはそのとおりだ。
(4)随時解約可能
部分・全体いずれの解約も随時可能だ。これはNISAの利用上のメリットとして、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金にはない特色だ。
年金の運用資金は、将来の生活資金として重要なので安易に引き出して使うべきではないという意見には一理あるが、そうは言っても、自分の運用資産を引き出してお金を使いたいと思う場合があるかもしれないのが人生だ。
このメリットをどう評価するかだが、運用資産額がまだ大きくない若い頃はこうした自由度を必要とする可能性が大きいだろうし、また確定拠出年金の掛け金に対する所得控除のメリットは適用される所得税率の影響を受けるので、年齢が進んでからのほうが大きいかもしれない。
後述のように長期投資が好ましいし、確定拠出年金の掛け金所得控除のメリットは大きいので、投資と生活設計の堅実性の面からは両方をできるだけ大きく使うことが望ましいかもしれないが、利用のコツとして「若い頃はややNISA重視、年齢が進んだらiDeCo優先」といった傾向はあるかもしれない。
(5)投資枠復活
資産を売却して空いた投資枠は翌年以降に復活し、(2)のルールに従って、投資して繰り返し利用可能だ。
期間の途中で売却してしまった場合に、それまで利用していた節税運用可能額が復活しないのは、過去のNISA制度が持っていた不便の1つだった。これは、頻繁な売買を行わないほうがいいという、金融庁の親心(?)的な親切と、金融機関の営業ぶりへの不信から発生したルールであっただろう。
しかし、無期限に利用できるこれからのNISAにあっては不便なので、規制が緩和されたと考えていいだろう。
(4)(5)を通じた流動性の改善は、新しいNISAの大きな特徴であり、利用者にとってのメリットだ。例えば、一時的にお金が必要になったときにNISA口座の資産の一部を解約して支出に充てて、その後入金ルールとしての成長投資枠を有効に使って、早く投資額を回復するような、いわばNISAをお金が増える可能性の高い金庫のように使い回すことができる。
「一度買ったら持ちっぱなし」が好ましい
(6)投資期間無期限
無期限の長期投資が可能だ。NISAでの投資も投資一般と変わるところはなく、買ったら持ちっぱなしの長期投資が好ましい。しかも、生涯投資枠の上限1800万円は簿価ベース(買った値段ベース)の管理がルールなので、「売って買う」行為を行うと簿価が上がって、実質的にNISAを利用して投資できる金額が小さくなる可能性が大きい。
この性質は「ずっと長く持てる商品を選ぶことが有利だ」という原則を示唆する。まず、ずっと長く持つことを考えると、投資対象に偏りがあると不利だ。また、「平均投資有利の原則」から考えて、広範囲の投資家の保有する投資の平均に近いものが有利である。
したがって、日本株、米国株、などといった特定の市場に対して偏った投資を持つよりは、全世界の株式に時価総額のウェートに応じて平均的に投資できる商品が有利だ。加えて、長期間にわたる複利運用では、手数料の差の影響も投資利回りへの影響を通じて複利で影響する。運用管理手数料が低い商品のほうがいい。
こうした観点から、筆者は現状であれば、例えば通称「オルカン」こと「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)1本に、つみたて投資枠も成長投資枠も投資したらいいと考えている。
オルカンは、運用管理費用を年率0.05775%以下に引き下げた。100万円を1年間運用するに当たってのコストは、年間578円未満だ。そもそも、お金を増やそうとして運用するのだから、100万円を運用する手数料に例えば年間1万円も払うことを明らかにバカバカしいと思わないのか。
多くの書籍や雑誌の特集で、つみたて投資枠と成長投資枠で別の商品を勧めたり、投資家の好みに応じて複数の商品を勧めたりしているものを見かけるが、あれはどうしたことなのだろうか。
結論は「オルカンを買いたいだけ買って、じっと待つ」
「初心者向け」などとうたっているのに、複数の商品を勧めると読者は迷うだけなのがわからないのか。決して親切ではない。
自分の責任で、潔く結論を言えばいいではないか。著者はそもそも運用がわかっていないのか。あるいは、金融機関に忖度(そんたく)しているのか。
現段階での新NISAの運用に関する結論は、枠の別に関係なく、オルカンを買いたいだけ買って、じっと持つことにすればいい。それだけだ。
(本編はここで終了です。このあとは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
この週末(19日)は、舞台が4年ぶりに京都競馬場に戻ってマイル(1600メートル)のG1競争、マイルチャンピオンシップ(第11レース)が行われる。
力の接近した好メンバーがそろった、予想のしがいのあるレースだ。出走メンバーを眺めると、速い馬が先団で競るようなハイペースは想像しにくい。平均ペースで流れて、最後の仕掛けどころが影響しそうなレースだ。
マイルCSは「あの馬」を本命に、計4頭に絞る
近走のレースぶりと鞍上が川田将雅(ゆうが)騎手であることを思うと、セリフォス(6枠11番)が、今秋絶好調のクリストフ・ルメール騎手が鞍上のシュネルマイスター(5枠9番)よりも少しだけ早く仕掛けて抜け出すのではないか。
これをシュネルマイスターが追って、ゴール前が際どくなる展開が思い浮かぶが、セリフォスがギリギリ残すと予想する。力量的にはこの2頭がやや抜けているように思う。セリフォスが本命、地力があるシュネルマイスターが2番手だが、連軸としてはこちらのほうが堅いかもしれない。
以下、実力馬が僅差でひしめいているのだが、あえて3歳で10月の毎日王冠(G2)を制したエルトンバローズ(4枠7番)、いかにも京都コース向きの良血馬レッドモンレーヴ(6枠12番)までに絞って買ってみたい。
(山崎 元 : 経済評論家)