日本風力発電協会は洋上風力の普及拡大に向けて、政策提言やイベントなどを行ってきた(写真:編集部)

秋本真利衆議院議員の汚職事件により、洋上風力発電を巡る混乱は収まる気配を見せない。

贈賄の疑いがある日本風力開発のみにとどまらず、業界団体である日本風力発電協会(JWPA)も秋本議員による国会質問への関与が疑われている。

さらに、洋上風力の代表的企業である三菱商事が同協会を退会していたことが東洋経済の取材でわかった。業界団体に対する不信の声はほかの会員企業の間でも高まっている。JWPAのガバナンスが健全に機能しているかが問われている。

なぜ業界団体であるJWPAが行政指導を受けたのか?

経済産業省資源エネルギー庁は10月17日、日本風力開発とJWPAに対して行政指導を行ったと発表した。

背景にあるのが、洋上風力を巡る秋本議員の汚職事件だ。秋本議員が自社に有利な国会質問を行う見返りとして、日本風力開発の塚脇正幸前社長から秋本議員に数千万円もの資金供与が行われたとされる。秋本議員は9月27日に受託収賄罪で東京地裁に起訴された。

また行政指導の翌18日、日本風力開発はJWPAからの退会を公表。同時に加藤仁代表理事(日本風力開発副会長)、祓川(はらいかわ)清副代表理事(日本風力開発グループのイオスエンジニアリング&サービスの最高顧問)、松島聡政策部会長(日本風力開発社長)がJWPAの役職から退任したと発表した。

これまで贈賄が取り沙汰されてきた日本風力開発だけでなく、業界団体であるJWPAが行政指導を受けたことには大きな意味がある。

JWPAは風力発電の業界団体で、メーカーや発電事業者をはじめ500社を超える企業などが加盟。洋上風力の普及拡大に向けて政策提言などを行ってきた。ただ、「日本風力開発の色が強い」(複数の業界関係者)ことから、一部の事業者の利益を優先しているのではないかとの懸念がつきまとっていた。

協会が国会質問の事前調整や原案・資料を作成?


10月18日に加藤仁代表理事が退任するなど、協会は運営体制を大きく見直した(写真:編集部)

今回、エネ庁が問題視したのは、まさしくJWPAの「意思決定及び活動の在り方について」だった。

贈収賄事件の大きな転換点となったのは、国内初となる大型洋上風力の事業者公募結果の公表だった。2021年12月末に三菱商事などの企業連合が秋田県、千葉県の3海域を総取りし業界に激震が走った。この「三菱ショック」で洋上風力への事業参入の目論見が打ち砕かれた企業の一つが日本風力開発だった。

この直後から「入札ルール自体を見直すべきだ」との論が一部の事業者の間で大きくなっていった。そして、2022年2月17日の衆院予算委員会で、秋本議員は「評価の仕方を見直していただきたい」などと萩生田光一経産相(当時)に繰り返し迫った。

朝日新聞などの報道によると、日本風力開発はJWPAを介して秋本議員に対して国会質問の事前調整や、原案・資料の作成を行っていたとされる。東洋経済はJWPAに対して、「秋本議員や他議員の国会質問で質問原案や資料を作成し、提供したことはないのか」と質問したが、協会は「説明を控える」との回答だった。

また、JWPAは2022年2月に洋上風力の入札ルール見直しを求める政策提言を発表。その後、会員企業の間で意見が割れた「落札制限」について賛同を表明するなど、協会の意見集約が適切に行われていないと指摘する声が強まった(詳細は「東洋経済オンライン」の右記事参照:議員へ贈賄疑い、「日本風力開発」政財界での影響力)。

東洋経済は、JWPAの主な会員企業に対して質問状を送付。「秋本議員の贈収賄事件についてJWPAが説明責任を果たしているのか」「意見集約が適切に行われているのか」などを質問した。10月16日までに複数の企業から回答を得た。

贈収賄事件に関する説明が十分だったかについて、再エネ大手のレノバは「回答を差し控える」とした。


JWPAの会員リストから、三菱商事グループ企業の名前が消えた(画像:日本風力発電協会HP)

一方、三菱商事は「一連の報道が与えた印象を払拭するに足る説明は(JWPAから)なされていない」と答えた。

また、エネ庁による行政指導の1週間前に当たる10月10日、三菱商事がJWPAから退会したことが関係者への取材で判明した。同社に退会理由を聞いたところ、「JWPAの活動方針について、当社と意見の食い違いがあるため」と説明している。

エネ庁「行政指導」を受けて運営体制を見直し

三菱商事がJWPAから退会した余波は今後、業界に広がりそうだ。

JWPAは加藤代表理事(日本風力開発出身)の退任により、副代表理事だった山田正人氏(風力タービンメーカーであるMHIベスタスジャパンの社長)が代表理事代行に就任した。

エネ庁から「第三者の関与の下での検証等」を求められたJWPAは、10月中に外部専門家が参画した「協会のあるべき姿検討会(仮称)」を立ち上げ、同検討会での議論について年内をメドにまとめる方針だ。

ただ、JWPAの不透明な「活動の在り方」に対する不満の声はほかの会員企業からも上がっている。ある大手企業幹部は、「(JWPAとは別に)業界団体を立ち上げる話が持ち上がったほどだ」と話す。三菱商事のように、今後、JWPAから退会する企業が出てきてもおかしくはない状況だ。

JWPAは組織が空中分解する瀬戸際にあることを自覚し、本当に一から出直すことができるのか。結果が出るのはそう遠くない。

(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)