サッカー、ラグビー、バスケットボール、野球…、年功序列で日本代表チームのレギュラーになるなんてありえない(Stuart Franklin/Getty Images)

アメリカを代表する株価インデックスであるS&P500は、この三十数年間で10倍以上になっている。一方で、東証プライム市場全上場銘柄で算出されている東証株価指数(TOPIX)は上昇トレンドをたどっているものの、長期的には横ばい圏から脱していない。この違いは何なのか。マネックスグループ創業者で会長の松本大氏は、「TOPIXの構成銘柄の新陳代謝が行われていないからだ。また、年功序列など、競争心を削ぐ日本の経営にも問題がある」と言う。

今回は、「資本市場を活用して日本を復活させる方法」をまとめた新刊『松本大の資本市場立国論』を上梓した松本氏が、「日本企業が元気を取り戻し、株価の上昇をもたらすために必要なこと」について解説する。

株価に影響を及ぼす退出問題

2014年1月6日から「JPX日経インデックス400」という株価指数の公表が始まりました。この指数は、東京証券取引所に上場されている全銘柄のなかから、投資家にとって魅力があると思われる400社を選び、その株価をベースにして指数を作成するというものです。


東証上場全銘柄のうちの400銘柄ですから、上場市場はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場すべてが対象となります。

では、その値動きはこの10年間、どうだったのかというと、東証プライム市場全上場銘柄で算出されている東証株価指数(TOPIX)と、ほとんど差がないのです。

JPX日経インデックス400は本来、東証全上場銘柄の上澄みに該当する、投資家にとって魅力的な企業を対象にして算出されている株価インデックスであるにもかかわらず、良い企業も、悪い企業も一緒くたにして算出されているTOPIXと、値動きがほとんど変わらないのは、いったいどういうことなのでしょうか。

しかも、TOPIXの長期チャートを見ると、2013年以降はアベノミクス効果もあって、上昇トレンドをたどっていますが、1989年12月につけた水準には達しておらず、長期的には横ばい圏から脱していません。

一方、アメリカを代表する株価インデックスであるS&P500は、この三十数年間で10倍以上になっています。

この違いは何なのでしょうか。

私は、株式市場における新陳代謝の差だと考えています。S&P500がこれだけ上昇し続けているのは、インデックスを作成する対象となる500銘柄が、どんどん入れ替わっているからです。その時々で、最も競争力の強い企業が選ばれ、インデックスの構成銘柄に組み入れられる一方、競争力の低下した企業はどんどん外されていくのです。

これに対してTOPIXの構成銘柄は、ほとんど入れ替わりません。生産性が大幅に落ち込んで、時代から取り残されたような企業も、指数を構成する銘柄に入っているのです。これでは長年にわたって横ばい状態が続くのも、無理はありません。

時代に合わないものは退出させる。これは資本主義の世界における基本中の基本です。

上場を取り消された企業は解散する。解散してそこから放出された人やその他のリソースが、もっと生産性の高い企業で使われるようになれば、全体の生産性が上がり、株価の上昇にもつながっていくはずです。

年功序列を廃止して競争心を取り戻せ

株価を上げるためには、株式市場の改革に加え、企業側の努力も必要です。そして、努力をするのと同時に、これからの日本企業がもう一度、取り戻さなければならないものがあります。

それは「競争心」です。

競争心が失われてしまった原因の根底にあるのは、年功序列ではないかと思うのです。

年功序列とは、たとえば2022年入社組、2023年入社組というように、同じ入社年次のなかで競争が行われ、その中で優秀な人材が課長、部長、役員、社長というように昇進の階段を上っていく、日本企業の多くに見られる雇用の仕組みです。ある程度の年次にならないと昇進のチャンスを手にできませんし、給与も上がりません。

かつての日本において、年功序列はプラスに作用してきましたが、経済が成熟段階に入った今となっては、むしろ弊害のほうが多く見られます。日本のように経済規模が縮小していく懸念があるなかでは、全員が平等に豊かになることはできません。競争に勝ち抜いた人がリーダーになり、組織をグイグイ引っ張っていくという形にしなければ、モチベーションはガタ落ちになりますし、競争心も失われる一方です。

そして、競争心が失われた組織では、いまのグローバルな競争環境のなかで生き抜いていくことはできなくなります。だからこそ、日本のあらゆる組織から、年功序列の考え方を完全に排除する必要があるのです。

日本はバブル経済が崩壊した1990年代、長期低迷から脱するために「日本的経営を見直す」などと言って、終身雇用制度や年功序列賃金を廃し、成果主義の導入や年功にとらわれない昇進制度、あるいは雇用の流動化を進めようとしてきましたが、実は大企業になるほど、いまも根強く終身雇用制度や年功序列賃金が維持されています。

とくにひどいのは銀行や中央省庁です。いまでも「〇〇年入省組」などということが平気で使われています。

事務次官など、各省庁のトップに就く順番も年功序列が絶対で、入省年次の若い人が、古い人を飛び越えてトップに就任するなんてことは、まず起こりません。中央省庁がそういう状態だから、そこと付き合う大企業も、どうしても入社年次を重視せざるをえなくなります。

プロのサッカーチームは実力主義です。「この選手はチームに所属して5年が経ったから、レギュラーメンバーに加わってもらおう」などという人事は、絶対にありえません。

日本企業は、この絶対にありえない年功序列のサッカーチームであるにもかかわらず、GDPというワールドカップの世界で第3位を維持しています。これは、まさにアメイジングなことなのです。

つまり、日本企業にはものすごいポテンシャルがあるのです。

それを解放するためには、とりもなおさず年功序列をやめることが大事です。もし日本企業が本気になって年功序列をやめれば、十分に世界第1位を狙えるところまで行けるかもしれないのです。

ヒト・モノ・カネの最適配置で日本は元気になる!

1960年前後からの30年間は、日本の高度経済成長に始まり、GDPで世界第2位に上り詰め、株価が過去最高値を更新するなど、まさに絶頂期を謳歌したわけですが、1990年代に入ってからは株価が急落し、不良債権問題をはじめとして、大手金融機関が経営破綻に追い込まれた金融危機、長期化したデフレ経済など、ネガティブな事象が次々に起こりました。

わたしは今、59歳になったのですが、この60年間の日本経済を振り返ると、絶頂に向けてひたすら20年間、突っ走った後、それとほぼ同じ期間、大いなる試練を味わったことになります。そして、この試練の40年間で、多くの日本人が自信を喪失しました。

なぜ自信を喪失してしまったのでしょうか。少なくとも、日本人1人ひとりの基礎能力が、諸外国に比べて大きく劣ってしまったというわけではありません。そうであるにもかかわらず、自身喪失に陥ることになった最大の原因は、ヒト・モノ・カネが最適配置されていないことにあります。

ヒトの最適配置を妨げているのは、年功序列と終身雇用の制度です。新卒で入社した会社に定年まで居続けることができ、そのうえ役職と賃金が、ある程度の水準まで自動的に上がっていく雇用制度は、世の中全体が拡大に向けて進んでいる時代にはいいのかもしれませんが、成長期から成熟期に入った国の経済にとって適したものとは思えません。

雇用の流動性を高め、必要とされる場所に、必要とされる能力を持った人を再配置する仕組みをつくる必要があります。

平成の30年間、低迷続きだった日本経済

モノの最適配置を妨げているのは、過去の成功体験から脱却できない「甘え」の気持ち、ではないでしょうか。

「東洋の奇跡」とまで言われた高度経済成長からバブル経済までを通じて、日本経済は世界で最も大きな成功を収めました。しかし、それと同時に慢心も生じてしまったのだと思います。日本企業は、今までの成功体験を忘れることができず、時代の流れの中ですでに不要となっているはずのビジネスラインですらも、頑固なまでに維持し続けました。

本来、時流に乗らなくなった古いものは切り離し、新しいものにどんどん生産要素をシフトさせなければ、経済の成長は足を止めてしまいます。

そして、カネの最適配置を妨げているのは、企業の莫大な内部留保です。日本企業はリーマンショックで、資金繰りに苦しんだ経験から、そうならないようにするため内部留保を分厚く持つ傾向がありました。しかもリスク回避意識が強いせいか、必要以上の内部留保を現金で貯め込んでいたのです。

しかし、現金をたくさん貯め込んでいても、そこからは何も生まれません。新しい付加価値を生み出すためには、内部留保の一部を使って新しい生産設備を導入する。あるいは、AI(人工知能)やロボット、ICT技術を導入して生産効率を引き上げるなど、投資を行う必要があります。

平成の30年間の日本経済は、高度経済成長をもたらしたさまざまな制度が、世界の変化に対応できず、低迷続きでした。それに加えて人口減少が現実問題となり、日本経済の未来に重くのしかかってきています。

繰り返しになりますが、日本人1人ひとりの基礎能力は、海外の人々と比べて何ら遜色はありません。最大の問題は、ヒト・モノ・カネが最適配置されないまま今日に至っていることに尽きます。そのボトルネックを改善すれば、日本経済は再び元気を取り戻せるはずです。

(松本 大 : マネックスグループ会長)