現代のビジネスパーソンに求められるビジネス教養を、わかりやすいイラストとともに紹介します(写真:horiphoto/PIXTA)

現代のビジネスパーソンに求められる教養は、非常に多岐にわたります。

とはいえ、それらすべてを学ぶには時間もお金も足りない、そういう方は多いのではないでしょうか。そこでオススメなのが、学ぶ前に「ザックリつかんでおく」ことです。それにより知識を吸収するスピードが劇的に早くなります。

経営学者でYoutuberでもある中川功一氏が、現代のビジネスパーソンに必須となるビジネス教養をイラスト図解とともに解説した『ザックリ経営学』を出版しました。本書はビジネスの基礎用語100個をわかりやすいイラストとともに網羅しています。本記事は、本書からマーケティング編を一部抜粋のうえ紹介します。

STPの成功例:サイゼリア

STPは、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングのことを指します。

マーケティングとはニーズを抱えている人に、適切な製品・サービスの存在を知らしめ、買ってもらえるまでの流れをつくる仕事です。無理やりいらないものを売りつけたりすることではありません。供給者と需要者を円滑にマッチングするための仕組みをつくることです。

その基本は、市場を正しく理解することにあります。どのように顧客が分布しているのか、さまざまな軸で市場を細分類します。これをセグメンテーション(細分化)といい、1つひとつの市場をセグメントといいます。


(『ザックリ経営学』より)

どのセグメントを狙うかがターゲティングです。1つを狙ってもいいし、複数を狙ってもいいです。必要としている人に、必要なものを届けるためのカギはこのターゲティングにあり、ここがズレると供給者も需要者も不幸になります。

狙うセグメントが決まれば、その中で自社がどういう立ち位置を取るのかを決めます。他社と同じことをやっていても、市場がうまく取れないばかりか、「同じようなものが2つある」状態となってしまい、社会的にも非効率的です。自社の特徴を明確にし、他社と差をつける必要があります。

企業事例:サイゼリヤ

かつてはハレの日にぜいたくをしに行く場であったファミリーレストランでしたが、その普及につれて、1990年代には、とくにハレの日でなくとも皆がレストランを使うようになりました。
そうした新しいセグメントの登場をいち早く捉えて成功したのが、サイゼリヤです。

競合他社が高級路線を取るなか、需要があるのは低価格帯であると判断し、メニューを徹底的に安く提供しました。ただし、同社の成功は単に「伸びるセグメントを早期に発見できていた」だけにとどまりません。
同社は本場イタリアの味を再現するばかりか、実際にバイヤーがイタリアから買い付けてきたワインなどの食材を提供するなどの徹底ぶりで、「ただの安い飲食店」とは一線を画します。
サイゼリヤは安いのに本格派、というポジショニングが顧客をつかんで離さないのです。

3C分析の成功例:大塚製薬

マーケティングの基本ステップSTPを進めていくための基本的な知的インプットとして必要となるものが、自社(カンパニー)、顧客(カスタマー)、そして競合(顧客)に関する情報です。顧客情報をもとにセグメンテーションを行い、自社や競合の特徴をもとにターゲティング・ポジショニングを決めます。


(『ザックリ経営学』より)

自社分析では、自社の製品の特長や技術的な強み、顧客からの評価などを明らかにするのみならず、そもそも自社のビジョンや事業ドメインは何なのか、という確認も行います。ビジョンから外れた製品を出しても、後から戦略の一貫性を維持することが難しくなります。

顧客については、市場規模などの数量的な情報のほか、顧客のライフスタイルなどの定性的な情報も、ペルソナ分析などを用いて明らかにします。

競合については、製品の特長や、掲げる理念などを整理していきます。そうして競合の特徴を理解することで、自社がどう違いを作っていくか、マーケティングの方針を定めやすくなります。

企業事例:大塚製薬

製薬企業ながら、消費者向け飲料でも大きな成功を収めている大塚製薬。商品はご存じ、ポカリスエット。1980年に発売しました。
コカ・コーラやサントリー、キリン、アサヒといった大手飲料メーカーが多数存在するなかで、当初「飲む点滴」という異色のキャッチコピーを付けられたスポーツ飲料という独自の商品として発売されました。

製薬企業であるという自社の独自性(Company)と、缶コーヒーや炭酸飲料、茶系飲料、飲料水と幅広く手掛ける大手飲料メーカー(Competitor)との違いを明確に、大塚製薬は実質的に飲料分野をポカリスエット1本に絞りました。
運動によって水分・塩分・糖分を消費するのは、もっぱら中高生(Customer)です。そうした顧客の特徴を捉え、体だけでなく、心も潤すドリンクとして、中高生を応援するようなCMやキャンペーンを展開し、若い世代の心をつかみました。

4Pの成功例:モスバーガー

STPが終わり、どういう市場に、どういう立ち位置で商品・サービスを出していくかを決めた次のステップが、具体的なマーケティング策の設定です。どういう製品(Product)を、どんな価格(Price)で、どういう販路(Place)で売るか。そしてどういう顧客コミュニケーション(Promotion)をするかを決めます。


(『ザックリ経営学』より)

ターゲティング・ポジショニングに合致するように選択することが第一で、4つのPがちぐはぐにならないようにすることがその次に大切です。

ただし、マーケティング実務のなかでは、4Pのすべてがマーケティング責任者の自由になることは多くありません。場合によってはPromotionだけが自由になる、ということもあるでしょう。配られたカードで勝負する必要があります。4Pのうち、自分が操作できるのは何かを理解し、そこに集中するという姿勢が大切なのです。

企業事例:モスバーガー


ハンバーガー業界は、比較にならないほどの圧倒的トップシェアにマクドナルドが君臨していました。そんななかで、マクドナルドの牙城を崩すことに成功した数少ない企業がモスバーガーです。
マクドナルドの隆盛とともに、日本で生まれてきた「ちょっと違ったバーガー、高級バーガーが食べたい」というニーズを捉えたのがモスバーガーです。

高級志向、素材にこだわる自然派という新機軸を打ち出し、価格もマクドナルドよりもはるかに高い値付けをしました。
出店方針も大きく異なります。マクドナルドが駅前や国道沿いの一等地を狙うなかで、モスバーガーは一本入った路地裏を狙いました。土地代が安く済むだけでなく、落ち着いた高級路線の店というブランディングも可能になるためです。

ファストフードでありながら、店頭では、しっかり作る、レジでもよく会話をするという「スロー」な体験を提供。各種媒体での宣伝も控え目にし、口コミで質の良さ、体験の良さを広げていく手法で、ハンバーガー業界で独自の地位を得ました。

カスタマージャーニーの成功例『進撃の巨人』


4PのうちのPlace(販売チャネル)とPromotion(顧客コミュニケーション)は、今日では切り離せないものとして一体運用します。その典型がカスタマージャーニーです。

どう知ってもらい、どう好きになってもらって、最終的にどこで購買させるか。までをデザインする手法です。

認知を獲得するための方法と、興味や欲求を高めるための方法は違うということがカギです。認知度を上げるのは広告やSNSで良いですが、興味・欲求を高めるうえでは、もう少し密なコミュニケーションができる媒体に誘導する必要があります。


(『ザックリ経営学』より)

カスタマージャーニーを描き出し、そこでの顧客の行動や感情を分析し、課題を検討し、解決案を出す……という図の分析をとくにカスタマージャーニーマップと呼びます。

精緻にカスタマージャーニーを磨きぬくときに用います。そこには顧客のペルソナがきちんと描かれていることが大切です。具体的な顧客イメージが描ければ、その顧客が普段どういう媒体を使っているのか、どういうところで買うのか……ということが見えてくるのです。

企業事例:講談社と『進撃の巨人』

圧倒的な力をもつ巨人に対して、人類が、絶望的な状況のなかで決死の挑戦をする、『進撃の巨人』はそんな「王道の少年漫画」でありつつ、ショッキングな表現と、魅力的なキャラクターたちで、誰をも惹きつけるような特徴を備えていました。
広告やSNSでも、そうした王道的な特徴が強調され、幅広い認知を得ることに成功しました。
しかし、ストーリーが進むと、話は思いがけない方向へと進んでいきます。幾重にも張り巡らされた伏線、舞台装置をひっくり返すような展開が続きます。そうした「謎かけ」を、本誌や各種記事として仕掛けていき、「あの漫画は単なる王道ものじゃない」と話題を作りました。
その結果、ブログや動画サイトで考察が行われるようになります。こうして「あの漫画は何かすごいらしい」という感情が潜在顧客の中で育ってきたタイミングで、新刊を大々的に書店店頭に並べたり、コミックアプリ「マガポケ」で既刊分を無料公開するなどして、丁寧に購買につなげました。
『鬼滅の刃』なども同様ですが、近年の漫画作品は十分な認知と、そこから興味をかきたてるような2段構えの構成を土台に、それを広告戦略=カスタマージャーニーに落とし込むことで、ヒットを生み出しています。

(中川 功一 : 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役)