世界遺産のシーギリヤロック(筆者撮影)

豊かな大自然に、美味しい料理、そして穏やかな人々――。

北海道より小さな国に、実に8つの世界遺産が点在するスリランカ。ガイドブックを開くと、「小さくて大きな国」「輝きの島」といった魅力的な表現が目立つ。

2009年まで26年間続いた内戦や、2019年の同時多発テロの影響もあり、「未開の地」と言われることもあるが、実は今、日本人の女性旅行者からにわかに注目を集める場所となっている。実際に筆者も8月下旬にスリランカを周遊したが、日本人旅行者が想像以上に多くて驚かされた。

低予算でも楽しめる

大手旅行会社の社員がこう説明する。

「スリランカは、コロナ前から実は人気が急上昇していた国の1つです。主なターゲットは、20代〜40代の少し旅行慣れした女性。今は極度な円安や世界情勢の影響で、世界中で旅行価格が高騰しており歯止めも利いておらず、航空券だけで3、4倍、全体の予算も2倍以上になっている国もある。

ただスリランカは1週間ほどでトータル20万〜30万円程度と、コロナ前と大きな変化はなく問い合わせも確実に増えています。リピーターも多く、今後もしばらくこの傾向は続くでしょう」

スリランカには、「シーギリヤロック」に代表される多くの観光名所、豊かな自然を活かしたサファリ、ヌワラエリヤ産の紅茶などがある。また、インドやタイなどとも異なる独特の緩い南国感が心地よい。

同国で、政府公認のタクシーサービス(ツーリリストカー)を提供する「スリランカタクシーサービス」代表の西原龍起(37)氏が、現在の活況ぶりをこう明かす。

「現在ウチのサービスの利用者は、コロナ前を大きく上回り、年間で約500組のペースの水準になっています。日本人に限らず、欧米を中心としたスリランカ旅行への需要が高まっています。

中でも日本人女性に人気で、世界遺産の他にも、アーユルヴェーダ(インド・スリランカの伝統医療)、ジェフリー・バワが建築したホテル、豊かな自然にシーフードやカレーといった食事の満足度も非常に高く、とにかくコスパの良さが日本人に刺さる。数少なくなった、日本人にとって『安いね』『コスパがいいね』という感覚で楽しめる国ですね」

観光客数も増加中

旅行者からの人気の背景の1つには、国を挙げての観光への注力もある。観光客数は、コロナの落ち着きもあり、2021年の19万4495人から、2022年には71万9978人と3倍超に増加。本年度はこの数字はさらに伸びる見通しだ。

スリランカは経済面において、2022年春にデフォルトに陥っている。現地の人々によれば「物価は総じて2倍近くになっている」という声も多かった。しかし、国民の平均月収は200ドル程度で伸びておらず、生活は改善の気配が見えない。それでも仏教徒が7割を占めるというお国柄もあってか、殺伐とした空気感は全く感じない。礼節を重んじるという日本人に近いメンタリティを持つ人が多い印象だ。

前出の西原氏がいう。

「スリランカの最大の特徴は、とにかく“人がいい”ということ。これは大きなポイントで、かつて商社マンでいろんな国を見てきた私も、数カ月滞在してほとんど悪い人に会う機会がなかったことは驚きでした。この点も女性からの人気が高い要素だと感じますね」


街によってはゾウが道路を散歩している光景に出くわすことも(筆者撮影)

観光客に対してのサービス料金は総じて現地の人々よりも高いが(世界遺産などの観光地では現地人の約30倍程度)、その分、ホスピタリティもあり、観光を主とした外貨獲得を基幹産業にしていきたいという意図も伝わってきた。

移動に関しては、旅行者はタクシーやツーリストカーの利用がメインとなるだろう。ただ、短距離の移動でも「Uber」や「Pick Me Up」といったライドシェアが発達しており、利用もしやすい。ちなみにトゥクトゥクでも車種指定が可能で、かなり便利でもあった。

コロンボ市内のペター地区にあるメインストーリートに足を運ぶと、道に人が溢れているという、いかにもアジアらしい雰囲気がある。


人で溢れかえるメインストリート(筆者撮影)

料理も日本人の舌に合うものが多く、特に良質なカニやエビを使用した料理は非常にレベルが高かったことも嬉しい誤算だった。また、現地の人も利用する関係もあり、街中でアーユルヴェーダを利用できる施設も多く値段にも幅があるため、予算に応じた過ごし方ができる点もありがたかった。

ODAを通じて強い結びつき

もう1つ、旅行中に強く感じたのは、かなりの親日国ということだ。道すがら「ジャパニーズ? コリアン? チャイニーズ?」と尋ねられ、ジャパニーズと答えるとそこから会話が始まる。

もともとスリランカと日本は、ODAなどを通して長年友好関係が続いている。スリランカ財務省が2021年に発表したデータによると、同国の主要援助国の中国(27.5%)に次いで、日本が2位で(26.7%)、3位のインド(17.1%)を大きく引き離している。コロンボなどは、中国系の企業による土地買収が進んでいるが、日本の場合は純粋な援助という側面を感じられた。

宗教や企業間での連携も強い。驚いたのは、同国の最大都市であるコロンボ市内の象徴的な寺社である、ガンガラーマ寺院を訪れた時のことだ。奥に進んでいくと、安倍晋三元首相の遺影が置かれていた。


安倍晋三元首相の遺影が置かれていた(筆者撮影)

また、2004年のスマトラ沖地震で壊滅的な被害を受けた、南部のリゾート地ヒッカドゥワを訪れると、「TSUNAMI HONGANJI(本願寺) VIHARA」というモニュメントが創設されていた。施設の管理者によれば、「日本の浄土真宗より寄贈があり今でも本当に感謝をしている」という。


津波被害の際に日本から寄贈されたモニュメント(筆者撮影)

いったいなぜ、ここまで親日な人が多いのか。コロンボで10年以上観光ガイドを務めるワランクラスリア・ラランサ・シャヤナカ・デ・ワスさん(39)がこう説明する。

「マヒンダ・ラージャパクサ大統領の時代は中国との関係が強かったんですが、ラニル・ウィクラマシンハ大統領は安倍元総理と親交があり、日本との関係性が再び強くなりました。安倍さんの日本でのテロ(銃殺)はスリランカでも多く報道されましたね。

仏教徒が多いこの国では、日本の高僧の方々が訪れて尊敬を集めてきた、という過去もあります。経済的にも空港や、空港へ向かう橋や道路の舗装などのインフラ整備で日本に支援を受けたことを理解しているスリランカ人は多いんです。

そのため、コロンボでは日系の企業で働くことはステータスとなっている面もあります。金は出すけど、自国主導でどんどん開発を進める中国に対しての国民感情と、文化的に通じるものがある日本に対しての国民の意識は違うとも感じています」

酒類は購入しにくい

最後に1つ、旅行に際して注意したいのはアルコールの提供についてだ。大型のホテルや南部のリゾート地だと少し勝手は違うが、基本的にはアルコール類を出すレストランやスーパーはかなり限定される。その一部の提供も基本的には夜の21時までである。

これは、アルコール類の販売許可の値段が高いことに起因する。「ワインショップ」も少ないながらあるが、旅行者が探すのは骨が折れる。筆者は偶然ブラックマーケットを見つけたが、一部のウイスキーなどは1万5000円超の価格で売られていた。

このような不便もあるが、非日常な光景も含め、刺激を求める旅行者にとって、スリランカは強くオススメしたい国だ。


ブラックマーケットで酒類が売られていた(筆者撮影)

(栗田 シメイ : ノンフィクションライター)