サブスクサービスの拡大を急ぐXbox。展開するマイクロソフトはゲーム領域での攻勢を強めている(写真:Bloomberg)

マイクロソフトは9月下旬の東京ゲームショウ開催に合わせて配信した「Xbox Digital Broadcast」において、Xboxで今後展開されるゲームソフトのラインナップを発表した。その中には、カプコン、スクウェア・エニックス、セガ、コーエーテクモゲームスなど、日本のソフトメーカーのタイトルも多数含まれている。

Xboxは現在、月額制でゲームプレイが可能なサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」に力を注ぎ、これらのタイトルをPCやコンソールはもちろん、クラウドを使えばスマホ単体でもプレイすることができる。

9月には、マイクロソフトが2021年に買収したゼニマックス社傘下のベセスダゲームスタジオが制作したRPG「Starfield(スターフィールド)」の配信も始まった。ゲーム領域でのM&Aをめぐっては、2022年1月にアメリカのゲーム大手、アクティビジョン・ブリザードを687億ドルで買収すると発表。過去にない巨額買収に現地当局が待ったをかけ、買収完了までに1年9カ月を要するなど、大きな話題を呼んだ。

マイクロソフトの拡大戦略の一翼を担うゲーム事業。今後の展開の方向性について、Xboxの最高責任者であり、Microsoft GamingのCEOを務めるフィル・スペンサー氏に聞いた。

日本は世界でいちばん伸びが大きい市場

――日本でもスターフィールドがヒットしています。

ベセスダゲームスタジオのヘッドを務めるトッド・ハワード氏は、彼らがまだ独立組織であったころ、Xboxの立ち上げのときから一緒に仕事をしてきたクリエイターだ。

ゼニマックスの買収に至る前からトッドとは、ベセスダゲームの歴史において最大のヒットを作るためにどんな協力ができるかを話していた。われわれが彼らの開発チームに対してできたことは、時間や資源を提供して、あそこまで洗練されたゲームを作ることの“お手伝い”だと思う。


ベセスダ・ソフトワークスより9月に発売された「Starfield」(画像:マイクロソフト)

Xbox、PC、サブスクリプションサービスそれぞれのリリース日をそろえて一気に展開したことで、最大限のプレイヤー数を狙った。これは大成功だったと思う。

スターフィールドのユーザー数はプラットフォーム全体で1000万を超えている(9月20日時点)。サブスクの登録拡大に加えて、コンソールの販売台数やPCユーザー数の伸びにもつながっている。

――日本のゲームユーザーの傾向に特徴はあるのでしょうか。

日本はモバイルゲームのプレイヤーが非常に多い一方で、コンソールやPCでプレイしている人も多いという印象がある。とくにここ3年くらいの傾向を見ると、PCでプレイするユーザーの数が日本国内で2倍に増えているとも言われている。

Xboxの成長においても、日本が世界でいちばん伸びの著しい国だ。実際のプレイヤー構成を見てみると、日本国内では大半をPCユーザーが占める。Xbox Game PassをPCで遊んでいるユーザーの数は、3年間で4倍に増えている。

Xboxとしては、もちろんコンソールの台数を売りたいという思いはある。しかしそれ以上に、日本のプレイヤーにXboxのコンテンツを遊べる環境をしっかり提供する必要がある。モバイルで遊びたい人、PCで遊びたい人、コンソールで遊びたい人それぞれにリーチできるような環境を整備していくことがXboxの戦略だ。


フィル・スペンサー/ワシントン大学卒業後、1988年にインターンとしてMicrosoftに入社。ゲーミング エグゼクティブバイスプレジデント、Xbox責任者、Microsoft Studios コーポレートバイスプレジデント、Microsoft ゲームスタジオEMEAのGMなどを歴任し、現在Microsoft GamingのCEO(撮影:梅谷秀司)

――アジア市場全体の動向はどうみていますか。

アジアのゲーム市場はその他の地域と比較しても、ビジネスモデルの新しい発想や、イノベーションに関して非常に新しい取り組みが多くみられる。モバイルゲームはまさしくその一例だ。

一方で昨今のトレンドを見る限り、アジアのクリエイターが発信しているタイトルは、大きなフランチャイズ化(マルチなプラットフォームでの展開)を目指す傾向も非常に強いと感じる。中国・miHoYoの「原神」などが一例として挙げられるが、どのデバイスでもプレイできるコンテンツに刷新していこうとする傾向は、今後も強まっていくのではないか。

弊社はこの数年、サブスクモデルの拡大に向けてXbox Game Passにかなりの力を注いできた。日系企業やアジアのクリエイターにも参加してもらい、彼らからは前向きに捉えられているという印象を受ける。

FF14の展開に至るまでのやりとり

――スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV(FF14)」が2024年春からXboxで展開されるなど、日本のソフトメーカーとの連携が増えてきた印象です。

この役職に就いて、Xboxがもう少しここは直したほうがいいと思った点の1つが、日本のクリエイターとの関係性の強化だ。

ただ、新たなクリエイターたちとの関係構築は信頼があって初めて成り立つもの。私にとって重要なのは、クリエイターとの信頼関係を築くことで、将来的に私たちのプラットフォームにもゲームを出してもらえるようにすることだ。パートナーシップなどを結ぶ前に、お互いが持っているゲームに対する愛情を共有し、一緒に良いゲームを作るという認識を持つことが欠かせない。

FF14は1つのいい例になると思うが、ここに至るまでに、吉Pさん(スクウェア・エニックスの吉田直樹氏)とは何年にもわたって、好きなゲームの話やXboxでも展開できたらという話をしてきた。それが最終的に今回の発表につながったことをとても嬉しく思う。

パートナー企業の非常に強い関心事は、Xboxでゲームタイトルを展開することによって、いかに多くのプレイヤーに届けられるかという点だ。

その意味でも、私たちのパートナー戦略は他のプラットフォームからゲームを引き抜くことでも排除することでもなく、(PCやXbox、サブスクなど複数の方法で展開する)われわれのビジネスモデル通じて、パートナーの開発するゲームがより多くのプレイヤーにリーチできるようにすることだ。


スペンサー氏は、サブスクサービスを成長させるうえでパートナーシップの拡大が必要だと強調する(撮影:梅谷秀司)

そうした中で、Xboxにセガの「龍が如く」やアトラスの「ペルソナ」など、従来見られなかったタイトルが参画してくれるようになった。(買い切り型の)パッケージのみの展開から、パッケージ+サブスクリプションという展開が可能になれば、多くのプレイヤーに届くということを確信してもらい、参加していただいたのではないかと思う。

PCやクラウド上で新しい顧客を見つけながらサブスクサービスを成長させていくには、より広範なパートナーシップと、Xboxチーム内のクリエイティブな能力を高める必要性が出てくる。これらは私たちの長期的な成功にとってきわめて重要だ。

専用ハードウェアの必要性はなくならない

――マルチプラットフォーム化が進む中でゲーム専用のコンソールのプレゼンスは低下していくのでしょうか。

必ずしもそんなことはないと思っている。ハードウェア自体が、よりいろんな人にいろんな状況でプレイできるように、もっとオープンな設計になっていく側面はあるだろう。

ただ音楽を例にとってみると、もともと物理的なメディアだったものから、今はクラウドで好きに聞けるようになりつつある一方、音楽を聞けるデバイスの数は増えている。

だから「ROG Ally」(台湾・ASUSの新型ポータブルゲーミングPC)のようなハードウェアの登場にも興奮する。デバイスの内容が変化することはあっても、それ自体の必要性がなくなるということはないだろう。

(武山 隼大 : 東洋経済 記者)