カーステイが立ち上げたEVキャンピングカー専門ブランド「ムーン(Moonn.)」から発売されたT-01(写真:Carstay)

カーボンニュートラルの実現に向け、バッテリーとモーターで100%走るBEV(バッテリーEV)モデルが続々と登場している。乗用車はもちろん、商用トラックやバス、バイクなど、さまざまなジャンルで新型の電動車が発表されているが、なんとキャンピングカーにも国内初となるBEVモデル「T-01(タイプワン)」が登場した。

T-01を発売したブランド「ムーン」とは


EVキャンピングカー専門ブランドから発売されたT-01の外観(筆者撮影)

製造を手掛けるのは、キャンピングカーや車中泊スポットのシェアリングサービスなどを運営する「カーステイ(Carstay)。同社が新規事業として立ち上げたEVキャンピングカー専門ブランド「ムーン(Moonn.)」の第1弾モデルがT-01だ。

ベース車両は、「HW ELECTRO(エイチダブリュエレクトロ)」という新興メーカーが販売する「ELEMO-L(エレモ・エル)」。100%バッテリーとモーターで走ることで、温室効果ガスの排出量が実質ゼロという中型BEVバンだ。T-01では、内装にウッドパネルなどを施し、2名就寝が可能なベッドも装備。電子レンジや冷蔵庫、エアコンといった家電製品も使えることで、旅先で快適な車中泊やキャンプを楽しめる本格仕様となっている。

ここでは、そんなT-01の詳細について、製造を手掛けるカーステイへ取材。新型の主な特徴はもちろん、EVならではのメリットやデメリット、主なターゲット層などについて紹介する。また、新しく登場したEVキャンピングカーの将来性や普及への課題などについても検証する。


T-01のフロントフェイス(筆者撮影)

まずは、T-01の主な特徴を紹介しよう。なお、今回は、神奈川県横浜市にあるカーステイの施設「モビラボ(Mobi Lab.)」を訪問。ここは、キャンピングカーの一般ユーザー向けDIYスペースなどを展開するとともに、T-01の製造拠点でもあり、実際に、デモカーをじっくりと見ることができる場所だ。取材は、同社代表取締役の宮下晃樹氏に対応していただいた。

早速、T-01をチェックしてみる。外観は、ルーフ部にオプションのルーフエアコンやソーラーパネルが装備されている以外、ベース車両であるELEMO-Lの外装とほぼ同じ。8ナンバー登録のキャンパー特装車ではなく、商用車などで一般的な1ナンバー登録車だ。


車体右サイドにある上方跳ね上げ式のドアから室内に乗り込むことができる(筆者撮影)

全体的なフォルムは、ボリューム感が満点で、まるでアメリカ製バンのような雰囲気。それもそのはず、実際にELEMO-Lは、アメリカで製造されているそうで、2名乗車が可能なデモカーは左ハンドル仕様だ。また、観音開き式のリアゲートなども、アメリカを走る商用バンさながら。室内へのエントリーは、バックドアのほか、車体右サイドにある上方跳ね上げ式のドアからも行うことができる。

ちなみに、ベースモデルのELEMO-Lは、スタートアップ企業のHW ELECTROが製造を手掛けるBEVの多目的バンだ。配送業や救急車などの緊急車両、そしてT-01のようなアウトドアのレジャー用など、さまざまな用途で使用されることを目的に開発されている。

ボディや室内のサイズについて


観音開き式のリアゲートから見た室内(写真:Carstay)

T-01の車体サイズは、全長5457mm×全幅1850mm×全高2045mm。5mを超える全長なので、日本の細い路地などではちょっと運転が難しそうだ。だが、全高の数値から考えると、高さ制限が2.1mまでの立体や地下の駐車場に停めることは可能(ルーフエアコン未装着の場合)。キャンプなどのレジャー用途だけでなく、ショッピングセンターなどでの買い物などにも使えるだろう。


室内の様子(筆者撮影)

一方、室内では、約7平米の荷室スペースを架装し、大人2名が快適に過ごせる空間を演出する。天井には、軽量ながら見た目が美しいスプルース材を使用。各板は、ピッチを変えることで、全体的に単調にならない工夫も施されているほか、LED照明を6カ所に配置し、夜間でもくつろげる空間となるよう配慮されている。また、左右の壁には上質で落ち着きのある藍色の壁紙を貼り、まるで宇宙旅行をしているような雰囲気を演出。ブランド名のムーンは「月」という意味もあるため(つづりは違うが)、それを体現するような仕様にしているようだ。


備え付けられたカウンターテーブル部分(筆者撮影)

さらに、室内後方の右側には、飲食はもちろん、PC作業などもできるカウンターテーブル、前方左隅には標準装備の電子レンジや73Lの家庭用冷蔵庫などが収納できるキャビネットも装備する。これら家具類には、白っぽい色調のロシアンバーチという木材を使い、上質感や清潔感などを醸し出す。さらに常設のベッドは、シングルサイズ(97cm×195cm)からセミダブルサイズ(120cm×195cm)に拡張することも可能。大人2名が、ゆったりと横になれる就寝スペースを確保している。

走行性能やバッテリー容量について


充電ポートはフロント部に配置(筆者撮影)

BEVであることで、二酸化炭素排出量をゼロにしているT-01では、43.5kWhの走行用メインバッテリーを搭載する。満充電1回あたりの走行距離は約270kmで、最高速度は90km/h。なお、走行用メインバッテリーは、満充電までの時間が普通充電で約8時間。カーステイの調査によれば、「EVを販売しているカーディーラーや、スーパー、コンビニ、道の駅といった商業施設など、充電設備を持つ全国2万1000カ所以上で充電することができる」という。

キャンピングカーでは、キャンプや車中泊のときに、エンジンを停止したままでも室内で家電製品などを使用できるサブバッテリーを搭載することも多いが、T-01にも24V/100Ahタイプのリチウムイオンバッテリー2個、計200Ahを装備する。一般的な国産キャンピングカーでは、12V/100Ahタイプのサブバッテリーを使うことが多いが、これは日本車の電装品などが主に12V対応のためだ。


サブバッテリーとして搭載されているリチウムイオンバッテリー(筆者撮影)

一方、T-01はより大きな電圧の24V対応のバッテリーを使うことができる。そのため、電子レンジ、冷蔵庫、エアコン、IH調理器など、さまざまな家電製品を同時に使う場合などでも、電力不足を感じず、より「心置きなく」使えるのだという。また、室内3カ所には100V電源のコンセントも用意しており、家電製品はもちろん、PCを使ってワークスペースとして活用することも可能だ。


オプションのフレキシブルソーラーパネル(筆者撮影)

なお、サブバッテリーを満充電するまでの時間は、外部電源を使って約7時間。オプションの370Wフレキシブルソーラーパネルを装備すれば、晴天の日中にサブバッテリーに充電することが可能だ。さらに緊急時などには、走行用のメインバッテリーから100V出力でサブバッテリーへ給電することも可能。災害などで停電した際に、T-01を避難場所としても活用できる。カーステイの宮下社長によれば、「メインバッテリーの電力も使えることが、ガソリン車やディーゼル車がベースのモデルとの大きな違い。まさにEVキャンピングカーの大きなメリットのひとつ」なのだという。

T-01の価格や課題について


オプションのルーフエアコン(筆者撮影)

T-01の価格(税込み)は、オプション未装着の車両のみで1150万円。オプションにはテレビやルーフエアコン、ルーフベントなども用意する。すべて受注生産で、2023年8月9日より、同社の公式ホームページで受注を開始している。カーステイでは、「今後1年間で20台の販売」を目指しており、取材した2023年8月31日現在で、数十件の問い合わせがきているという。問い合わせしてくるユーザーには、「キャンピングカーよりもEVに興味がある」層が多く、すでにキャンピングカーを所有している愛好家などは少ないそうだ。

こうしたユーザー傾向の要因は、あくまで私見だが、航続距離の問題も大きいだろう。T-01は、前述のとおり、満充電で約270kmを走ることができるが、そう考えると移動範囲は片道100km圏内くらいだ。また、旅先に充電スポットがあり、できれば宿泊中の夜間に、充電ができる場所が好ましい。最近は、キャンピングカーなどが車中泊できるRVパークなどにも、EV用充電器を備えているところも増えてきている。だが、「どこでも、好きな場所に行ける」という、キャンピングカー本来の楽しさは制限されてしまうといえるだろう。

この点について、カーステイの宮下社長も、こうしたEVキャンピングカーの普及には、「充電スポットがもっと増える必要がある」ことを認めている。それでも、同社がEVキャンピングカーの専門ブランドとしてムーンを立ち上げ、T-01を発売した背景には、「未来のスタンダードモデルを作りたい」という思いがあったのだという。


T-01の運転席(筆者撮影)

前述のとおり、T-01は、EVキャンピングカーとしては日本初(2023年8月4日時点/カーステイ調べ)。だが、海外にはすでに存在しているという。例えば、フォルクスワーゲンのBEVミニバン「ID.BUZZ(アイディーバズ)」がベースのEVキャンピングカー。ID.BUZZは、「ワーゲンバス」や「タイプ2」の愛称で、日本でも1960年代頃から人気が高い商用バン「トランスポーター」をモチーフにしたといわれるモデル。欧州など海外では2022年から発売されており、欧州のキャンピングカー・メーカーがそれをベースにしたモデルを製作した事例がある。

また、テスラが北米で2023年後半に発売すると噂されているEVピックアップ「サイバートラック」。このモデルの場合は、ベース車の発売前から複数のアフターパーツメーカーなどが専用のキャンパーシェル(キャンピングカー用の居住空間)などを開発。予約注文を受け付けているメーカーもあるという。そして、このような世界の潮流に着目したカーステイは、「将来的にスタンダードになる」であろうEVキャンピングカーをいち早く採り入れるため、ムーンというブランドを立ち上げ、T-01を発売したのだという。

T-01の今後について


サイドから見たT-01(写真:Carstay)

T-01に関しては、これも前述のとおり、現状で左ハンドル仕様しかないという課題もある。近年、多くの輸入車は、日本の道路でドライバーがより走りやすいように、右ハンドル仕様を用意し、逆に正規モデルでは左ハンドル仕様の設定がない場合もある。T-01にも、右ハンドル仕様を追加設定したほうが、より需要は伸びそうだ。これについても、カーステイでは、「ベース車を手掛けるHW ELECTROが対応する予定で、2024年には設定できる」という。


撮影車両には、冷蔵庫や電子レンジなども装備されていた(筆者撮影)

さらに、これも私見だが、1150万円という価格と装備のバランスも課題かもしれない。この価格帯であれば、キャンピングカーのなかでも高級なモデル、例えば、トラックなどをベースに専用シェル(居住空間)を架装した「キャブコン(キャブコンバージョン)」なども購入できる。しかも、そうしたモデルでは、リビングやキッチン、トイレ、ベッドまで、ひととおり生活できる設備が整っており、豪華さや快適性はT-01より高い。恐らく、ELEMO-LをベースとするT-01でも、近い架装をすることは可能だろう。だが、そうすると車両重量が重くなり、航続距離がより短くなってしまう可能性がある。

現状でも、先述のとおり、1回の満充電で約270kmという航続距離のため、それがさらに短くなると、キャンピングカーとしては使いづらくなってしまいそうだ。また、装備をより豪華にすると、結果的に価格もさらに上がるだろう。そう考えると、T-01は、今の仕様が一番バランスがいいのかもしれないが、ガソリン車やディーゼル車をベースとする既存モデルとの競争力という点では、苦戦を強いられそうだ。

課題はあるがEVキャンピングカーの未来に期待

カーステイでは、今後、ほかのタイプのEVキャンピングカーも企画しているというが、まずは、T-01が予定する20台の年間販売数をクリアし、順調な売れ行きを示すのかがカギになるだろう。幸先よく、第1弾モデルが市場に受け入れられれば、ブランドもより周知され、後続モデルも出しやすくなる。


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環境に優しく、将来的には増えてきそうなEVキャンピングカー。だが、現状では、さまざまな課題を抱えていることは確かだろう。カーステイの新規事業であるムーンやT-01、さらに、その後に控えているBEVモデルが、今後どんな展開を見せ、同社が掲げる「未来のスタンダード」へと成長できるのかに注目したい。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)