旧統一教会と自民党、安倍派との長く深い関係について池上彰さんが解説します(写真:時事通信フォト)

「大事なことは、過去の歴史の事象が、いまにどのようにつながってくるのかということを理解することです」という池上彰さん。大学での集中講義を基にまとめられた『池上彰の日本現代史集中講義』は、旧統一教会と自民党の関わり、政治とメディアの関係など、戦後、現代の日本をつくってきたさまざまな事象を池上さんが現代史の観点から解説しています。今回は、旧統一教会と自民党、特に安倍派との長く深い関係について、本書から一部抜粋・編集して取り上げます。

1960年代から続く自民党と旧統一教会の蜜月

第2次大戦後、世界はアメリカを中心とする西側諸国とソ連・東欧を中心とする東側諸国に分裂しました。日本の政治も東西冷戦を反映し、アメリカと仲良くやっていこうという自由民主党と、ソ連・中国との関係を重視する社会党・共産党が対峙するようになりました。

1960年代から1970年代にかけて、日本でも社会党や共産党が勢力を伸ばし、社会主義・共産主義をうたう学生運動が激しさを増していました。いまとなっては信じられないという方も多いでしょうが、やがて日本でも社会主義や共産主義による革命が起きるのではないかという危機意識が、保守派や財界を中心に広まっていたのです。

東西冷戦の最前線である韓国で生まれた旧統一教会は1968年、反共産主義を掲げる政治組織「国際勝共(しょうきょう)連合」を韓国と日本で創設しました。

日本での国際勝共連合の発起人のひとりとして名を連ね、創設を後押ししたとされるのが、安倍晋三元首相の祖父、岸信介元首相です。

国際勝共連合の名誉会長は笹川良一氏が務めました。1970年代から1990年代にかけて日本船舶振興会のテレビCMに出演し、「一日一善」「人類みな兄弟」と訴えていた姿を覚えている方も多いでしょう。終戦直後、岸信介元首相、児玉誉士夫(よしお)氏とともに「A級戦犯」容疑者として東京巣鴨拘置所に収監され、後にマスコミから「右翼のドン」と称された人物です。

こうして自由民主党の中でも保守派にあたる勢力と旧統一教会は、反共産主義という共通の政治意識で結びつきを強めるようになったのです。

旧統一教会はアメリカにも影響力を広めようとしました。たとえば「ワシントンタイムズ」という新聞の発刊です。

聞いたことがあるような、ないような名前ですね。「ニューヨークタイムズ」「ワシントンポスト」という権威のある有力紙に似せたネーミングです。

旧統一教会は選挙を通じて自民党との関わりを強めた

ソ連や中国、そして中国との関係を重視する民主党を非難する論調を展開し、共和党への浸透を図りました。のちにドナルド・トランプにも大きな影響を与えたといわれ、こうした活動の資金にも日本で集金された莫大な献金が流れたとされています。

一方、日本では、選挙を通じて自民党との関わりを強めました。教団関係者がボランティアとして選挙運動を支えるようになったのです。

公職選挙法により金銭のやりとりが厳しく制限されている日本の選挙運動では、ボランティアの協力が欠かせません。選挙カーの運転手や「ウグイス嬢」といったスタッフにのみ日当を支払うことができますが、たとえば「○○候補に投票をしてください」と一軒一軒呼びかけの電話をするのは無報酬のボランティアです。配布するビラに一枚一枚、選挙管理委員会のシール(証紙)を貼る作業など、多くの活動にボランティアが必要となります。

一般市民のボランティアを集めるのは本当に大変です。

アメリカなどでは、候補者の政策に賛同した学生や市民が自発的に協力することも珍しくありませんが、日本ではあまり聞いたことがありませんよね。

そこで重宝されるのが組織の力です。共産党や公明党には熱心な支持者がいるため、大勢のスタッフが動員できますし、投票も見込めます。農業や建設業といった政治の影響を受けやすい業界の関連団体にも一定の動員力があります。しかし、こうした基盤を持たない多くの候補者はボランティア集めに苦労しています。

旧統一教会は選挙運動を支えるボランティアとして信者を送り込み、多くの政治家と関係を築くことに成功しました。選挙のたびに確実に戦力になってくれる旧統一教会は多くの政治家に重宝され、選挙に欠かせない存在になったのです。

名前を変更できたのは安倍派のおかげ?

岸信介元首相の時代に始まった旧統一教会と自民党の関わりは、安倍晋太郎元外相を経て、安倍晋三元首相へと引き継がれました。

自民党はもともと自由党と日本民主党という2つの政党が一緒になってできた経緯もあり、実にさまざまな思想を持つ政治家が集まっている組織です。安倍派に代表される保守派もいれば、岸田首相につながるリベラルな政治家もいます。旧統一教会や国際勝共連合が接近したのは、自民党の中でも保守的な勢力である清和会(安倍派)でした。

2015年、旧統一教会は世界平和統一家庭連合へと名称を変更しました。かつて霊感商法で有名になってしまった過去を水に流そうとしたのでしょうか。教団は1997年から名称変更を文化庁に相談していました。

ようやく名称変更が認められた2015年は第2次安倍内閣時代。当時の下村博文文部科学大臣は安倍派の重鎮です。下村氏を巡っては、旧統一教会の関連団体から推薦状を受け取ったこと、選挙の際に旧統一教会や関連団体のボランティアの協力を受けたことなどが報道されています。

かねて安倍派と深い関係にあった旧統一教会が文部科学大臣に影響力を及ぼし、自分たちに有利になる名称変更を勝ち取った。そう勘ぐられるのも無理はありません。


旧統一教会との関わりを指摘された際、「名前が変わっていたからわからなかった」と主張した政治家もいます。

本当に別の団体だと考えた人もいるかもしれませんが、少なくとも、改名によって言い訳、言い逃れの余地ができてしまったことは間違いありません。

宗教団体や信者が政治に関わることに何も問題はありません。ただし、国が特定の宗教団体に対して有利なはからいをすれば政教分離に反します。仮に法的に問題がないとしても、そもそも反社会的な活動で社会問題となった宗教団体の協力を受けるという時点で、政治家のモラルが問われそうです。

旧統一教会との関わりを取り沙汰されている政治家たちは、宗教団体をただ「票」としてしか捉えていないのかもしれません。そうした脇の甘い意識ゆえに足をすくわれてしまったと言えるのではないでしょうか。

そもそも、政策で政治家を選び、選挙を積極的に手伝おうという人が大勢いれば、疑惑を招くような団体の動員力が当てにされることも減るでしょう。政治家のモラルだけでなく、国民の政治への関わり方も、この問題の根幹にありそうです。

(池上 彰 : ジャーナリスト)