飲食店で急増中の『QRオーダー』で消えゆく“おもてなし”の心、人件費削減でも客には「不便」の声
「つい先日、コロナも落ち着いてきたからと、久しぶりに友人と居酒屋で飲みました。びっくりしたのが、注文するのに自分のスマホを使うようになっていたこと。やり方がわからなくて、注文するまで苦労してしまいました」
こう語るのは、都内在住の60代女性。今、居酒屋だけではなく、焼き肉店、カフェなどの飲食店で『QRオーダーシステム』の導入が急ピッチで進められている。
コロナ禍で加速した『スマホオーダー』
各テーブルに設置されたQRコードを自分のスマホで読み取ると、メニュー画面が表示される。そこからオーダー、会計までをすべてスマホで済ませることができるというシステムだ。会計は現金、クレジットカード払いなど別の方法を選択することもできる。
「このオーダーシステムは、店側にも客側にも大きなメリットがあると思います」
と話すのは、企業の物流やコストに関するコンサルタントの専門家、未来調達研究所の坂口孝則さん。
「これまでも卓上にタブレットを置いて、そこからオーダーする方法はありました。この方法も今後も残っていくと思います。でも、店側からするとQRオーダーにしたほうが初期コストと、機材の使用料などのランニングコストを圧倒的に減らせるというメリットがあります。
初期費用として10万円以下で済むものもありますし、月額使用料が1万円以下のものも。タブレット方式には盗難という問題もありますし、2年間くらいで機材の入れ替えをする必要が生じます」(坂口さん、以下同)
また、客側のメリットについて、坂口さんはこう続ける。
「自分の好きなタイミングでオーダーできますし、いちいち店員さんに声をかけることを面倒に思っていた人にとってはラクでしょうね。
店の混み具合を見て“忙しそうだから声をかけづらいな”なんて考えてしまう状況でも、QRオーダーなら気兼ねなく注文できます」
コロナ禍で従業員を減らさざるをえなかった外食産業だが、人の動きが戻ってきたからと簡単に人を雇えない、そんな人材不足の現状もこのシステムの導入を後押ししている、と坂口さん。しかし店側にも導入したことで見えてきた問題点があるようだ。
「飲食チェーン社長のインタビュー記事で読んだのですが、客単価が低下する可能性が高くなるというんです。要は、グラスのお酒が空になったときに“もう一杯いかがですか?”と、客に対してすすめられなくなり、利益率の高いドリンクの売り上げが減ったと。
なのでその社長は《これからはタブレットやQRという遠隔に頼らずに、積極的に店員が声がけをしていかないとダメ》と話しています。
実際、このチェーン店では『QRオーダーシステム』を導入してから、かなり客単価が下がったそうです」
効率化とおもてなしを天秤にかけて
その分、人件費が下がっているのであれば問題ないように思えるのだが……、
「私自身の経験でもあるのですが、学生時代に居酒屋でアルバイトしていたとき、店長から“声がけして何杯か多く注文してもらえば、君のバイト代が払える”なんて言われたことがありました。
また、客と話すことによって、再び来店してもらえて、いわゆる常連をつくることもできました。それだけ声がけは、人件費以上の利益をあげることができる大切なものなんです」
タブレットやQRオーダーを活用すれば、店員ひとりが受け持つ客数を増やすことは可能だ。しかし、きめ細かいサービスといったことになると話は変わってくる。
「70代の私の父親は、ひとりでふらっと入った店で店員とコミュニケーションが取れないことが寂しいと話していました。店員にオーダーする機会がないと、料理に合うオススメのお酒がわからないと。
店全体のオススメ料理などはQRオーダーにより表示されるメニューでわかるのですが、食事に合う飲み物の情報が欲しいのに、それがわからない。これからシニア大国になっていく日本において、人とのコミュニケーションを取れる場所がひとつでもなくなるのは、客側にとってデメリットといえるかもしれません」
また、冒頭の女性は“心配になったこと”としてこんな問題点をあげた。
「私はスマホだから、店員さんにやり方を聞いて、なんとか注文できました。ただ、一緒に入った友人はまだガラケーを使っているんですよ。
もし彼女がひとりでお店に入っていたら、今までと同じように店員さんを呼んで注文しなくてはいけないんですよね。そのときに、店員さんから面倒がられるのではないかと思ってしまいます」
最強のインフラ使用で進化する注文方法
こういった声について、都内で居酒屋を営む男性は、
「うちは20人入ればいっぱいの店ですが、QRオーダーを導入してから、フロアスタッフを3人から2人に減らしても回していけるようになりました。
バイトを雇おうにも簡単には来てくれない今、本当に助かっています。でも、スマホを持たないガラケーのお客さまだと、以前と同じようにオーダーを紙に書いて、お会計の際に計算することが必要になります。
困るのは、レジ打ちの研修を受けていないスタッフもいるので、紙で精算するお客さまを会計時にお待たせしてしまうケースが出ることです」
売り上げ計算をするときも、アナログとデジタルの伝票が混在すると、管理しづらくなることも。結局は人員が必要になる場面も出てくるのだ。
また、地下の店舗で店側のWi―Fiにつながないと通信障害が起こる、スマホのバッテリーがギリギリで余計なことにスマホを使いたくない、などといった根本的な問題も─。ただ、このQRオーダーも始まったばかりの“黎明期”。利用客側も慣れてくれば、少しずつ問題は解決していくのでは、と坂口さん。
「ガラケー利用者がこれから増えることはないと思いますし、逆にスマホ利用者が減少することはまずないでしょう。いろいろな人が言っているように、iPhoneやAndroidが今や最強のインフラになっています。それを使って効率化を図ることは当然なこと。現在の技術が天井ではなく、これからも進化していくでしょう。
小売店の在庫管理などでは、ワンオペで店を回すため、どこの棚の商品が欠品しているということを知らせるシステムも開発されています。このような技術も、オーダーシステムの中で進化していくのでは」
少し先の話かもしれないけれど、と坂口さんは最後にこんな“未来予想図”を話してくれた。
「画像を解析して指示を出せるような、AIカメラが登場すれば、客のグラスが空いているのをカメラで確認して“おかわりはいかがですか”“オススメはこちらになります”など、客のオーダーした傾向から、料理や飲み物をすすめてくる──。そんなシステムが導入される未来が来るかもしれませんね」
ひと昔前なら夢物語のような話。しかし、現実には大手ファミリーレストランなどでは、配膳ロボットが各テーブルに料理などを運んでおり、人間がやっていた仕事を、かなりの部分で担うようになってもいる。
コスト的には削減となり、企業からすればいいことずくめなのかもしれない。だが、人と人とのコミュニケーションから生まれる“おもてなし”の気持ちは、どんな形に変わっていくのだろうか──。
取材・文/蒔田 稔
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【出演】
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