世紀末に『A・RA・SHI』でCDデビューした嵐。長い下積み期間を経て、2020年末の解散まで国民的アイドルとして愛された(写真:「Johnny's net」より)

2022年も早いもので間もなく終わりを迎える。年末のテレビ番組では、NHK紅白歌合戦ほか歌の特番ラッシュが続く。今年流行した曲、長く愛され続ける名曲、「懐かしい!」と妙なアドレナリンが出るようなスマッシュヒットを聴き比べることができる、最高の「歌の祭りどき」だ。

先月11月16日には、紅白歌合戦の出場歌手が発表されたが、ジャニーズ勢は6組と、同番組における存在感は大きい。そこに賛否両論はあれど、昭和・平成・令和とコンスタントにヒットを飛ばし続けている「ジャニーズソング」は、まさに時代の映し鏡だ。当時の世相や流行を色濃く反映した名曲は、聴くだけでタイムトリップ可能。年末の歌番組に備え、ピックアップしていこう。

(以下、文中敬称略)

“パステルカラー”の恋愛賛歌『花とみつばち』

1964年、男性アイドルグループ「ジャニーズ」(事務所名と同名、あおい輝彦が在籍)の『若い涙』から始まったジャニーズソングの歴史。1968年デビューの「フォーリーブス」に続き、1970年代、現在のジャニーズの特徴をビビッドにしたのが「郷ひろみ」だ。

そのか細くキュートなルックスと高い声は世の中をどよめかせた。特に『花とみつばち』(1974年)は、今聴いてもマカロン100個レベルのスイートさ! 恋の舞い上がり感が、彼の中性的な個性により天井知らずに体感できる名曲である。

この少し気恥ずかしいほどに甘くやさしい世界観は、ジャニーズソングの王道に。1980年代には『ハッとして! GOOD』などで「田原俊彦」がその旗を受け継ぎ、その後「少年隊」が『君だけに』で愛のスケールを宇宙レベルまで広げて包み込んでくれた。 

平成では、2018年に「King & Prince」が『シンデレラガール』で、令和では2021年に「なにわ男子」が『初心LOVE』で乙女たちの恋心を鷲掴みにしている。

なにわ男子はユニセックスな雰囲気に令和を感じるが、King & Princeの『シンデレラガール』は当時の流行とはまったく関係なく「不変の王子像」をいきなり提示されたイメージ。最初こそ「キング? プリンス? シンデレラ??」と戸惑ったが、キラキラに抗えない自分がいた。そして王道の素晴らしさと、それを見せつけてくる彼らの輝きに感動したものである。両者とも今年の紅白歌合戦に出場。楽しみだ。

王道の王子路線に対し、昭和の価値観をギンギラギンに感じるのが「近藤真彦」の楽曲だ。特に『ギンギラギンにさりげなく』は名曲。「ギラギラ」でも「キラキラ」でもなく「ギンギラギン」。作詞は伊達歩(作家・伊集院静のペンネーム)で、「覚めた仕草熱く見ろ」「笑い」「革ジャンバンダナ」「ギンギラギンさりげなく」といった言葉の対比により、裏腹な少年心が伝わってくる。

この曲の他にも、「一番」「ケジメ」など、彼の歌世界は白か黒か、テッペンかどん底かの二極化だ。バイクで走り出したり、バカヤローと叫んだり、漂うのはひたすら「男の美学」と呼ばれがちなもの。恋愛の関係性も「君と僕」ではなく「俺とお前」。現代ではなかなか見られなくなった“オレオレヤンチャ思考”は、改めて聴くと新鮮だ。

平成のジャニーズソングで、この「ギンギラギン」に通ずる、いきり立つ若さを感じるのが、「ギリギリでいつも生きていたいから」と歌う「KAT-TUN」のデビュー曲『Real Face』(2006年)。作詞はスガシカオ。

2021年の紅白歌合戦から、3人の『Real Face』を聞く機会が増えたが、若かりしヒリヒリ感とは違う、鍛錬された鋼のような趣きがある。令和もなかなか“ギリギリな時代”。この曲みたいにジャックナイフのような作品がまた生まれるかもしれない。ギンギラギン、ギリギリの次は何が来るだろうか。

『スシ食いねぇ!』という音楽実験

1982年にデビューした「シブがき隊」も、昭和のアイドルソングの革命児。「ゾッコン」(『Zokkon命』)、「ベッピン」(『Hey! Bep-pin』)、「アッパレ」(『アッパレ! フジヤマ』)など、ディスコグラフィはアイドルらしからぬ死語やダジャレのオンパレードである。まさに“和の言葉遊び”の洪水!

「花の82年組」と呼ばれたアイドル全盛期、なによりユニークさが重要視された時代ならではの“遊び”感。森雪之丞や三浦徳子などの言葉の匠たちが、思いきり楽しんだ作詞を実験している、“神々の遊び”を聴いているようで、最高に心浮き立つ。

この言葉遊びと和の世界観を進化させ、彼らは1986年に『スシ食いねぇ!』という未知のジャンルに到達する。アイドルが日本の食文化に特化して歌うという突飛な挑戦は、世間の度肝を抜いた。そして見事に歌謡史に爪痕を残している。今でも寿司売り場などで大人気だ。

彼らが成功させたこの“和の祭り路線”は、以降、ジャニーズソングの柱の一つになった。1990年には「忍者」が、美空ひばりの名曲とアクロバットを融合した『お祭り忍者』で斬新なパフォーマンスを魅せてくれた。2004年には「関ジャニ∞」が浪速という地域色を入れ込んだ『浪花いろは節』を発表。現在も、関西ジャニーズ勢が“祭り路線”を継承し、元気に日本を盛り上げてくれている。

アイドルという概念そのものを変えたのが、「少年隊」の1985年のデビュー曲『仮面舞踏会』だ。この衝撃は、歌謡史に残る“事件”と言っていいだろう。“歌”というよりは、まさに少年隊の3人が開く、数分間の“”。歌はうまいし、ダンスはハイレベル。バク転をクルクルとやってのけ、ジャニーズ=ハイスペック集団と世間に印象づけた。

当時の歌謡界は、おニャン子クラブ全盛期だった。人気歌番組「ザ・ベストテン」で『仮面舞踏会』は、新田恵利の『冬のオペラグラス』と1位を競い合っている週もある。“素人っぽさ”を前面に出した企画重視のおニャン子と、超絶テクニックの少年隊。アイドルの新たな形の両極端が楽しめた時代だった。

40年先を見通した『硝子の少年』の持続可能性

バブル真っ只中の1987年、ローラースケートで時代を駆け回ったのが「光GENJI」。彼らの輝きは、まさにその時代を具現化したような、期間限定の“爆発”だった。1970年代のピンク・レディーに通ずる、歌謡界の一瞬の閃光――。

壊れそうなものばかり集めてしまうよ」と歌った、CHAGE and ASKAの飛鳥涼が作詞作曲した『ガラスの十代』、ネバーランドを思わせる『パラダイス銀河』は、タイムマシン的に過去に引き戻される。ローラースケートを見ると自動的に「ようこそ〜ここへ〜」と口ずさんでしまう人も多かろう。

同じく、「少年=ガラス(硝子)」と歌ったのが、1997年の「KinKi Kids」のデビュー曲『硝子の少年』である。発売当時は「アイドルのデビュー曲にしてはちょっと古くさくない!?」と衝撃だった。デビュー25周年を迎えた今年、改めて聴いてみた。

すると、年齢を重ねた今こそ、この曲が沁みることに驚いている。“若い頃のキラメキ”という期間限定のものを、人生を進むごとにジワジワ味わえるという不思議な体験。山下達郎が「2人が40歳になっても歌っていける曲」としてつくったというが、まさにそれが現実となったわけである。

少し変わった形でジャニーズソング史に爪痕を残したのが、2005年、ドラマ「野ブタ。をプロデュース」の主題歌として大ヒットした「修二と彰」(亀梨和也山下智久)の『青春アミーゴ』である。これまでのジャニーズソングにはなかった、香ばしいほどの“友情フレイバー”を実現。

年齢層の高い男性にもしっかりと届いたようで、当時、「地元じゃ負け知らず」というフレーズを嬉しそうに肩を組み、カラオケで歌っている中年男性たちをよく見かけたものである。昭和のマッチの一匹狼路線とは違う、アウトロー感。歌っているのは当時20歳前後だった亀梨山下だが、「オヤジたちのためのジャニーズソング第1位」と言っても過言ではないだろう。

大ヒットのみならず、社会に大きな影響を与えたのが2003年の「SMAP」による『世界に一つだけの花』(2002年リリースのアルバムにも収録)。

作詞・作曲は槇原敬之で、「天上天下唯我独尊」を分かりやすく書いた、という。宇宙で私という存在は一つだけ。だから比べなくていい、誰もが尊いひとり。これを「No.1にならなくてもいい」「特別なOnly one」と表現した歌詞は、昭和から続いてきた競争社会から「個性重視」の時代へと後押しした。

「オンリーワン」は流行語大賞にもノミネート。新時代の価値観を表すキーワードとして一般認知されるようになった。

平成後期、SMAPに続き高く支持されたのが「」の楽曲だ。1999年のデビュー曲『A・RA・SHI』には「悲惨な時代って言っちゃってる」という歌詞がある。まさに混沌と暗い事件が続いた世紀末、新たな時代の“”を巻き起こすよう託された彼ら。

その後、時間をかけて奇をてらわず、美しいユニゾンで小さな子どもからシニアまで広く愛された。平成から令和になる2019年、「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で奉祝曲として『Ray of Water』を歌ったのは、なんとも感慨深い。

嵐と同じく、日本が疲弊していた時代、自分たちのグループ名をタイトルにしたシングルでデビューしたのが「Sexy Zone」。東日本大震災から8カ月後の2011年、『Sexy Zone』でデビューし、今年11年目にして初のドームコンサートを叶えた。時間をかけ、個性を磨いて人気を高めるというプロセスも似ている。この2グループのあり方は、「グループで若き輝きを超えていく」という、新たな花の咲き方を示してくれる

「Snow Man」の『D.D.』は令和の『仮面舞踏会』

下積みが長いグループが花を咲かせているのも、令和の特徴。結成からなんと11年かけてデビューを果たした「Snow Man」のデビュー曲『D.D.』は、これまでの努力と技術を爆発させるような歌とダンス、そしてアクロバットに“新時代”を予感させた。少年隊の『仮面舞踏会』を初めて観たときに通ずる興奮。まさに昭和と令和の舞踏会! 

新しさの中に不思議な懐かしさも感じたのが、今年世界デビューを果たした「Travis Japan」だ。特に、アメリカのリアリティ番組「アメリカズ・ゴット・タレント シーズン17」でパフォーマンスした『夢のHollywood』。簡単にネットで世界と通じることができる時代だが、夢を叶えるのに情熱と努力は最強、というのは昔から変わらない――。そうガツンと見せつけられた気がした。

そして最後にもう1曲、「男闘呼組」の『TIME ZONE』。1988年にデビューし、現在は事実上解散状態で、事務所もバラバラになっていた4人が復活を遂げたのは、控えめに言っても奇跡だ。29年という長い歳月を経て響かせたサウンドは最高にエモーショナル。彼らの姿から「もう二度と戻らない」と思っていることがひっくり返る希望、そしてリ・スタートの勇気をもらえる。人生何が起こるかわからない。彼らの再結成は、人生100年時代の理想でもある。

埋まる記憶を思い出させてくれる、キラキラの付箋のようなジャニーズソング。王道を進むもの、新たな活路を見い出すもの、一瞬の強い光を放ったもの。彼らの輝きと時代の動きを折り込んだ楽曲たちは、いつでも「思い出したいあの頃」に戻してくれる。希望をつくる“夢の職人”の如く、新たな時代の喜びをビビッドに提供してくれるのである。

(田中 稲 : ライター)