スマホは子どもたちにどんな影響を与えているのか。東北大学の川島隆太教授は「5〜18歳の児童・生徒224人を対象に3年間、脳の発達をMRIで調べた。その結果、毎日スマホを使う子は脳の発達が止まっていることがわかった」という。川島さんの著書『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)からお届けする――。(第2回)
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■使うアプリの数が多い子どもほど、学力が低い

私たちはアプリ(アプリケーション・ソフトウェア)を使う状況と学力の関係についても調査・分析を進めました。

それによって、特定のアプリが成績に著しい悪影響を与えている、使うアプリの数が多いほど子どもたちは学習に集中できなくなる、といったことも判明しました。

子どもたちに、「自宅で勉強中にスマホを使っているかどうか」とアンケート調査をすると、スマホを持っている子の8割近くが勉強中にスマホを使っていることがわかります。

そのときどんなアプリを使うかたずねると、1つのアプリしか使わない子は2割くらい。半数近い子どもたちは、複数のアプリを切り替えて使っていることもわかりました。

一方で、子どもの学力に関する定量データを私たちは持っています。これとアプリの使い方のデータを突き合わせると、「勉強中に使うアプリの数が多ければ多い子どもほど、学力が低い」という非常にきれいな相関が見られました。

これは、アメリカの大学生たちがパソコンで宿題やレポートを書くメイン作業に、SNSが割り込んでくることが問題視されたのと、とても似た話です。

■SNSの「スイッチング」で注意力は散漫になる

心理学の世界には、「スイッチング」という言葉があります。これは、パソコン作業とSNSの並行利用が与える悪影響の研究から生まれた概念です。

「何かに集中しているとき妨害が入り、別のことをやり始めること」が何度も繰り返されて、1つのことに集中する時間が極端に短くなる現象(状態)をいいます。

スイッチがあっちに入ったり、こっちに入ったりすれば、いいことはなさそうだ、と誰でも思うでしょう。実際、スイッチングが多くなれば多くなるほど注意力が散漫になっていくことが、データとして示されています。

逆に、パソコンでレポートを書くことだけ、あるいは1つのSNSだけをずっと続けているぶんには、あまり大きな問題は起こりません。これはスイッチングがないからです。

スマホやタブレットが普及し、スイッチングは時と場所を選ばず、ますます起こりやすい状態になってきました。スマホの長時間使用による学力低下の大きな原因の1つは、スイッチングだ、と私は考えています。

■スマホ学習をするなら、何もしないほうがまし

スマホを使う子どもたちを見ていると、ゲームをしていると思えばユーチューブ(YouTube)に目を凝らし、かと思えばウェブサイトをハシゴして気になる話題をチェックし、そんな合間にLINEを使うというように、アプリを次々と切り替えることが当たり前になっています。

写真=iStock.com/FG Trade
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FG Trade

そもそもスマホは、非常にスイッチングしやすく作られていますから、こんな使い方が加速する一方です。こういう使い方をしている間は、注意力が散漫になって、「脳が何にも集中できない状態」が続いてしまいます。

スマホを「勉強そのもの」に使う──宿題をするときや作文を書くとき、資料を漁ったり難しい言葉を調べたり、地図で場所を確認したりするなら、問題はないだろう、と思う人がいるかもしれません。これは大きな間違いです。

スマホを使ってネットにアクセスする学習で大きな問題になるのが、「スイッチングの起こりやすさ」です。学習アプリを使っている最中にLINEメッセージが届けば、かなり強い意思を持つ子どもでないかぎり、LINEを開いてメッセージをやりとりするでしょう。

ユーチューブ映像のオンライン授業を受けていて、わからないところをウィキペディア(Wikipedia)で調べ、知らない地名が出てきたら地図を開いて確認するという勉強は、次から次へとスイッチングを繰り返しています。

こういう学習は効果が薄いだけでなく、脳に損傷を与えてしまう恐れすらあります。スマホを使って学習するくらいなら何もしないほうがましだ、と言いたいほどです。

スマホやタブレットなどを活用する学習方法を導入するならば、端末を学習専用として、SNSなどのアプリを入れないといった工夫が絶対に必要でしょう。

作業している人の後ろでLINE通知音を鳴らすとどうなるか、という心理実験で確かめましたが、音が鳴ったとたん注意力が低下し、作業効率も落ちてしまうのです。ところが、同じ音でもタイマー音を鳴らすと、そうはなりません。

ただ音が鳴ってうるさいことが問題なのではなく、「SNSなどでメッセージを受け取った」と知らせる情報が、集中力を著しく低下させてしまうのです。

学習で何らかの知識やスキルを身につけたいなら、勉強中にスマホの通知音とバイブレーションをオフにしたり、電源を切ったりすることは「基本中の基本」なのです。

■メッセージアプリは学力の押し下げ効果が大きい

LINEは一時、いじめの要因の1つになっていると報じられたことがありました。LINE登録者から、たとえば5人をピックアップしてグループをつくると、5人のうち1人に当てたメッセージは同時に自分以外の残り4人に届く。このグループ機能は、じつは仲間はずれ機能の裏腹だ、というのです。

LINEに代表される「インスタント・メッセンジャー」は、学力の押し下げ効果が大きいとわかっています。私たちがその悪影響を説明するときに使ったのが、先ほどからお話ししている「スイッチング」です。

LINEだけを30分、1時間とやっている人がいないとはいいませんが、どちらかといえば、勉強したり食事したりテレビを見たり家族と話したりする生活のなかで、インスタント・メッセンジャーが飛び込んできて、それに気を取られてしまう。急いで返信しなきゃと慌ててしまう。こういうことが問題だろう、と私たちも思っていました。

ただし、最近の若い人はLINEを使わなくなってきているようです。LINEユーザーは中高年が中心です。若い人はインスタグラム(Instagram)などの情報発信がメインで、LINEをうっとうしいものと思いはじめているようです。

最近、いじめに使われているのでは、と問題視されているのは、政府が「GIGAスクール構想」(学校現場での1人1台端末と高速通信環境の整備を推進)で小中学生に配ったデジタル端末です。勉強にしか使ってはいけないことになっていますが、これを陰で使ったメッセージのやりとりでしょう。

写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■モニタを長時間見つめ続けると、脳はダメージを受ける

スマホが有害な理由として、スイッチング以外に、「スクリーン・タイム」そのものが問題なのだ、とする主張もあります。

これは、スマホでSNS、ユーチューブ視聴、ウェブページ閲覧、ゲームなど何をするかは問わず、デジタル・スクリーンで作業したり遊んだりする時間が長くなればなるほど悪いことが起こる、という見方です。

本書では、スクリーン(モニタ)がスマホのように小さければ小さいほど、脳は同期しにくくなり、コミュニケーションで共感を得ることも難しくなるだろう、と申し上げましたね。そんな小さな画面を長時間見つめ続けるのは、たしかに問題でしょう。

スマホでは、スイッチングの問題とスクリーン・タイムの問題のどちらもからまって非常に悪い影響をもたらしているのだろう、と私は考えています。

どちらか一方がより悪い、と結論づけることは意味が薄いでしょう。

■デジタル機器が「一方向型」か「双方向型」か

もっとも、スクリーン・タイムという時間の長さの問題以前に、そのスクリーンを「一方向で使う」か、「双方向的に使う」かという問題のほうが大きい、と私たちは考えています。

「一方向型」は、ただたんにスクリーンでテレビやビデオ(DVDやブルーレイなど)をのんびり見ているだけのもの。テレビなどのハイビジョンモニタをネットにつなぎ、90分の映画を見るのは一方向型に近いかもしれません。

「双方向型」は、「見ている側の作業」が必要なもので、ネットにアクセスするものはだいたいこちらです。スマホやタブレットでユーチューブ映像を見るのも双方向型です。

たとえば、スマホやパソコンを使ってウィキペディアで調べ物をするのも双方向型です。スクリーンをただ見ているだけでなく、調べてそのページにたどりつき、画面をスクロールしたり、詳しい説明したり、引用元ページにジャンプしたりという作業をともないますから。

■脳の発達が明らかに遅れる衝撃のデータ

私たちは、健康に問題なくふつうに成長している子どもたちを対象に、脳の発達の様子を3年間、MRI装置を使って観察する研究を続けてきました。この研究から、一方向型よりも双方向型のほうが、子どもたちに深刻な症状が出ることがわかってきました。

写真=iStock.com/haydenbird
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/haydenbird

一方向型に何の問題もないのではありません。一方向型でスクリーン・タイムが長くなる──たとえばテレビを長時間視聴する習慣が長く続くと、脳に発達の遅れが生じます。ただし、遅れが出る領域は、大脳皮質の一部に限られます。

ところが、スマホの長時間使用など、双方向性でスクリーン・タイムが長くなると、「大灰白質」(大脳皮質も同じ。大脳半球の表面を占める薄い層で神経細胞が並ぶ)と「大脳白質」(皮質の内側に白く見える部分で神経線維の層)の両方が、かなり広範にわたって発達に遅れが生じているという、衝撃的な事実が明らかになったのです。

一方向型のテレビを見ながら、スマホを操作してユーチューブを見る、ネットで調べるなどすると、一気に双方向型になってしまいます。

仲のよい友だち同士、たとえば日本がワールドカップ出場を決めるサッカー試合のテレビ中継をそれぞれの自宅で見ながら、「いまのプレー最高」「オフサイドだろ」「○○選手そろそろ替えどきじゃね?」などとスマホでやりとりする。

あるいは、同じテレビドラマを見ながら、「犯人はこいつ。なぜならば……」とSNSに書き込んで当てっこをする。和気あいあい盛り上がる結構な話に思えますが、そこには脳の発達度合いを左右しかねない大きなリスクがあることを、忘れるべきではないでしょう。

■毎日インターネットを使う子の大脳灰白質の体積は増えない

きわめて重要な問題ですから、やや詳しくお話しします。私たちは、仙台市の5〜18歳の児童生徒224名を対象に3年間、脳の発達の様子をMRIで観察しました。

最初のMRI検査のとき、その時点のインターネット習慣をアンケート調査しました。「親が使わせない」「まったくしない」「ごくたまに」「週に1日」「週に2〜3日」「週に4〜5日」「ほとんど毎日」という7つのグループのどれに入るかを調べました。このとき、大脳灰白質の体積はグループ間で差がありませんでした。

ところが、3年後のMRI検査では、インターネット習慣に応じて大脳灰白質の体積の増え方が異なり、発達の差がはっきりと認められたのです。

インターネット習慣がない、または少ない子どもたちは、3年間で大脳灰白質の体積が増加していました。ほぼ毎日インターネットを使う子どもたちは、増加の平均値がゼロに近く、恐ろしいことに、ほとんど発達が止まっていたのです。

■スマホを使いすぎる子は、3年で大脳全体の発達が止まった

これは、インターネット習慣と脳発達の関係を調べたので、スマホ習慣と脳発達の関係を調べたわけではありません。ただし、中学生の65%以上、小学生の40%以上がスマホでネットを利用しているという内閣府のデータなどがあります。

スマホと脳の発達も同じような関係があるだろう、と推測できます。

そして、大脳白質でも3年間、ところどころでその密度が増えておらず、毎日インターネットを使う子どもたちでは、発達がほとんど止まっていました。

結論はこうです。おそらくはスマホを使ってインターネットを使いすぎたことによって、脳の発達そのものに障害が出た、と思われます。

川島隆太『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)

スマホを高頻度で使えば、3年間で大脳全体の発達がほぼ止まってしまう。ならば、勉強しようがしまいが、また睡眠を充分とろうがとるまいが、学力が上がらなかったのは当然、というわけです。

極論すれば、3年間スマホをまったく使わなかったか、または使っても1日1時間未満の使用にとどめた中学3年生は、脳が小学6年生から順調に発達したので、中学3年生相当の脳を持っています。

ところが、3年間スマホを毎日頻繁に使っていた中学生は、脳が小学6年生から発達しなかったので、小学6年生相当の脳を持っています。この二人が同じテストを受ければ、脳の発達が3年分も違うのだから、結果が大きく違わないほうがおかしいのです。

この恐ろしい事実のことを、くれぐれも真剣に考える必要があります。

----------
川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所 所長/脳科学者
1959年生まれ。千葉県千葉市出身。東北大学加齢医学研究所所長。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。1985年東北大学医学部卒業、1989年東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師、東北大学未来科学技術共同研究センター教授を経て2006年より東北大学加齢医学研究所教授。2014年より東北大学加齢医学研究所所長。2017年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長兼務。著書は『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)『さらば脳ブーム』(新潮新書)『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)など、300冊以上。
----------

(東北大学加齢医学研究所 所長/脳科学者 川島 隆太)