ネット関連の出来事に絞っても、ここ数年は本当にいろんなことがあった(写真:yu_photo/PIXTA)

このところ、ネット上で「ジャニーズ」の文字を目にする機会が増えた。人気アイドルグループ「King & Prince(キング・アンド・プリンス、通称キンプリ)」の複数メンバー脱退や、滝沢秀明さんらしきツイッターアカウントの開設など、SNS上では絶えずジャニーズの話題が広がっている。

なぜ、ここまで話題になるのか。筆者はネットニュース編集者として約10年にわたり、ネット空間におけるタレントとファンの関係性を見てきたが、ことジャニーズについては「情報の渇望感」が強い印象を受ける。

長年、インターネットでの情報発信に消極的だったジャニーズ事務所が、どのように変化してきたのか。この記事では、いろんなことがあった、ここ約5年間の出来事や事件を振り返りつつ、ジャニーズとネットの関係性を紐解いていきたい。

キンプリ脱退とリーク潰し

週の締めくくりとなる金曜深夜、ジャニーズ事務所からの発表に、SNSは嘆きや怒号、悲しみ、あらゆる感情で満ちた。キンプリメンバーのうち、過半数が脱退すると発表されたのだ。

メンバーの岸優太さん、平野紫耀(しょう)さん、神宮寺勇太さんは、来年5月にキンプリを脱退。平野さんと神宮寺さんはそのタイミングで、岸さんは来秋に、ジャニーズ事務所を退所する。

グループそのものは存続し、脱退後も永瀬廉さんと高橋海人(高の漢字は「はしごだか」)さんは、引き続きキンプリとして活動するという。

キンプリは2015年結成、2018年に「シンデレラガール」でCDデビュー。当初は6人組だったが、岩橋玄樹さんがパニック障害で休養(のちに脱退・退所)してからは5人で活動している。NHK紅白歌合戦には、デビューした2018年から4年連続出場し、今年も登場が期待されている。

近ごろはメンバーそれぞれのソロ活動も目立つ。幅広い世代が知っていそうな例をあげると、岸さんは「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ系)で、先輩のTOKIOとともに汗をかいている。永瀬さんは、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(2021年前期)で、主人公の友人の船乗り「りょーちん(及川亮)」を演じていた。平野さんは、10月開始のドラマ「クロサギ」(TBS系)で主演しているため、このところ宣伝で見る機会も多いだろう--などと聞くと、グループ名を知らなくても、「ああ、あの人ね!」とピンとくるはずだ。

そんな人気グループでの電撃脱退。発表文によると、本来は翌日に発表予定だったが、「憶測による情報が先行して流れる可能性」があったため、テレビ番組の出演時間も考慮して、深夜23時に設定したという。

いわば「リーク潰し」とも言える先手の行動だが、ここまで詳細な経緯説明が、ジャニーズ事務所の公式サイトで行われるのは、かなり画期的だろう。少なくとも、昔のジャニーズ事務所では考えられなかった対応だ。

雑誌表紙の「シルエット」も今や懐かしい

エンタメ業界では、長年それこそ「キング」の座に就いているジャニーズだが、ことネット戦略に力を入れるようになったのは、ここ5年ほどのこと。それ以前がどうだったのか知るには、検索エンジンで「雑誌 ジャニーズ シルエット」と調べるのがわかりやすい。雑誌の表紙の一部分がグレーで塗りつぶされた、画像が引っかかるはずだ。

墨塗りになった部分には、本来ジャニーズの所属タレントが配されていて、店頭に陳列される表紙にはちゃんと刷られている。おそらく事務所としては、所属タレントのイメージ戦略上、ネットでの露出を制限したかったのだと思われるが、事情を知らない一般ユーザーには、なんのこっちゃだっただろう。

転機となったのは2018年。まずは1月、錦戸亮さん(現在は退所済み)が出演する映画『羊の木』の会見より、ネットニュースでのタレント写真使用が条件付きで解禁となった。

3月には、事務所初のYouTubeチャンネル「ジャニーズJr.チャンネル」がスタート。4月には、先述の「表紙の墨塗り」も撤廃された。これ以前は、ジャニーズ事務所所属のタレントが出演する映画のポスターであっても、ネットに出す際には、劇中の印象的なアイテムに置き換えられるなどの配慮が行われていたのだから、本当に大きな変化であった。

そして、そんな写真解禁の直後に起きたのが、山口達也さんのTOKIO脱退だ。強制わいせつ事件での書類送検が報じられ、残るメンバー4人(当時)が、報道の1週間後に謝罪会見を開いた。筆者がそのとき驚いたのは、会見にネットメディアも参加できることだった。

新聞も雑誌もテレビも同じだが、たとえタレントが登場する新CM発表会を取材しても、本人の写真や映像が使用できなければ、なかなか単体のコンテンツとして成り立たせるのは難しい。それに加えて、ずっと「ネット鎖国」状態にあったため、ジャニーズの会見に同業各社が集う日が来るなんて、夢にも思わなかった。

ある媒体はインスタントカメラ片手に会場へ乗り込み、ある媒体はツイッターに写真つきの「速報」を流した。私の同僚も現場へ赴いたが、自社媒体にジャニーズアイドルの写真が掲載されているのを見て、とても不思議な気分になったのを覚えている。

タッキー副社長就任の前後から、ネット戦略が一気に強化

翌2019年に「タッキー」こと滝沢秀明さんが、ジャニーズ事務所の副社長に就任すると、SNSを軸としてネット展開がさらに加速する。インスタグラムは、2019年5月に山下智久さん(現在は退所済み)が始めたのを皮切りに、2020年5月にスタートした木村拓哉さんのアカウントも好調だ。

2021年4月に開設された、二宮和也さん(嵐)、中丸雄一さん(KAT-TUN)、山田涼介さん(Hey! Say! JUMP)、菊池風磨さん(Sexy Zone)による「ジャにのちゃんねる」は、YouTubeの枠にとどまらず、今年の「24時間テレビ」(日本テレビ系)でメインパーソナリティーに。SNSと並行して、サブスクリプション(定額課金)などの音楽配信サービスでも、徐々に所属アイドルの楽曲が解禁されつつある。

ここまで紹介してきたコンテンツは、どれも成功を収めてきた。しかし、その要因は、うまく時流に乗ったというより、ようやくファンが待ち望んできたものが与えられた、という渇望感にあるのではと思える。

振り返れば、2016年のSMAP解散騒動は、まだ「ネット鎖国」時代だった。スポーツ紙などの報道で知ることが多かったゆえに、生の声(と思われるもの)にリアルタイムで触れられることが求められていたのではないか。

副社長への就任以来、その動向が表にあまり出てこなかった、滝沢さんについてもそうだ。10月いっぱいでジャニーズを離れたと思ったら、11月7日ごろに本人のものとみられるツイッターアカウントが開設。わずか数日で約230万フォロワー(11日昼時点)にまで増えた。

滝沢さんの在任期間である4年弱は、創業者のジャニー喜多川さんが亡くなり、嵐が活動休止し、TOKIOが株式会社となり、V6が解散し……と、ジャニーズにとって激動の時代だった。

その間ずっと裏方に徹してきた滝沢さんの「生の声」に触れたいと思うのは、ファンならずとも理解できる。

そうした渇望感から、またたく間にフォロワーが増加。プロフィール欄がコロコロと更新されているとか、文字を書いた画像を上下反対に投稿したとか、ここ数日のネットニュースはタッキー&ツイッターだらけだ。そして、ファンのみならず、企業ツイッターなども「プロフィール欄いじり」「上下反転画像」に便乗している。

また、アカウントで「いいね」している相手が、山下さん、赤西仁さん、錦戸さん、手越祐也さんと、それぞれ経緯は違えども、すでにジャニーズを退所している面々なところも、フォロワーの想像力をかき立てる要因だ。

世間の渇望感をふくらませるために、わざとタブー視されている話題に触れているのだとしたら、もうアッパレと言うしかない。

ジャニーズ史の中でも、今は大きな変化の最中だ

前述した通り、もともとジャニーズ事務所は長年、インターネットでの情報発信に消極的だった。だが、滝沢さんの副社長就任に前後して変化が生まれ、ファンの渇望感を満たしていった。

しかし、その滝沢さんが退社した。ジャニーズ事務所の歴史を振り返っても、これほどの出来事はなかなかなかったはずだ。さらに状況が大きく変わっていくことが予想されるのは、当然だと言える。

現在は次に何が起こるのか一切予想できない状況だが、ネット戦略などを通じ、ファンの渇望感を満たし続けてきた滝沢さんが、今さら旧態依然とした動きを見せるとは思えない。よりリアルタイムな、生の情報をファンに届けていくのは間違いないだろう。

そしてその結果として、ジャニーズ事務所のネットとの付き合い方もまた、変化していくはずだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)