残暑で疲れたら食べたい「バカみたいな量の野菜」が入ったカレー

写真拡大

発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
今回は、本書で紹介した「料理の原理原則」を使ったレシピをご紹介します。

 血圧230を記録した大不調と多忙からなんとか復帰して参りました、借金玉でございます。今日も今日とて健康にいいごはんを食べて、なんとか生きているところです。さて、そんな事情で今回は「バカみたいな量の野菜が入った」「10分で作れる」夏野菜のカレーです。東京の9月はまだまだ夏、たっぷり野菜を食って残暑を乗り切っていきましょう。

 これ↑が完成品。

 材料はこちら。カレー粉は市販品を使います。「スパイスに自信アリ」ならオリジナルで挑むのも楽しいですが、このカレーに関しては市販のカレー粉から始めてみるのをオススメします。理由は後述。

 まずは野菜をカットしましょう。この料理は野菜の歯ごたえが身上。玉ねぎがシャキっとズッキーニがズキっとナスがほのかにトロっとしてないと話になりません。「どの順番でどう火を入れていくか」をイメージしながら野菜を切りましょう。

 唐辛子とひき肉を炒りつけていきます。前回のカレーはここで「スパイスをテンパリングする」みたいな工程が入りましたが、今回の唐辛子は香ばしさ担当ではないので気にしなくて大丈夫。肉にしっかり青唐辛子の辛味が乗っているとおいしいってだけですね。
大事なコツとしては、挽肉を「触り過ぎない」ことです。メイラード(火を通していくと肉が茶褐色になっていくあれのことです)した肉の香ばしさは触り過ぎると出なくなる。ちょっとだけ腰を据えて、肉に綺麗な焼き色がつくまで待ってからひっくり返していきましょう。

 この料理では肉を「スパイス」として捉えます、焼ける肉の香りが嫌いな人はまずいないでしょう。なので、これくらい香ばしく色づき十分に香りを引き出してから玉ねぎを加えます。
さぁ、ここからはチキンレースの始まりです、魂を加速させましょう。制限時間はこの玉ねぎがシャキっとしているうちです。10分を越えるとアウトかもしれない。そう、このカレーは「10分で作れる」というより、「玉ねぎを入れたら10分がタイムリミット」のカレーなのです。早い、安い、うまい、健康に良い!

 アンチョビを加え、よく溶かしたらナスを入れます。ナスは火入れが足りないと「カショ……」みたいな歯ざわりになるのでこのタイミング。アンチョビは「冷蔵庫に余っていた」くらいの理由で入れているので省略しても構いません。入っていると味に迫力が出ますが、ナシでも十分成り立ちます。

 ここで塩第一弾です。玉ねぎとナスは塩が馴染んでないとおいしくないのでここで最初の味付けをするのがちょっとポイント。

 カレー粉を加えます。今回の主役は野菜とひき肉なので、スパイスは一つの風味が突出するのではなく、主役を引き立ててくれる「バランスがいい」配合で仕上げたい。たくさんのスパイスが溶けあった市販カレー粉のバランスの良さ、こればっかりは自家製ブレンドではそうそう追いつけない。すごいですよね、S&Bのカレー粉って。いつ食べても完璧な「カレー味」なんだから。

 基本のスープ(僕のnoteにレシピがありますが、別に市販品でもOKです。スーパーに行くと鶏白湯とか家系みたいなパウチスープが売っていますし、めんどくさければ顆粒鶏ガラスープに味の素でも構いません)を加え、ズッキーニを加え、トマト缶を入れます。トマト缶は缶の半分までは入れない感じかな。入れ過ぎると「トマト味」になってつまらないので、自信なければちょっとずつ味を見ながら足していきましょう。

 躍動するカレーをお楽しみください。料理しながら写真撮るの本当に大変なんすよ……。

 ン! いい感じだ。ここらでちょいちょい味見してみるといいでしょう。味見ターゲットはナスと玉ねぎです。ナスは味加減を、玉ねぎは残り時間を教えてくれます。
ラストにカツオブシと鶏脂(あれば)を加えます。なければオリーブオイルでもいいと思います。油が表面にあると口当たりが滑らかになっておいしいくらいの意味なので、カロリーを気にする方は無視されてください。

 うん、おいしい。やっぱり市販のブレンドカレー粉ってすごいですよね。しっかり「カレー」の風味なのに、一つ一つのスパイスが突出せず調和していて、野菜とカツオブシの淡い味わいを損ないません。これを自宅でブレンドするのはちょっと骨が折れるんですよね…。こういうところが大手メーカーのすごみです。スパイスは香りの個体差がすごいので、自宅でブレンドすると「いつも安定して同じ味を出す」のは一苦労だったりします。

 仕上がりギリにゴーヤを入れて、塩と胡椒で味を調えてください。「なんか味が足りないな?」と思った場合はとりあえず味の素、それでも足りなければ塩を入れてみるといいでしょう。カレーの「なんか一味足りない」はおおよその場合「うまみ」もしくは「塩」です。その手に持った醤油とかケチャップはゆっくりテーブルに降ろしてください、ダメです。この淡いカレーはその一撃で死んでしまう。

 カツオブシのスモーキーさが焦げたソースのような親しみを生み出し、味をまとめてくれますね。夏の夜の匂いがします。しみじみうまい。原型となった料理には怒られるかもしれませんが、これは間違いなくうまいのでオススメです。これができれば「野菜の火入れ」が習得できる点も重要です。試す価値は間違いなくありますので、是非一度お試しください。

 ここからは料理オタク向けコラムです。この料理は、「スパイスではないものの香りと風味、歯ごたえで食わせるカレー」です。なので、味と風味の主役はスパイスではなく野菜であり、あくまでもカレー粉は引き立て役に過ぎません。なので、食材の「火入れ」が全てを決めます。

 玉ねぎ、茄子、ズッキーニ、ゴーヤ、すべて火入れのジャストは違います。さらに言うと、「挽肉を十分にメイラードさせ、香りを引き出す」も火入れ技術です。なので、カットの時点で野菜を入れる順番にイメージがついていることが大切ですし、これは料理における一つの奥義と言えます。

 この料理の原型となったフランス料理「ラタトゥイユ」は、火入れをトチると食えたものではなくなってしまう料理です(ジャストに仕上げるために鍋ごと氷水で冷やしたりします)。一方、「カレー」なら火入れに失敗しても「それでも結構うまいな」で済みます、なんせカレーなので。

 この料理に成功したら、次は本式のラタトゥイユを作ってみるといいでしょう。イタリアでは「カポナータ」と呼ばれる庶民的な野菜料理ですが、さり気にめちゃくちゃ難しい料理でもあります。

 これから、友人とバーベキューをする機会なんかがある方は「キリっと冷やした上出来のラタトゥイユを持って行く」のがとてもオススメです。みんな肉に飽きた時めちゃめちゃがっついてくれます、野菜っておいしいですからね。

 腹いっぱいうまい野菜を食って、残暑を乗り切りましょう!