Shopifyはさまざまな小売店が手軽にオンラインショップを開設できるプラットフォームで、多様性にあふれたエコシステムを持っていることからAmazonの対抗馬としても期待されています。ところが、そんなShopifyでオンライン書店兼小規模出版社を運営しているMatt Zoller Seitz氏が、「Shopifyの口座が凍結されて大打撃を受けてしまった」という体験談をTwitterのスレッドで報告しています。



Seitz氏はMZS.Pressという小規模なオンライン書店兼出版社を運営しており、Shopifyでオンラインショップを開設していました。MZS.Pressではさまざまな大手出版社の書籍を販売しつつ、クラウドファンディングなどで出資を募った自社出版本の販売も手がけていたとのこと。ところが2022年6月16日、Shopifyの支払いアカウントが凍結されてしまい、売上金が引き出せなくなってしまいました。その間もShopifyのオンラインショップで事前注文を受け付けた分やクラウドファンディングの返礼分の書籍は発送し続ける必要があったため、会社の資金を使い果たしたSeitz氏は個人の生活費にも手を着けるしかなかったと述べています。

どうにか注文を処理し終えたSeitz氏はShopifyのカスタマーサービスに連絡をしましたが、「金融パートナー」によってアカウントが凍結されたものの、具体的にどの金融機関が関与しているのかは明かされなかったとのこと。当初Shopify側は何が問題だったのかを明らかにしませんでしたが、数回のメールのやり取りを経て「スターウォーズ」関連の書籍へのリンクと共に、「商標」または「ブランド」を販売する法的権利を示す再販業者の証明書を提出するよう求めてきたそうです。

しかし、そもそも書籍についてはファーストセール・ドクトリンという法理が適用され、これに基づいて正当な流通に乗った商品は再販・譲渡しても著作権の侵害になりません。Shopify側が「48時間以内に対応しないと管理者アカウントを削除する」と言い出したため、仕方なくSeitz氏はセクション内にあるすべてのタイトルを削除したものの、「ファーストセールドクトリンは、一度購入した著作権で保護された商品を販売・貸与・贈与する権利を保証します」「Shopifyは本を販売するための(存在しない)ライセンスを作成することを望んでいました」「とにかく、Shopifyは法的に間違っていました」と述べています。



また、これ以外にもShopifyは運転免許証の提出を繰り返し求めてきたり、存在しないブランド品の販売を承認する文書の作成を要求したりと、「曲がりくねり、意思をくじくようで、無意味なプロセス」を踏むように求めてきたそうです。しかし、Seitz氏が「どの本がブランドとされているのか、あるいは問題を引き起こしているのか」を伝えるよう求めても、Shopifyは一向に応じなかったとのこと。

6月29日の報告時点で、Shopifyの支払い口座には約7000ドル(約96万円)の売上金が入っていましたが、Seitz氏はこれらの資金を引き出せず苦しい状況に追い込まれ、ローンを組むことになってしまいました。Shopifyに見切りを付けたSeitz氏は別のプラットフォームへの移行を決めたと報告し、「あなたがあらゆる種類の起業家であり、Shopifyの仕様を検討している場合、それはやめましょう」と訴えています。

ShopifyがSeitz氏の口座を凍結した理由については、出版している書籍がドラマの制作秘話やインタビューに基づいたものであるため、何者かが権利侵害を申し立てた可能性もあるそうです。しかし、これらの書籍は批判やジャーナリズム的要素を含んでおり、ドラマの権利を保有するHBOの法務部門からも問題はないとの回答を得ている上に、HBO側もインタビューの手配や資料提供に応じて製作を支援してくれたとSeitz氏は述べています。

1つの仮説として、過去にShopifyはオンラインショップに関して教科書出版社から訴訟を起こされたことがあり、これによりオンライン書店に対して慎重な決定を下しているという説が挙げられています。しかし、ShopifyはSeitz氏本人に対しても明確な回答をしていないため、結局のところ何が問題だったのかはわかりません。



Seitz氏が一連のスレッドを投稿した12時間後、Shopifyは支払い口座の凍結を解除しました。Seitz氏は同様の被害に遭った人々に対して、タグを付けてTwitterで発信することでShopifyの対応を変えさせることが可能かもしれないと呼びかけています。



その後もSeitz氏はShopifyから「4月に行った数十万円の返金を取り消し、書面で証拠を提出しないと管理者アカウントを削除する」といった脅迫じみたメールを送られるなど、非常に不愉快な思いをした様子。「これまでShopifyのカスタマーサポート・法務・会計部門とやり取りしてきましたが、いずれの場合も脅迫と疑わしい主張が行われました(その後すべてShopifyによって撤回されました)。Shopifyは私たちが柔順でないと私たちをシャットダウンすることを明確にしたので、私たちは従いました。この会社は腐っています」と訴えています。



なお、このスレッドはソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題となっており、「同様のことが自分たちにも起こった」という体験談や、決済サービスのStripeやPayPalで同じようなことがあったとのコメントが寄せられています。

The dark side of Shopify | Hacker News

https://news.ycombinator.com/item?id=32034643