地球温暖化の影響で、北極海では海氷が減少しています。海氷面積の減少は生態系の破壊や、さらなる温暖化の加速につながると危険視されていて、また、欧米諸国とロシアの地政学的対立の激化にもつながっているとの見方があります。

しかし一方で、大きなビジネスチャンスでもあるとのことで、複数の北極海海底ケーブル敷設計画があり、音声・データ通信の速度の大幅な改善が期待されます。

A Warming Arctic Emerges as a Route for Subsea Cables - WSJ

https://www.wsj.com/articles/a-warming-arctic-emerges-as-a-route-for-subsea-cables-11655323903

Ciniaとの北極海ケーブル事業構想に関するMoU締結について | アルテリア・ネットワークス株式会社

https://www.arteria-net.com/news/2022/0216-01/

Russia Builds Polar Express Subsea Cable along Arctic Coastline - Submarine Networks

https://www.submarinenetworks.com/en/systems/asia-europe-africa/polar-express/russia-builds-polar-express-subsea-cable-along-arctic-coastline

光ファイバーを束ねた海底ケーブルは、大陸間で行われる音声・データ通信の約95%を担っていて、世界中に400本以上が張り巡らされています。

世界の海底ケーブルの敷設位置が一目でわかる世界地図「Submarine Cable Map」 - GIGAZINE



一般に、通信速度の遅延はケーブルの長さにほぼ比例します。北極側は南極側に比べて大陸間の距離が近く、もし北極海を経由するケーブルを敷設できれば、これまでよりも高速な通信ができるようになると期待されています。分析の一例では、ロンドンと東京の間での通信は、エジプトを横断する既設ルートより30%〜40%高速になる見込みだとのこと。

アラスカ州に本拠を置くFar North Digitalとフィンランドの通信会社・Cinia、そして日本のアルテリア・ネットワークスが取り組んでいるのが、北極海経由でアジアとヨーロッパを結ぶ光ファイバー海底ケーブル敷設プロジェクト(Far North Fiber)です。

プロジェクトの規模は約10億ユーロ(約1300億円)で、ケーブルの総延長は約1万4000km。2023年から船舶を用いた調査を行い、2025年末までにサービス提供開始を予定しています。

一方、これとは別にロシアの政府と国営企業によるプロジェクトとして、モスクワの北2000kmにある北極圏最大の港湾都市ムルマンスクと、日本海に面する極東随一の都市・ウラジオストクを結ぶ北極海経由の海底ケーブル敷設計画「Полярный экспресс(Polar Express)」があります。

Полярный экспресс

https://полярныйэкспресс.рф



ケーブルの総延長は1万2650kmで、コストは約650億ルーブル(計画当時で約1100億円)。ケーブルの運用を担当する国営企業Morsvyazsputnikによると、2021年8月6日にバレンツ海のほとりにあるムルマンスク地方の村・テリベルカで敷設作業がスタート。2024年にシベリアまでの敷設を行い、2026年までの工事完了を目指しているとのことです。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アラスカ沿岸部に1180マイル(約1900km)の海底ケーブルを保有するQuintillionのマット・ピーターソンCTOは「北極海に海底ケーブルを敷設するのは並大抵のことではありません。作業ができるのは氷に閉ざされない夏の間だけで、氷床が移動することでケーブルが切断される恐れもあります」と危険性を指摘しています。

しかし、Quintillionも新たにアジアとヨーロッパを結ぶケーブルの敷設を計画しており、まずアジア〜アラスカ間を3年かけて完成させたのち、カナダ〜ヨーロッパ間に着手する予定だとのこと。

The Global Impact of a Trans-Pacific Fiber Optic Cable Route - Quintillion

https://www.quintillionglobal.com/the-new-information-highway-the-global-impact-of-an-arctic-fiber-optic-cable-route/

「Far North Fiber」プロジェクトに携わるFar North Digitalの共同創業者イーサン・バーコウィッツ氏は、北極海を横断する海底ケーブルは必要不可欠なインフラなので、海氷の減少が問題として取り上げられるようになる以前から考えていたとのこと。バーコウィッツ氏は、「海底ケーブルが切断される問題の多くは、船や、船が下ろしたいかりによって、海底が荒らされることで発生します。氷に覆われる北極海であれば、そのような問題は起きません」と語っています。