【子宮頸がん】今知っておきたい、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診の大切さ
監修医師:
三輪 綾子(THIRD CLINIC GINZA)
子宮頸がんの怖さと現状について
編集部
今回のこの記事をもっとも読んでいただきたいのは、どのような人たちでしょうか?
三輪先生
子宮頸がんのリスクの高い20~40歳の若い女性です。もっとも検診を受けていただきたい20~30代の検診率は22.2%、HPVワクチン接種率は全体で1%未満と低迷しており、他国と比較すると日本は大きく取り残されている状況です。この記事がワクチン接種や子宮頸がん検診に繋がるきっかけとなれば幸いです。
編集部
子宮頸がんの怖さとはどういったものなのでしょうか?
三輪先生
早期の段階では無症状であることです。進行してがんが大きくなると、不正出血や性行為時の出血、お腹や腰の痛みなどの症状が出現することもありますが、症状が出現する頃には既にがんは進行しており、リンパ節に転移している、などという状況のことも少なくありません。日本における罹患者数は1万人/年にのぼり、3000人/年が子宮頸がんで亡くなっています。更に、主要な5大がんの死亡率が低下、または増加傾向が止まってきているのに対し、子宮頸がんの死亡率は年々上昇しているといわれています。
子宮頸がんの予防について
編集部
子宮頸がんを予防する方法はありますか?
三輪先生
子宮頸がんの予防には、1次予防としてのHPVワクチン接種と2次予防としての検診が重要です。
編集部
なぜ日本ではワクチン接種率と検診率が低迷しているのでしょうか?
三輪先生
ワクチン接種においては、2013年のワクチン接種後に広範な疼痛や運動障害などの多様な症状が報告され、積極的な推奨の一時差し控えが発表されたことが要因であると思われます。子宮頸がん検診については、婦人科受診のハードルも相まって検診率低迷の要因になっています。
編集部
ワクチン接種率、検診率の低迷に対する対策は何か行われているのでしょうか?
三輪先生
現在はHPVワクチンの安全性・有効性が認められ、ワクチン接種の積極的推奨が再会されています。接種機会を逃した方に対する救済措置接種(キャッチアップ接種)が、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの期間で再開されていますが、検診については特に対策がなされていないのが現状であり、今後の課題です。
子宮頸がん検診・婦人科受診のハードルについて
編集部
なぜ婦人科の通院率は低いのでしょうか?
三輪先生
婦人科通院率の低迷は、受診にお金と時間がかかるという金銭的・時間的なハードルや、「恥ずかしい」「周りの目が気になる」などの心理的なハードルが障壁となっているようです。
編集部
若い女性の婦人科通院や子宮頸がん検診のハードルを下げる方法は何かあるのでしょうか?
三輪先生
はい。まずは金銭的なハードルについてですが、子宮頸がん検診に対するハードルを下げたいという思いから、当院では一般的に5000円程度かかる子宮頸がん検診を500円で実施する、ワンコイン検診を実施しています。また、心理的なハードルについては、若い女性にむけて子宮頸がん検診の大切さを発信することを目的にSNSの活用も始めています。
編集部
SNSの活用による反響はいかがですか?
三輪先生
はい。SNSをみて実際に受診してくれる方も増えてきています。それ以上に、子宮頸がんの検診をきっかけにそれ以外の体調の不具合やちょっとした不安を相談してもらえる良い機会となり、婦人科受診の心理的なハードルを下げることに繋がると感じています。
子宮頸がんについて、広く周知していく方法について
編集部
子宮頸がんについて、広く周知していく方法は何かあるのでしょうか?
三輪先生
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスは、性交渉により感染します。そのため、男性においてもワクチン接種が重要です。ヒトパピローマウイルスは中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんの原因となり、ワクチン接種でこれらのがんの発症を予防することがわかっています。決して女性だけの問題だけではないということが当たり前に浸透していく必要があります。そういった周囲の理解が、婦人科を受診するという心理的なハードルを下げることにも繋がるはずです。
編集部
子宮頸がんについて広く周知されていくと、日本の未来はどうなっていくのでしょうか?
三輪先生
■ワクチン接種率の向上に伴う検診負担の軽減
現在推奨されている子宮頸がん検診頻度は2年に1回です。しかしHPVワクチンの接種が広まれば、検診頻度を徐々に減らすことが可能です。子宮頸がんの周知やHPVワクチンの実施が、結果として検診などの負担を軽減し、金銭的な負担を下げることに繋がります。
■HPVワクチン接種と検診はセットで考える
子宮頸がんの根本的な原因となるHPV感染をワクチンによってブロックしてがんにならないようにすること(1次予防)と検診によるスクリーニングで高度異形成もしくは前がん病変と早期のがんを発見して治療し、結果的にがんによる死亡を予防すること(2次予防)の併用の重要性が世界的に認識されており、これらはセットで考えていく必要があります。
子宮頸がん検診とワクチンを組み合わせることにより、それぞれの欠点を相互に補填し、検診負担や効果的な子宮頸がんの予防の実現が可能です。HPVワクチン接種率の向上は結果として金銭的な負担を下げることに繋がり、ワクチン接種や検診をきっかけに婦人科を受診していただき、婦人科受診の心理的なハードルを下げることが可能となれば、子宮頸がんに限らず女性のQOLを低下させるような問題の解決にも繋がっていくはずです。
■子宮頸がんを撲滅する:オーストラリアにおける現状と未来
オーストラリアでは2007年から12~13歳の女子にHPVワクチン接種が開始され、2013年からは男女とも定期接種となり、2028年までには子宮頸がんが10万人に4例未満まで減少、さらに2066年までには10万人に1例未満となり、先進国の中でも子宮頸がんを撲滅する最初の国になると予測されています。日本における子宮頸がんの予防は世界的にも遅れをとっているのが現状であり、HPVワクチンのキャッチアップ接種やSNSの活用などによる検診率向上が、日本における子宮頸がんの予防と撲滅のきっかけとなればと強く願います。
編集部まとめ
今回の取材を通して、HPVワクチン接種率と子宮頸がん検診率向上のためには、正しい情報が広く浸透していく必要性を強く感じました。子宮頸がんに限らず、医療における進歩や変化は日々アップデートされていますが、自ら入手しにいかなければ手に入らない情報が多く存在するのも事実です。子宮頸がんについては、HPVワクチンのキャッチアップ接種やSNSの活用など子宮頸がん検診率を向上させる目的で行われる活動を通じ、子宮頸がんに対する正しい情報と理解が広まっていくことを願います。
近くの産婦人科医・婦人科を探す