「ソーシャルメディアが変革する日本政治」～日本政策学校シンポジウムレポート～ - BLOGOS編集部
※この記事は2012年11月05日にBLOGOSで公開されたものです
日本政策学校主催のシンポジウム「政治を可視化・双方化する」の第２弾。公職選挙法により、未だに選挙期間中にネットを使った選挙活動を行うことが禁止されているなど、「政治におけるIT活用」で世界に大きく遅れをとっているとされる日本。では、この現状を招いている要因は一体何なのか？そして、それはどうすれば解決し、ITを活用すると政治はどう変わるのか？アメリカの例などと比較し、政治におけるソーシャルメディアの活用について、元ジャーナリストの上杉隆氏、哲学者の東浩紀氏、民主党参議院議員の鈴木寛氏の３人が、それぞれの考えを話し合った。（取材・撮影：濱田敦子）
金野索一日本政策学校代表理事（以下、金野）：今日は「ソーシャルメディアが変革する日本の政治」がテーマです。まずは、海外の活用と日本の比較から話を進めていきましょう。日本のネットの活用状況について、民主党参議院議員・鈴木寛先生のお考えをお願いいたします。
ネットには政治に無関心だと言われる若者の割合が多い
鈴木寛氏（以下、鈴木）：日本ではネット選挙運動も解禁されていない状況というのは確かなのですが、今日はひとつソーシャルメディアが、既に政策形成に大きな影響を与えた例があるというお話をしたいと思います。
これは、文部科学省の例なのですが、少し前に内閣官房が公開の場で翌年の予算配分を決める『政策コンテスト』を開催したんです。この時、189の予算項目に対してネットを通じて33万通のコメントが集まり、１位から８位までを文科省関連の項目が独占したんですね。その結果どうなったかというと、予算が９％増えた。
例えば、１位を獲得したのは大学の授業料の減免に関する予算でしたが、これについて意見を求めたところ「是非やろう」という賛同の声をたくさんいただきました。面白いのが33万通のうち10万通くらいが政治に無関心だと言われる若者、つまり10～30代からの投稿だということ。ネットの中では若者の占める割合が大きく、選挙権がない10代が、政策形成にコミットできる点も興味深いと思います。
ではなぜ、文科省関連の予算に多くのパブリックコメントを集められたかと言えば、それを後押ししたのがソーシャルメディアなんです。実は文科省ではこのコンテストの半年ほど前から、いろいろな学校と組んで実際に顔を合わせながらの熟議と、ネットによる熟議を行っていたんですね。そういう活動を続け、熟議を重ねたコミュニティが300万ほどに達したころ、タイミング良く政策コンテストが開かれ、コミュニティの10％くらいの人たちが投稿をしてくれた。メディアはこのことをあまり報じていませんが、ソーシャルメディアは、少なくとも「政策は変えることができる」と言える例だと思っています。
金野：ありがとうございました。日本の例が出ましたので、上杉さんには海外の政治におけるソーシャルメディア事情をうかがいたいと思います。
海外の前時代レベルに過ぎない政治のネット事情
上杉隆氏（以下、上杉）：宣伝になりますが、私が代表をつとめる『NO BORDER』のプロジェクトのひとつ 『News Log』 をはじめ、クリエイターのためのソーシャルネットワーク『FREE WORLD』や、広河隆一さんの『DAYS JAPAN』など、日本もメディア自体は進化してきていると思います。しかし、これが政治となるとネット選挙すら解禁していない。
2008年11月の大統領選の時、私はオバマ陣営のSNS活用の巧みさに驚きました。そこで、今年は代表選挙そのものよりも、この4年間でSNSの活用がさらにどのように変化し、使われているかに注目して見ています。
オバマ氏のtwitterで優れているのは、サイトに飛ぶだけでなく寄付ページにも飛び、その場で簡単に寄付が出来るようになっている点です。さらに、政策アーカイブ一覧の他、党大会の最中は、オバマ夫人の演説や、ビル・クリントンの演説にもリンクし、こうしたコンテンツをfacebookやtwitterを含むあらゆるメディアを駆使して徹底的に有効化していました。アメリカは正に大統領選挙によって、政治におけるネットの使い方が進化しているとも言えます。
それと比べると、日本のネットにおける政治の状態は、正直な話、野党ですら海外の前時代的なレベルにしかない。使う政治家の方も、ほとんどの方が世界的な流れについていっていないというのが実感ですね。
僕たちが今必要なのは世の中をうまくまわせるシステム
東浩紀氏（以下、東）： 3.11以降、憲法改正の機運が高まり、自民党の安倍総裁などは憲法改正を次の選挙の焦点にしようとしています。しかし、草案を見ると「今の憲法に愛国のエネルギーを注入しよう」というような、冷戦時代と言うか、昭和時代的なイデオロギーに囚われている。しかし、本来憲法は統治システムの設計図で、それをどう使うかのマニュアルのようなモノでしょう。そう考えると、今僕たちの国に必要なのは、愛国精神がどうとかではなく、上手くまわせるシステムを作ることだと思うんです。
既に熟議だけではもう、政治をうまくまわせなくなっていますよね。さらにはITの進展で新しく出てきた“ビッグデータ”と呼ばれる大量の個人情報を、うまく使えていないという問題も、日本に限らず、21世紀の国家が抱えている１つのジレンマでしょう。
去年出版した『一般意志2.0』に、「そもそも民主主義とは何だったのか」をルソーの時代まで戻りつつ検証して考えた「新しい国家像」について書きました。そこで僕が提示したモデルは、「熟議を集合知で取り巻く」という発想なのですが、今年起こった官邸前デモは、そのモデルに近いと思います。閉鎖的な熟議が行われているその周りに、デモ隊がいるという構造。デモには決定権はありません。決定権をもつのはあくまで国会議員。だけど、国民の意志が形としてはっきり見えてしまうと、選ばれた政党はそれを無視することが難しいんです。
民意を汲み取って毎週のように選挙をしたり、国民の意見を反映していたら、当然運営が不安定になります。だから、ある一定の期間、選挙によって選ばれたエリートが責任をもって国を統治していくというシステムがあるのであって、これはこれからも続くでしょう。でもインターネットがある今は、バーチャルでデモを起こし続けることができます。エリートたちの議論がおかしいと思ったら、ソーシャルメディアを使ってプレッシャーをかけることができる。そういった意味で今、熟議と大衆の民意の新しい関係性が生まれつつあると思います。
いずれにしても、ネット選挙の解禁など、現実的な働きかけも大切です。上杉さんがおっしゃったように、アメリカはもっと先を行っている。さらには、情報技術の発展は、政治が報じられるとかそんなレベルではなく、行政と市民の関係性を変えたり、選挙そのもののシステムを大きく変えるかもしれない可能性を秘めています。そこまで考えて、「情報技術を政治に生かす」という強い意志が、今の政治に必要です。でも、残念ながら、「facebookやtwitterをどう使う？」という理屈に留まっているのが現実ですね。
政治家とは何を託された人なのか？
金野：オバマ氏はネットを中心として、2008年に円換算で700億円ぐらいの献金を集めたと言われています。日本にも楽天の献金サイトで『LOVE JAPAN』ができ、オンラインドネイションができると言う意味では、アメリカと同じインフラが整いましたが『LOVE JAPAN』で集まった金額は実際総額で3800万程度(2012年10月現在)。 インフラがあるのに集まらないというのは、日本にはマーケティングや、負担する有権者の意識の問題があると思います。このあたり鈴木さんのご意見はどうですか？
鈴木：『LOVE JAPAN』は、金額もさることながら寄付した人は極一部の人たちに偏っていて、政治献金を草の根から集めるという目的を考えると、「個人献金ゼロ」とも言える状態です。僕もマーケティング下手ですが、その次元の話ではないと思っていて、東さんの話をもっと深めていく必要があると思います。
ネットは政治に限らず、そのコミュニティの持っている良いところも悪いところも暴くものです。だから、結局日本の政治のガバナンスが変わらない限り、どんなにITが進化してもダメ。例えマーケティングでかわしても、化けの皮が剥がれて政治不信がさらに進むだけです。
一方で、先日ノーベル賞の山中さんが献金を集めたことが話題になったように、日本に寄付文化がないわけではないんですよね。所得税の税額控除ができるようになり、寄付税制も整いました。体制があるのにダメだということは、日本人の政治に対する信頼関係や、コミュニケーションを変えていかないと解決しない深刻な問題なんですよ。「政治家って何する人なの？」という、ここの定義から始めないといけません。個別利益を誘導してくる自民党政治に対してNOを出して政権交代となりましたが、残念ながら今も「政権交代後に政治家が何をするのか」が、シェアされていないというのが現実です。
東さんが言う“集合知”の勢いに押されて「マニフェスト」というものが出てきたんですが、今は既にマニフェストの構造自体が時代遅れになってしまった。と言うのも、政治家は最早「こういう政策がありますが、イエスorノー？」という選択肢を示す人ではないと思うんです。じゃあ何者なのかと言えば、東さんの言葉で言うとアーキテクチャ、僕の言葉で言うと編集長なんですよ。
政治をするのに言論空間を作らなければなりませんが、その言論空間は編集長の方針次第でどうにでもなってしまう。そうなるとイデオロギーや政策の中身よりも、コミュニケーションデザインのほうが重要になるんです。つまり、選挙に選ばれた人は、言論空間のコミュニケーションデザインするイニシアティブを託されている。これ、“託されても舵を取られてしまうことがある”んだけど（笑）、まず握ることを委ねられているのが、まさに選挙で選ばれた政治家だと思うんですね。
ガバナンスはコミュニケーションの編集次第なので、僕は政治家の定義や、役割、政治家と市民がどういう風に一緒に政策を作っていくのか、その役割分担なんかについていつも考えています。こういう議論をした上で、「そのソーシャルコストにこれぐらいかかり、そのパフォーマンスをあげて健全性高めるために投資をしてください」と提示する必要がある。そういう議論のプラットフォームを作らない限り、道具だけが先行しても難しいと思います。
無理なアジェンダ・セッティングがSNSの多様性との衝突を招く
金野：そうした言論空間やプラットフォームをつくるために、ソーシャルメディアをどう活用できるかという部分を聞きたいのですが、上杉さんいかがでしょう？
上杉：アメリカのメディア環境やSNSの何が違うかと言えば、鈴木さんがさきほどおっしゃった言論空間の多様性が圧倒的に違うのだと思います。多様な言論空間を提供すると、SNSだろうがなんだろうが、結局一定の所に落ち着くものなんです。ところが日本の場合は、マスメディア、政治家、官僚機構が、無理にアジェンダ・セッティングをしようとする。そして、そのアジェンダ・セッティングをしようとする驕りが、結果として今のSNSの多様性と衝突して、それがうまい具合に着地できていないのが日本のメディア環境だと思います。
つまり今、言論空間となっているマスメディアや官僚機構が多様性を認めるともっと流れが良くなり、それを言論文化に反映することで、いちいちアジェンダ・セッティングをしなくても、自然に色々なテーマが生まれてくるんじゃないかと。
先ほどのネット選挙解禁の件もそうですが、日本の政治もメディアも「やるかやらないか」の問題を「できる、できない」にすり替えて、目を向けないんですね。そういう意味で、解決へのアプローチは目に見えているわけですから、そろそろ政界もこれをやってもいいんじゃないかと思うわけです。ネット選挙運動解禁法案の件で言えば、確かに鳩山総理が辞めなければ通ったと思うのですが、逆に言うとそこまで行ったものをなぜ、次の菅総理、今の野田総理ができないのかと。やろうと思えばやれるんじゃない？というのが外からの目だと思います。
日本はソーシャルメディアで情報発信できる状態にない
東：僕は問題は、日本人のメンタリティだと思うんです。例えば、僕はふるまいよしこさんという北京在住のジャーナリストをtwitterでフォローしているのですが、彼女は尖閣問題などがあるのに情報発信をしない研究者や学者に対して「少しは情報発信したらどうだ」と怒っているんです。そのことを国費で台湾に留学して中国文学を研究されている方に話してみたら、「それは分かるけど、これから日本で就職先を探すことを考えると怖くてできない」と言うんです。こうなると、もうメディアの問題ではない。
「いくらソーシャルメディアは個人の情報発信だと言っても、自分の将来を考えると、日本はとても自由に発信できる状態じゃない」という現実は、集合知がどんどんデッドストックになっていく大きな要因になると思います。今は新聞やテレビだけが情報発信を担う時代ではありません。本当なら中国に行っている日本人って大量にいると思うので、中国人が何を考えているか、もっと日本に流れてもいいはずなんです。
それと、最近「iPS細胞」の件でしゃしゃり出てきた人の肩書きに騙されたというような騒動がありましたが、あれも民間の人間からすると、「行政や政治家がアプローチしている学者は、本当に優秀なのか？」と首を傾げることがある。この人たちは、どこで知られた人なのか？ または多くの政治家が今も『文芸春秋』を読んでいるけれど、果たして『文芸春秋』は民意なのか？とか。噂では読者の平均年齢が60歳を超えているとも言われていて、そういうメディアが日本を代表する論壇誌だという状況はやはり異常と言わざるをえないと思います。
こうした問題を１つずつ読み解いていくと、やはり技術ではなく、日本人のメンタリティの問題なんじゃないかというところに行き着くんですよ。だから、ネットが政治を変えてくれるんじゃなくて、ネットを使ってどう変えていくか、さらに自分たちの心持ちをどう変えていくかというところにいかないと、これ以上動かない気がしています。
日本のメディアはコマーシャルマスメディア
金野：私は、日本人は政治に関して若干第三者的なところがありましたが、ある意味311以降、電力会社や政府の対応の問題で、主体者というか当事者意識を持たざるをえない状況が生まれたように思います。では、ソーシャルメディアを使ってどう変えていくかについて、鈴木先生からご提案などはありますか？
鈴木：マスメディアと言うと聞こえがいいですが、日本は「コマーシャルマスメディア」ですね。だから、視聴率を取れるものがテーマになり、視聴率が上がるような捉え方をする。そういう意味では、政治もネタにされているに過ぎません。「コマーシャル商業の対象として、ネタとして政治家や政治イシューを扱うことはできているけど、ソーシャルが目的の言論空間がない」。これが、日本のガバナンスとして非常に痛いところだと思います。
Facebookやtwitterなどもありますが、中にはコマーシャルの概念も存在しているので、個々それぞれコマーシャルの動機なのか、ソーシャルの動機なのか見極めることが重要です。
もう１つは政治を霞が関から市民にもっていくなら、官僚とマスメディアが持つ編集権を、市民側が取らないといけない。アメリカの多くのコミュニティは、マジョリティも発言をしていて、建設的な議論が成立している事が多いのに対し、日本はモンスターコミュニティにより議論の分断が起こっていて、マジョリティは常にサイレント。
そういう言論環境の中で頑張ると、真面目で誠実なファシリテーターが息切れをおこしちゃうんですよ。そういう人材がただ疲弊しないように、どう動機を維持し、かき立てて行くのかと言えば、何かインセンティブがなければならない。経済的なインセンティブだとコマーシャルになっちゃうので、ソーシャルなリターンを還元しないといけない。
僕もこれ答えは出ていません。でも、ひとつはコミュニティ・スクールの例がある。子どもが通う学校やスポーツクラブなど、自分がはっきりそのコミュニティの一員であると実感でき、自分が当事者であることがはっきりしている場所において、ソーシャルによってモチベーションアップが起こり、その結果その場が良い場所になったらそれはソーシャルリターンです。例えば「汗をかいてボランティアを行い、いじめが解決した」とか。コミュニティレベルではうまくいっている例があるんです。
ただ僕が悩んでいるのは、これを国家レベルにしたときに、一気に当事者意識の実感が乏しくなってしまうこと。公のためにやって、それがナショナルなソーシャルコミュニケーションで、世の中の改善につながる。このループをどう作っていくかが課題です。
逆に、アメリカはそこをどういうふうに作っているのかを知りたい。ある種フィクションの部分もあるのかも知れませんが、才能や志がある人たちが、なぜ政治というかソーシャルなアクティビティにエネルギーを注いでくれるのか。日本はこの問題を解決しないと、ガバナンスがどうこう以前に、それを培う人材が流出したり、入ってこなくなってしまう。
ソーシャルメディアも今までのやり方も両方活用すればいい
上杉：私は政治が一番変わるきっかけは、やはり総選挙だと思います。そうなると政治家になるための資金集め、つまり献金も大事になる。こういう部分はアメリカは巧みで、オバマ氏の場合、ドネーションのページからたった４回クリックで献金できます。こういう社会的システムを大統領選に限らず、地方自治体でも作っていかないと、というのが１つ。
それと、先ほどオバマ大統領の選挙でのソーシャルメディア活用がすごいという話をしましたが、具体的に話すと各州の動向や地区ごとに、Twitterやfacebookに集まってきた人たちを、さらにまとめるボランティアを集めて、事実上の選挙名簿を作ってしまっていたんですね。私がオバマ大統領をフォローしたのが2008年の８月の末で、そのときのフォロワー数は11万人でしたが、選挙が終わるころには300万人。今は2000万人を超えています。
さらにはそうやってSNSを巧みに使って集めた“選挙に行く人”のところへ、きちんと個別訪問も行っている。よく日本の政治家がインターネットを使おうと言うと、「そんな飛び道具はだめだ。選挙は、胃と足を傷めつけながら歩くものだ」などと言います（笑）。こういうことをしないと選挙で強くなれないと、日本にはそういう美学があり、私も秘書時代によく怒られたものですが、所詮ツールなのですから両方使えばいいんです。
政治家に、ソーシャルメディアを使えばお金が集まりますよ、あるいは選挙名簿が集まりやすいですよ、などと心をくすぐって頭を柔らかくしてあげて、システムを変えていくことから始めるべきだと思います。
金野：ありがとうございました。では、ここからは会場からの質問に答えていただきたいと思います。
情報技術で世の中や社会を変えていくしか私たちに選択肢はない
Q：ソーシャルメディアは人を動かすきっかけになりうると思いますが、そうした発信を選挙に行ってもらうなど実際の行動に結び付けるまでには、まだまだ垣根があると思います。どうすれは、結びつくようになるんでしょうか？
東：長期的な話をすれば、僕はソーシャルメディアがしっかり機能していけば、政治を変えるチカラがあるはずだと信じています。政党を超越するとまではいかないかもしれないけれど、政党という単位自体がすごく弱くなるように思なっていくだろうと。しかしこんなことを言っても夢物語と言われるので、超現実的な話をしますと、まずは小選挙区制を辞めるべき。その上で、「情報技術とか情報通信で社会を変える」と主張する新党が必要です。
僕の年代にテレビや新聞しか見ない人がいる一方で、若い世代にはネットばっかりの人がいる。ネットの人と、テレビを盲信している人とでは、世界観が違います。本当ならその違いを政治が政策に繋げるはずが、できていない。ネットはこれからの世の中を変えていくだろうと思っている人間が、どこに注目すればいいのかよく分からないんですよ。
政権交代前までは、民主党が選択肢のトップの方にいたけれど、いざ与党になってネットが解禁するかと思いきやつまずいてしまった。だからと言って、今は自民党が独走しているわけでもなく、維新の会やみんなの党も違うと。そこに「ITで国の改革をします」という党が現れたら、ソーシャルメディアを使う人からの票が一気に流れると僕は思います。つまり、「２ちゃんねらー」が投票しますね。彼らも有権者なのに、彼らがどういうものに投票するか、政治家たちは全くイメージしていない。どうせ政治のことなど考えていないと思って、選挙運動というと地元で演説となり取り残されていますが、ソーシャル人口はボリュームとして結構いると思います。ただ、今の小選挙区制で勝つためにネットの人間は気にしていられないというのはわかるので、小選挙区制を変えることを提案します。
鈴木：今、東さんは遠い将来といったけど、政策形成過程において、政党はもう気にされなくなってきていますよ。僕も超党派の議員連盟の長を務めることが多くて、むしろ先ほどの「集合知が取り囲む熟議」を上手くデザインできれば、今の状態でも政策は実現できます。僕の意見としては、日本政策学校に調べていただいたIT活用度の格付けの上位者39人…… 中には業者にやってもらっている人もいるので（笑）、そのうち20人くらいは、本人のリテラシーも理解もある政治家ですね。これを「IT党」すると、この20人を核として、それを音頭に市民がソーシャルメディアの活動を広げていく可能性は、現実にありうると思います。
ただ、今は選挙と言うと議員の人たちは、ソーシャルメディアよりテレビのチカラを信じています。つまり、「テレビ党」が多いんですよ。ちょっとでもテレビに映ろうと必死。現に議員の中には事務所やプロダクションと契約をしたりして、テレビ露出を意図的に増やしている人がいる。それと国会にもう１つあるのが、農協の「JA党」。JAってすごいパワーがあって、「TPP反対」という時に、国会議員720人中300人の署名を１日で集めちゃうんです。
「このJA党、テレビ党、IT党の議員たちは、与野党にまたがって存在していて、所属政党は関係ない」というところで、「さて、我がIT党は、どうやってJA党とテレビ党に勝っていく」のか。JAはそれが仕事だし、テレビは持ちつ持たれつの関係で、政治家はネタを振れば露出が増え、テレビ側はそれで視聴率が上がるというコラボレーションの関係。じゃあ、IT党はどうする？というのが、勝負どころだと思います。
金野：では、時間となりましたので、最後に一言ずついただいて終了としたいと思います。
鈴木：僕は皆様と一緒に、半歩前進のアクションを、ソーシャルメディアを使って何かやりたいと思います。政策学校さんはファシリテーターを養成しておられる聞きましたので、その力を結集して、小さくてもいいから、政策を提案し、それに対する賛同者を集め、１つ通してしまうという前例を作りたい。そこから広げていきたいと思います。
上杉：私は「ソーシャルメディアと日本の政治」に関して、将来的には非常に客観的に考えています。日本は技術的には１番進んでいるのに、それを運用する社会体制や既得権益がネットの活用を妨げていますね。でも、アメリカの数年遅れでメディア環境が日本に到来している状況を考えると、４年後ぐらいには状況がガラリと変わっているだろうと。マスメディアにマイクロメディアが対抗するのは難しいという話ですが、アメリカではハフィントン･ポストがピューリッツァ賞を受賞し、事実上の地位を確立し始めている。だから、日本も４年後ぐらいに、マイクロメディアの中から地位を確立するものが１つや２つ出てくるんじゃないかと思うんです。私自身が今いろんな仕掛けを作ってるのは、そういう時が来た時のためです。
『NO BORDER』もそうですが、今年はプレーヤーとしてとにかくメディア環境を混乱させようと、いろいろチャレンジしています。今月は炎上月間としてあえて炎上させていますが（笑）、こういうことで多様性に気づく人が現れ、４年後じゃなくてもう少し時計の針を進めることができたらいいなと思っています。
東：今は政治がそれを拒んでいるとしても、基本的には情報技術で世の中や社会を変えていくことしか、我々には選択肢がないと思うんですね。その進み方は僕の予測よりもかなり遅れているという実感を持っているのですが、それでも、これから５年後、10年後には、政治のカタチも、社会のコミュニケーションのカタチも変わっているだろうと。それより僕の最近の心配は、それまでに日本経済がもつのかなという話です。3.11で国が変わると思ったら意外と変わらず、それどころか政治が停滞したまま今年は終わりそう。これで大丈夫なのかというのが最近の僕の心配事です。ですからここにいらっしゃる皆さんと、日本という国が失速する前に、新しい政治のカタチを作れたらいいなと思います。
今野：ありがとうございました。ソーシャルメディアを使って政治を変えるということは、まさに世界中の人たちを集めた集合知で本当の民主主義を機能させ、実現していくこと。今日新しい言葉として出た「IT党」ができ、その役割を担って動いてくれるといいですね。今日は本当にありがとうございました。
