(写真:アフロ)

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「『生きるべきか、死ぬべきか』このシェイクスピアの問いはよくご存じだろう。答えは明らかに『生きるべき』であり、自由であるべきだ。我々は決して降伏せず、決して敗北しない」

こう、ロシアに屈しない姿勢を宣言したのはウクライナのゼレンスキー大統領(44)。これは、3月8日にイギリスの議会下院にオンラインで参加した際の演説だ。演説後、会場はスタンディングオーベーションに包まれた。

2月24日にプーチン大統領(69)が、ウクライナ東部への特別軍事作戦の決定を表明すると、ゼレンスキー大統領は同日、ロシア国民に向けて約9分間のスピーチ動画を公開。ロシア語で、「ウクライナの人々は平和を望んでいる」「戦争はあらゆる人々から安全を奪う。それによって最も犠牲になるのは誰だろう。人々だ」などと語りかけたのだ。

このスピーチは世界中で注目を集め、日本でも《素晴らしい》《涙が止まらない》と絶賛の声が相次いだ。

身を危険に晒しながらも、一貫して「国を守る」とのメッセージを発信し続けるゼレンスキー大統領。そんな彼の“スピーチ力”を評価する声も多い。実業家で「ひろゆき」こと西村博之氏(45)も自身のYouTubeで、ゼレンスキー大統領の演説を絶賛。24日に開かれたEU首脳の緊急議会で、ゼレンスキー大統領が「我々は、欧州の理想のために死んでいく」「生きて会えるのはこれが最後かもしれない」と支援を求めたことについて、「ゼレンスキー大統領、優秀すぎる」と語っていたのだ。

いったいなぜゼレンスキー大統領のスピーチは、人々の心を揺さぶるのだろうか? 本誌は『あの演説はなぜ人を動かしたのか』(PHP研究所)などを著書に持つ、コピーライターの川上徹也氏に聞いた。

川上氏は「話している内容が簡潔でとてもシンプル」と評した上で、「ゼレンスキー大統領は、映画やドラマのような『ストーリーの黄金律』の主人公であるからです」と説明する。

この「ストーリーの黄金律」とは、川上氏が考案した法則。「(1)何かが欠落した欠落させられた主人公が、(2)ちょっと無理なのではという高く険しい目標に向けて、(3)色々な障害や葛藤、敵対するもの、自分自身の弱さを乗り越えていく」という3つの条件を満たしたときに成立するというもの。

これをゼレンスキー大統領にあてはめると、次のように表せるという。

「(1)軍事大国ロシアに一方的に侵略されたウクライナの大統領が、(2)最後まで祖国ウクナイナのために戦い抜きロシアを撤退させるという目標に向かい、(3)押し寄せて来るロシア軍・空襲・参戦してくれないNATO、アメリカ・いつ暗殺されるかという恐怖と戦いながら、健気に頑張っている」

そんなゼレンスキー大統領が大統領選に当選したのは‘19年。それまではコメディアンとして活動し、テレビドラマで教師から大統領に転じた役を演じ人気を博していた。

「ゼレンスキー大統領は、話芸で笑いをとる『スタンダップコメディ』のスターでした。ただ政治経験が浅いこともあり、ロシアの軍事侵攻が始まる直前までは支持率が約40%だったいいます。ですが現在は90%を超えるほど、支持率が回復。ゼレンスキー大統領は頻繁にメッセージを発信することで、国民たちを鼓舞し、国際世論を動かしています」(全国紙記者)

■元コメディアンだった経歴との関係は?

コメディアン時代に培った話術やパフォーマンスのスキルが、演説に活かされているのだろうか?

「一般的に大統領はスーツにネクタイ姿が一般的ですが、ゼレンスキー大統領はTシャツなどで会見したり、自撮りで幹部たちと一緒に映ったり、臨場感を感じられる発信はとても上手い印象です。悪い言い方をしたら、役になりきって悲劇のヒーローを演じていると言えなくもありません。支持率も下がっていてすぐに逃げるだろうと思われていたゼレンスキー大統領が、逃げずに勇敢に立ち向かっているという意外性も、多くの人の心を打った理由でしょう。ただし、このように国民を巻き込み、軍事大国ロシアに総力戦で立ち向うことが正しかったかどうかは、このあとの結果を見てみないと現時点では何とも言えません」(川上氏)

それでは、プーチン大統領はどうだろうか。

特別軍事作戦を決定した際、テレビ演説で「ウクライナ政権によって8年間にわたり、虐待や集団虐殺を受けてきた人々を守ることが目的だ」「ウクライナの非軍事化、非ナチス化を目指し、ロシア国民に対して血生臭い罪を犯した者たちを裁く」などと糾弾したプーチン大統領。

その後、軍司令部に核抑止部隊を厳戒態勢にするよう命令。3月5日には欧米諸国などがロシアに対して経済制裁を強化したことについて、「宣戦布告のようなものだ」と牽制した。

その一方で、プーチン大統領は国内の反戦デモを取り締まり、言論統制を開始。主要なSNSへの接続を遮断すると発表し、「虚偽」と見なす情報を拡散した者には刑罰を科せるよう法律までも改正した。

スーツにネクタイ姿で安全な場所にいるプーチン大統領は、軍服を着て危険な場所にいるゼレンスキー大統領とは対照的。発せられるメッセージが威圧的に映る人も少なくないだろう。だが川上氏は、そんなプーチン大統領に“焦り”が見えると指摘する。

「世界から見ると、傲慢で無茶苦茶な論理で戦争を正当化しているにしか見えません。しかしながら、国内では(特にテレビなどのオールドメディアしか見ない層には)、それがむしろプラスに働いているかもしれません。プーチン大統領の誤算は、SNSが浸透していることで昔のような情報統制ができてなかったため、従来のようなプロパンガンダが効いてないということでしょうか。だからこそ、今、法律等を作って情報統制に躍起になっているのだと思います」(川上氏)

ゼレンスキー大統領の演説を機に一刻も早く、ウクライナに、世界に平和が訪れてほしいものだ――。