なぜ「クラウン」がセダンから脱却? SUV人気の裏でセダンが続々と廃止される理由

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なぜ国産セダンが次々に生産終了となってしまうのか?

 2020年11月に「トヨタ次期『クラウン』がクロスオーバー化する」という報道が流れました。

 果たして本当なのか、トヨタに問い合わせると「弊社が発信した情報ではありません。車両の開発では常にいろいろな可能性を検討しています」という回答でした。

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 それでも複数の情報から考えると、クラウンは従来のセダンから脱却する可能性がありそうです。

クラウンは本当にセダンから脱却するのか!?

 トヨタでは、「マークX」がすでに2019年に終了しており、ミドルサイズセダンの「プレミオ/アリオン」も2021年3月末に生産を終えることから、セダンのラインナップが大幅に減ります。

 残るのはクラウンと2019年にフルモデルチェンジした「カローラ」および継続生産型の「カローラアクシオ」、「カムリ」、燃料電池車の「MIRAI(ミライ)」、「センチュリー」のみです。

 クラウンまでセダンがなくなると、法人向けを除いた一般ユーザーに適するセダンは、カローラとカムリのみになります。

 最近ほかのメーカーでもセダンは減っており、日産は「ティアナ」の販売を終えました。「シルフィ」も生産が終わり、販売店では「ほとんど在庫車は残っていません。次期型の話も聞いていません」とのことです。

 ホンダは「シビックセダン」と「グレイス」が2020年夏に終了。スバルはレガシィアウトバックの新型を販売する予定とされていますが、セダンの「レガシィB4」の新型は日本国内には投入しないようです。

 こうなると一般ユーザー向けの国産セダンは、車種数が比較的多いレクサスを加えても15車種程度です。

 セダンの車種数が減った一番の理由は、売れ行きの低下です。いまから40年ほど前の1980年代までは、国内で販売される乗用車の約40%がセダンでした。軽自動車は20%を少し超える程度です。

 当時はクラウンも5ナンバーサイズが基本で、最盛期の1990年には1年間にクラウンシリーズ全体で20万台以上を登録。トヨタ「マークII(マークXの前身)」は22万台を超えています。

 2020年にもっとも多く売れたホンダ「N-BOX」が約19万6000台ですから、当時のクラウンやマークIIは絶好調でした。

 国内販売台数も1990年は778万台なので、2020年の1.7倍です。セダンを主力に、国内販売は頂点をきわめました。

 ところが1989年に、消費税の導入と併せて自動車税を改訂すると、セダンの売れ行きが下がり始めました。

 3ナンバー車の税制不利が撤廃され、海外向けに造られた3ナンバー車のセダンを国内にも投入したからです。

 ボディの拡大よりも、日本のユーザーが好まないデザインや運転感覚がセダン衰退の原因でした。

 加えて1990年代の中盤以降は、5ナンバーサイズのミニバンが数多く登場して、セダンからファミリー需要を奪いました。

 1998年には軽自動車が規格を変更して、ボディサイズが今日と同じになり、商品力を高めて売れ行きも急増しました。

 景気の悪化に伴う平均所得の減少もセダン衰退の一因です。平均所得は1990年代の後半から減り始め、いまは少し持ち直しましたが20年前の水準には戻っていません。

セダンの衰退と合わせるように国内の新車販売も低下

 その一方で安全装備の充実などにより、クルマの価格は高まりました。

 2000年頃には、1.5リッターエンジンの「カローラセダン」が約150万円で用意されていました。1.8リッターの「コロナプレミオ」は約180万円、2リッターのマークIIは約240万円です。「クラウン2.5ロイヤルサルーン」は約340万円でした。

いまもっとも売れてる軽自動車のホンダ「N-BOX」

 それがいまでは購入可能な車種が大幅に変わり、150万円で選べるのはカローラセダンではなくN-BOXのような軽自動車です。

 180万円はトヨタ「ヤリス」やホンダ「フィット」のノーマルエンジン車、240万円はトヨタ「C-HR」などのコンパクトSUV、340万円ならトヨタ「ヴォクシーハイブリッド」という具合です。

 いまのクラウンはもっとも安価なグレードでも489万9000円で、売れ筋の「ハイブリッドRS」は531万9000円ですから、20年前に比べて約200万円高くなっています。

 ここまでクルマの価格が上昇して、所得は逆に下がると、小さなクルマに乗り替えるユーザーが増えます。

 最近では新車として売られるクルマの37%が軽自動車で、次に多いのがコンパクトカー(26%)です。ミニバンは15%、SUVは13%で、セダンは約8%まで下がりました。

 セダンの衰退と足並みをそろえて、国内の販売台数も低下。最近は1年間に460万台から520万台で推移しています。

 1990年は前述の778万台ですから、セダンの衰退と併せて国内市場全体が30%から40%低下しました。

 200万円前後の価格帯で、日本のユーザーから歓迎されるセダンや趣味性の強いクルマを積極的に開発していたら、国内市場にはもう少し元気があったかも知れません。

 現時点では、セダンに代わりになるカテゴリとして、SUVが注目されています。

 SUVの居住空間は、セダンとミニバンの間に位置しており、車種によってはコンパクトな3列目シートを装着しています。

 子育てを終えて車内の広いミニバンから乗り替えるときも、セダンやワゴンでは天井が低くて窮屈ですが、SUVなら不満を感じません。

 さらにSUVは、ミニバンに比べると外観に存在感があってカッコ良く、走行性能も高めやすいです。

 そのため、セダンの売れ行きと車種数が減る代わりにSUVが増えました。セダンの穴を埋めるのがSUVともいえるでしょう。

 このように考えると、次期クラウンをクロスオーバー化する趣旨も理解できますが、セダンとSUVの機能を混同することはできません。

 セダンはSUVに比べて重心が低く、後席とトランクスペースの間には骨格や隔壁があって、ボディ剛性も高めやすいからです。

 最良の安全性や快適性を確保するにはセダンボディが最適です。

 そしてクラウンは売れ筋価格帯が500万円から600万円なので、優れた乗り心地と静粛性、走行安定性、安心感の伴う上質な室内空間が不可欠。

 そうなるとセダン以外のボディスタイルで、最良のクラウンを開発するのは困難でしょう。今後もクラウンには、セダンの価値を追求して欲しいです。

 ちなみに最近はクラウンのユーザーが高齢化しているので、現行型は若返りを図りました。

 内外装や運転感覚がスポーティになり、「ロイヤルサルーン」と「マジェスタ」は廃止しています。そのために売れ行きが下がりましたが、今後もセダンボディを継承しながら修正を加えれば良いでしょう。

 逆にクロスオーバーに変更するなら、クラウンをマークXやプレミオ&アリオンと同様に廃止した方が潔いです。100年に1度の変革期に「クラウン時代のトヨタ」に別れを告げ、新しい世界へ踏み出すわけです。